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第600話 

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 アリスはアンソニー達に荷物を送りディノの寝室に移動すると、そこには子どもたちも含めた全員が既に大集合していた。

「ノエル! アミナス! それからレオとカイとレックスも! まとめてハグッ!」

 子どもたちは子どもたちで自分たちに出来る任務を遂行していたと聞いていたアリスは、全員を無理やり捕まえてハグするとニカッと笑った。

「皆、お疲れ様! それで、どうしてアミナスはこんなにもむくれてるの?」
「あー……うん、睡眠不足だと思う……」

 アリスにはぐされても頬を膨らませて無言のアミナスを見てノエルが苦笑いしながら言うと、それを聞いたアリスは笑った。

「睡眠不足か! それじゃあこれ、はいアミナス」

 アリスは自分のポシェットからおにぎりを取り出してアミナスに渡すと腰に手を当てて言う。

「アミナス! 良いか、よく聞け! 我々生物はいついかなる時でも睡眠と食事は欠かせない! しかし人間はいくら望んでも睡眠を削らなければならない時が必ず訪れるのだ! その為に私は食事で睡眠を補うという技を思いついた! 君も早くここまでやってくるといい!」
「睡眠を食事で補うって……そんな無茶苦茶な……」

 相変わらず芝居がかったアリスの言葉にノエル達顔を見合わせて首を傾げたが、おにぎりを受け取ったアミナスだけはその言葉に感銘を受けたかのように目を見開いている。

「睡眠を……食事で補う……分かった! 母さま! むしゃあ!」

 アリスの言う通りおにぎりを齧ったアミナスは、体にどんどんエネルギーが溜まっていくのを感じる。アリスの言う事はいつも正しい!

 すっかり元気になったアミナスを見てノアはぼそりとキリを見て言った。

「アリスとアミナスの塩基配列は一体どんな構造をしてるんだと思う?」

 おにぎりを食べるだけでエネルギーをチャージするアミナスを見てノアは真剣に考え込む。

「さあ……一つ言えるのは、少なくとも我々とは違う生命体に違いないということでしょうか」
「羨ましい体質だな。是非俺も会得したいものだ」
「ダメダメ! 神様が予めちゃんと睡眠と食事を分けてくれてるんだから、わざわざそれに逆らうような進化しなくていいよ!」

 真顔でそんな事を言うアーロに思わずリアンが突っ込むと、離れた所からアランと共に戻ってきていたユアンも無言で頷いている。

「まぁとりあえず皆無事で良かったよ。師匠はティナさん達の所に居たの?」
「ああ。こいつらが思いついた作戦実行する為にチャップマン紹介の倉庫に向かったって聞いたから急いで向かったんだが、既に終わった後だったんだ」
「そうだったんだ。それで? 作戦は上手くいったの?」

 ノアがノエルに問いかけると、ノエルはコクリと頷いた。

「キャロライン様達が来てくれたから大丈夫だったよ。ライラさんは強かったし、ティナの魂を発光させる魔法も凄かった! 光りで人形たちを撃退できたんだ」
「あれで凄かったのは専らアミナスだけだったがな」

 苦笑いを浮かべてそんな事を言うティナに、仲間たちは全員納得したように頷く。

「眩しすぎて直視できなかった」

 ティナの言葉を引き継ぐようにレックスが言うと、ルイスが笑いながら言う。

「アリスとアミナスの魂を光らせたら、それはもう眩しいだろうな!」

 何の気無しに言ったルイスだったが、その言葉にノアがぽんと手を打つ。

「それいいかも。ティナ、アリスにもその魔法かけてみてよ」
「こ、ここでか!? どうなっても私は知らんぞ?」
「うん、大丈夫大丈夫!」

 まさかそこまでの威力だとは思っても居ないノアが軽い口調で言うと、アミナス以外の子どもたちが必死になってノアに飛びついてきた。

「駄目! 絶対駄目だよ、父さま!」
「そうですよ! 何を馬鹿なことを仰ってるんですか!」
「皆で仲良く失明したいのですか!?」
「アリスとアミナス二人が発光したらこの部屋に太陽が2つ入り込んでくるようなもの。絶対に止めた方がいいと思う」
「ノア様、この子達がここまで言うという事は相当にヤバいという事です。今すぐ撤回してください」
「えー……ちょっと見てみたかったのにな、発光アリス。まぁ皆がそこまで言うのなら止めとくよ。でもティナ、それはそれとして魂を可視化出来るのは役に立つかもしれない」
「どういう事だよ? 何か思いついたのか?」

 カインの言葉にノアは頷いて話しだした。

「皆、覚えてる? 妖精王とアリスが初めて会った時の事」
「アリスと妖精王が初めて会った時……っすか?」
「そう。あの時、妖精王はアリスに近づくなって言ったんだよ。魂の色が尋常じゃなくて怖い、って」
「そう言えば言っていましたね。というか、妖精達は未だにアリスの生命力は怖いようですよ」

 アリスが怖いと言って未だにシャルルに相談しにくる妖精が居るぐらいだ。それを告げると、アリスは一人頬を膨らませている。

「それは言えてる。フィルもマーガレットも一定以上アリスには近寄らないもんな」
「ね? てことはさ、もしかしたらオズもヴァニタスもそうなんじゃないかな? それに、古代妖精も」

 ノアの言葉にその場に居た全員がハッとした顔をしてアリスを見た。皆の視線を一気に集めたアリスは嬉しいのか今度は照れている。

「ノア様の言葉、一理あると思います」
「ライラ! 起きたの!」

 ディノのベッドの端っこで静かに寝かされていたライラをずっと心配していたリアンは、突然むくりと起き上がったライラに素直に顔を輝かせる。

「心配かけてごめんね、リー君」
「ほんとだよ! あれほど無茶はするなって言ったのに!」
「気をつけてはいたんだけど、建物に群がる人形たちを見てたら何だかすごくイライラしてきちゃって……気づいたら怒髪天を衝いていたの」
「いや……そんな小説でしか読まないような単語急に使われても……まぁ無事で良かったよ。今度は無茶しないでよね!」
「分かってるわ。それでさっきの話なんだけど」

 起き上がってドレスの裾を直しながらライラが言うと、ノアは頷く。

「アリスは普段から恐ろしいほどの後光を背負っているんです」
「……それ見えるのは恐らくライラちゃんだけだけどな」
「っす」

 苦笑いしながらカインが言うと、オリバーが真顔で頷くが、それを無視してライラは続けた。

「それが、怒りがマックスになった時、凄まじい光りを放つんです。もしかしたらそれが見えるようになれば、一帯の人形たちを一斉に還らせる事が出来ると思うんです!」

 拳を握りしめてそんな事を言うライラに誰も言葉を発しない。これほどの名案は無いはずだと思いこんでいるライラには、だから皆の反応に首を傾げてしまう。

「あ……ええ、そうね、ライラ。それはとても何ていうか、斬新で素晴らしい案だとは思うのだけれど、アリスには他にもしてほしい事があるし、もうすぐ妖精王も戻ってきてくださるわ。それを待ちましょう?」

 ライラの勢いが凄くて今にも実行してしまいそうなライラを落ち着かせながらキャロラインが言うと、リアンも頷いている。

「そうだよ、ライラ。妖精王がもうすぐ戻って来るんだから人形は一旦妖精王に任せよう。とりあえず僕たちはアーロが言ってた作戦を実行すべきだと思う」
「そうだね。というわけでライラちゃん、アリス発光は切り札として取っておこう。今はまず、ディノを目覚めさせるのが先だよ」

 ノアが言うと、ライラはしょんぼりした様子で頷いたが、ライラの気持ちはよく分かる。ノアだって早く人形たちを一掃してしまいたい。

 でもそれをするにはまず下準備が大切だ。ノアは言いながら仲間たちと顔を突き合わせて念入りに作戦を立て始めた。
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