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第601話
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「ルイス様はあっちじゃないんですか?」
アリスが問いかけると、ルイスは苦い顔をして言う。
「ああ。邪魔だと放り出されたんだ。俺はゴーサインだけを出せ、と……」
悲しいかなアリスぐらいお花畑のルイスは、作戦会議にはいつも混ぜてはもらえない。そんなルイスの肩を慰めるようにキリが叩いた。仮にも王に対してこの気安さは一体何なのだろうか。
「ルイス様、その代わりに王妃が頑張ってくれているではないですか。得意な事は得意な人がすればいいのです。あなたはおが屑らしくここでお茶でも飲んでいてください、木っ端と」
言いながらキリはルイスとアリスの前に出がらしのお茶を出した。
「そ、それは慰めていないな!?」
「ねぇ! どうしていっつも私に飛び火するの!? あとお茶真っ黒なんだけど!?」
「今は戦時中です。贅沢を言わないでください」
「贅沢じゃないよ! あんたは普通の飲んでるじゃん!」
それでも出された物は絶対に残さないアリスは、渋々顔をしかめながらお茶を飲んだ。その隣ですでにルイスは諦めたかのように大人しく渋いお茶を飲んでいる。
「ねぇ、あれ一応王様なのにさ、扱いが学生の頃から全然変わんないね」
「むしろ酷くなってるまであるっす。ルイスも反抗するの止めてるし」
「そりゃそうだろ。あれに口喧嘩で勝つのは骨が折れるんじゃねぇか?」
「ユアン! おかえり」
リアンとオリバーがコソコソと話していると、後ろからアンソニー達を送り出して戻ってきたユアンがお茶とおにぎりを持ってやってきた。
「にしてもここにも不思議な物が山ほどあるな」
やかんにしてもおにぎりにしてもそうだが、この小さな部屋にはユアンが見たこともないような物で溢れている。
「まぁね。あいつら姉妹星の記憶持ちだからね」
リアンはそう言ってノアとアリスとシャルを指差すと、ユアンは何かに納得したように頷いた。
「あれ? ユアン驚かないんすか?」
「今更だろ。姉妹星の存在自体はアンソニー達から聞いてたし、実際この中の誰かがあちらの記憶があるはずだって所から話が始まってんだから」
「そか。それもそうだよね。鉛筆だっけ?」
「そう。アンソニー達のおやじが残した『あったら便利』ノートに書いてあったらしい。その他にも色々あったみたいだけどな」
「『あったら便利』ノートか……それアンソニー達が戻ってきたら見せてくんないかなぁ」
リアンがポツリと言うと、ユアンは首を傾げてオリバーは白い目を向けてくる。
「リー君、そこに何か次のヒット商品のヒント探そうとしてるっしょ?」
「あ、バレた? いいじゃん! 楽しい未来を思い描くのは大切な事だよ」
「そんなアリスみたいな事言って……」
どんどんアリスに染まっていくリアンにオリバーが苦笑いを浮かべると、ふと真顔になったリアンが言った。
「ところでさ、パパ」
「おう」
もう誰にパパと呼ばれても気にならなくなってきたユアンが返事をすると、そんなユアンをリアンがじっと見上げてくる。
「あんた、アメリア達とどうやって仲良くなったのさ? 僕ずっと気になってたんだよ」
「どういう事っすか?」
「だってね、不思議じゃない? 前の戦争の時にアメリア達はパパは処刑されたって思いこんでた。そもそもあの時の教会のトップはカールだった訳でしょ? 僕たちは結構長いことアメリアはカールの娘だって思い込んでたし、アメリアが処刑したって思ってたよね?」
「そう言えばそっすね。そこらへんはどうなんすか? ユアン」
「アメリアが自分の本当の父親を処刑したのは本当だ。あいつが女王になった時にそれを実行した。カール、というかあの時の教会の権力者を処刑するって名目でな」
「名目?」
「そう、ただの名目だ。実際あの当時教会の権力を握っていたのはニコラだ。カールはその時すでにメイリングで王をやっていたから名前だけをニコラに貸していた。アメリアの父親は確かに教会のトップだったが、あの時既に教会からは追放されていてな。何せ聖職者の癖にシスターに手を出し続けた不届き者だ。そこに目をつけた俺たちはニコラを次期教祖として教会に送り込み、教会を乗っ取る為に動いた。そこにアメリアは目をつけたんだ」
「なるほどね。そういう事だったんだ。で、アメリアは女王になって教会ごと潰そうとしたって事?」
「いや、乗っ取ろうとしたんだよ。レヴィウスの女王になったアメリアは教会を追放された自分の父親を探し出し、皆の前で処刑した。カール、というその時の教祖の名前を使ってな」
「出し抜かれたって事っすか?」
「まぁ、そうだな。これから新教会を元の正しい教会に再興させようとしてた矢先の話だったから」
「先に手、打たれちゃったんだね。おまけにニコラさんはオズがこっちに来た時に姉妹星に行ったんだよね?」
「ああ、よく知ってんな。ニコラが教祖になってまず初めにしたのは全ての信者への覆面着用の義務付けだった。それはこちらの顔を隠すためと、顔を隠すことで何か崇高な秘密結社であるかのように思わせたかったんだが、アメリアはそれを上手いこと利用したんだ。最初は自分も覆面をして素性を隠してな。女王になった自分の監視下に置くにはちょうど良かったんだろう。レヴィウスの王政が終わったら今度は自分を聖女と偽り旧教会から盗んだオピリアを使って少しずつ教会の信者たちを味方につけた。その頃ニコラはリー君の言う通り既に姉妹星に行ってしまっていたから、実際の教会の運営はレヴェナがしていたんだ。とは言えレヴェナは王妃だ。ずっと教会に入り浸っている訳にはいかないだろ?」
「それはそだね。それじゃあまさか、レヴェナ王妃ってその時からオピリアを盛られてたの? そもそもどうしてレヴェナ王妃がそんな事してたのさ?」
「そうだ。レヴェナが教会を管理する事で、教会の後ろ盾にはメイリングがいるって暗に匂わせたかったんだ。けどレヴェナがオピリアに侵されていると分かった時から俺たちの計画は書き換わったんだ。薬を盛られている事に気付いたレヴェナは自分を囮にしてアメリアを嵌めようと言い出した。それがあの戦争の直前の話だ。それにしてもあの覆面をアメリアだけじゃなくてお前らまで都合よく利用するとは思ってもなかったってあのチビ誘拐事件の時にアンソニーは笑ってたぞ」
「それ、ドロシーの事っすよね? ……それじゃあ前の戦争の時にはアメリアは本当にユアン達の存在を知らなかったんすか」
シレっとそんな事を言うユアンを思わずオリバーが半眼で睨みつけると、ユアンは肩を竦めて見せた。
アリスが問いかけると、ルイスは苦い顔をして言う。
「ああ。邪魔だと放り出されたんだ。俺はゴーサインだけを出せ、と……」
悲しいかなアリスぐらいお花畑のルイスは、作戦会議にはいつも混ぜてはもらえない。そんなルイスの肩を慰めるようにキリが叩いた。仮にも王に対してこの気安さは一体何なのだろうか。
「ルイス様、その代わりに王妃が頑張ってくれているではないですか。得意な事は得意な人がすればいいのです。あなたはおが屑らしくここでお茶でも飲んでいてください、木っ端と」
言いながらキリはルイスとアリスの前に出がらしのお茶を出した。
「そ、それは慰めていないな!?」
「ねぇ! どうしていっつも私に飛び火するの!? あとお茶真っ黒なんだけど!?」
「今は戦時中です。贅沢を言わないでください」
「贅沢じゃないよ! あんたは普通の飲んでるじゃん!」
それでも出された物は絶対に残さないアリスは、渋々顔をしかめながらお茶を飲んだ。その隣ですでにルイスは諦めたかのように大人しく渋いお茶を飲んでいる。
「ねぇ、あれ一応王様なのにさ、扱いが学生の頃から全然変わんないね」
「むしろ酷くなってるまであるっす。ルイスも反抗するの止めてるし」
「そりゃそうだろ。あれに口喧嘩で勝つのは骨が折れるんじゃねぇか?」
「ユアン! おかえり」
リアンとオリバーがコソコソと話していると、後ろからアンソニー達を送り出して戻ってきたユアンがお茶とおにぎりを持ってやってきた。
「にしてもここにも不思議な物が山ほどあるな」
やかんにしてもおにぎりにしてもそうだが、この小さな部屋にはユアンが見たこともないような物で溢れている。
「まぁね。あいつら姉妹星の記憶持ちだからね」
リアンはそう言ってノアとアリスとシャルを指差すと、ユアンは何かに納得したように頷いた。
「あれ? ユアン驚かないんすか?」
「今更だろ。姉妹星の存在自体はアンソニー達から聞いてたし、実際この中の誰かがあちらの記憶があるはずだって所から話が始まってんだから」
「そか。それもそうだよね。鉛筆だっけ?」
「そう。アンソニー達のおやじが残した『あったら便利』ノートに書いてあったらしい。その他にも色々あったみたいだけどな」
「『あったら便利』ノートか……それアンソニー達が戻ってきたら見せてくんないかなぁ」
リアンがポツリと言うと、ユアンは首を傾げてオリバーは白い目を向けてくる。
「リー君、そこに何か次のヒット商品のヒント探そうとしてるっしょ?」
「あ、バレた? いいじゃん! 楽しい未来を思い描くのは大切な事だよ」
「そんなアリスみたいな事言って……」
どんどんアリスに染まっていくリアンにオリバーが苦笑いを浮かべると、ふと真顔になったリアンが言った。
「ところでさ、パパ」
「おう」
もう誰にパパと呼ばれても気にならなくなってきたユアンが返事をすると、そんなユアンをリアンがじっと見上げてくる。
「あんた、アメリア達とどうやって仲良くなったのさ? 僕ずっと気になってたんだよ」
「どういう事っすか?」
「だってね、不思議じゃない? 前の戦争の時にアメリア達はパパは処刑されたって思いこんでた。そもそもあの時の教会のトップはカールだった訳でしょ? 僕たちは結構長いことアメリアはカールの娘だって思い込んでたし、アメリアが処刑したって思ってたよね?」
「そう言えばそっすね。そこらへんはどうなんすか? ユアン」
「アメリアが自分の本当の父親を処刑したのは本当だ。あいつが女王になった時にそれを実行した。カール、というかあの時の教会の権力者を処刑するって名目でな」
「名目?」
「そう、ただの名目だ。実際あの当時教会の権力を握っていたのはニコラだ。カールはその時すでにメイリングで王をやっていたから名前だけをニコラに貸していた。アメリアの父親は確かに教会のトップだったが、あの時既に教会からは追放されていてな。何せ聖職者の癖にシスターに手を出し続けた不届き者だ。そこに目をつけた俺たちはニコラを次期教祖として教会に送り込み、教会を乗っ取る為に動いた。そこにアメリアは目をつけたんだ」
「なるほどね。そういう事だったんだ。で、アメリアは女王になって教会ごと潰そうとしたって事?」
「いや、乗っ取ろうとしたんだよ。レヴィウスの女王になったアメリアは教会を追放された自分の父親を探し出し、皆の前で処刑した。カール、というその時の教祖の名前を使ってな」
「出し抜かれたって事っすか?」
「まぁ、そうだな。これから新教会を元の正しい教会に再興させようとしてた矢先の話だったから」
「先に手、打たれちゃったんだね。おまけにニコラさんはオズがこっちに来た時に姉妹星に行ったんだよね?」
「ああ、よく知ってんな。ニコラが教祖になってまず初めにしたのは全ての信者への覆面着用の義務付けだった。それはこちらの顔を隠すためと、顔を隠すことで何か崇高な秘密結社であるかのように思わせたかったんだが、アメリアはそれを上手いこと利用したんだ。最初は自分も覆面をして素性を隠してな。女王になった自分の監視下に置くにはちょうど良かったんだろう。レヴィウスの王政が終わったら今度は自分を聖女と偽り旧教会から盗んだオピリアを使って少しずつ教会の信者たちを味方につけた。その頃ニコラはリー君の言う通り既に姉妹星に行ってしまっていたから、実際の教会の運営はレヴェナがしていたんだ。とは言えレヴェナは王妃だ。ずっと教会に入り浸っている訳にはいかないだろ?」
「それはそだね。それじゃあまさか、レヴェナ王妃ってその時からオピリアを盛られてたの? そもそもどうしてレヴェナ王妃がそんな事してたのさ?」
「そうだ。レヴェナが教会を管理する事で、教会の後ろ盾にはメイリングがいるって暗に匂わせたかったんだ。けどレヴェナがオピリアに侵されていると分かった時から俺たちの計画は書き換わったんだ。薬を盛られている事に気付いたレヴェナは自分を囮にしてアメリアを嵌めようと言い出した。それがあの戦争の直前の話だ。それにしてもあの覆面をアメリアだけじゃなくてお前らまで都合よく利用するとは思ってもなかったってあのチビ誘拐事件の時にアンソニーは笑ってたぞ」
「それ、ドロシーの事っすよね? ……それじゃあ前の戦争の時にはアメリアは本当にユアン達の存在を知らなかったんすか」
シレっとそんな事を言うユアンを思わずオリバーが半眼で睨みつけると、ユアンは肩を竦めて見せた。
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