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第602話

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「ああ。それから俺たちはキャスパーを使ってアメリアに秘密の島の情報を流し始めた。そうすればアメリアは絶対に食いつく。何せあいつは全世界を手に入れたかったんだ。案の定アメリアはレヴィウスとの戦いを放り出して標的を秘密の島に乗り換えた。その間に俺たちは教会に潜り込み教会の中からアメリアの出自の秘密を持ち出してエリスに渡したんだ。そしてこちら側の騎士たちを使いレヴィウスとの戦争を続けさせた」

 ユアンの言葉にそれまでじっと聞いていたアリスとルイスが同時に声を上げる。

「な、何て危ない橋を渡るんだ!」
「じゃ、じゃあパパ達がアメリアに島を襲わせたの!?」
「そうだ。悪いとは思ったが、こうするしか無かったんだよ」

 お花畑二人に真正面から言われると辛いユアンが視線を伏せると、それを聞いてルイスとアリスは互いの顔を見合わせて小さな息をついた。

「まぁでも、実際そうするしか無かったんだろうな、今の状態を見ていると」
「……うん」

 戦争大嫌いなアリスが俯くと、そんなアリスの肩をルイスが慰めるように撫でる。

「だがな、アリス! よく考えれば確かにユアン達がアメリアをこちらに仕向けて来た訳だが、そこに至るまでのお膳立てはしっかりとされていた。つまり、考えなしに俺たちに戦争をしかけてきた訳じゃないって事だぞ!」
「そう……そうだよね! こっちが勝てるって思ったからパパ達は私達に戦争ふっかけてきたんだよね!?」
「お、おう、まぁな」

 アリスのあまりの勢いに思わずユアンは頷いたが、実際はそうではない。秘密の島が勝っても負けてもアンソニー達の目的は星そのものの存続だったのだ。その為にアリス達を巻き込んだに他ならない。というのも、当時ルーデリアで鉱夫として働いていたアルファを通じてアリス達の話はしっかり聞いていたからだ。

 流石にアリスがあそこまで人間離れをしているとは思ってもいなかったが、少なくとも優秀な人材が揃っている事は分かっていたし、何よりもアンソニー達がずっと全ての王族達の末裔を裏からずっと操ってきたのだ。全ての戦争も出来事も、綿密に立てられた計画のうちの一つにしか過ぎなかった。

「で、戦争が終わったあと、あんた達は手を組んだの?」

 呆れたようなリアンの言葉にユアンはお茶をすすりながら頷いた。

「ああ。大変だったんだぞ、あいつら探し出すの。二人共ヨボヨボの婆さんになっちまってるし」
「いや、まさか裏でそんな計画が進んでるなんて思っても無かったんでそこはお互い様っすよ。てか奴隷はどうなんすか? あれもアメリア達の仕業なんすよね?」
「奴隷な、あれはもう大分古いんだ。それを教会を乗っ取ったアメリアが継いでただけだよ。実際俺たちは星そのものを救うために動いてたんだ。だから多少の事は目を瞑っていた。もちろん最終的には見逃すつもりなんて無かったが実際にはそっちにまで手が回らなかったんだ。だから想定外の被害者が出ちまった……。そこに自分の家も絡んでんだ。本気で家を物理で壊してやろうって何度思ったか……」

 そう言って視線を伏せたユアンを見てアリスが立ち上がった。

「パパ! 大丈夫だよ! パパの家はもうとっくに私が解体してきたからね!」
「は?」
「あ、言うの忘れてたね。あんたんち、もう跡形もないよ」
「え?」
「あんたが残したヒントの書類引き上げたあと、こいつがあんたの言う通り物理で綺麗さっぱり壊しちゃったんだよね」
「……お、おう、そうか……え? 素手で?」
「うん!」

 ポカンとしたユアンにアリスは自信満々に頷いてポージングをしてみせると、ユアンは何とも言えない顔をしたかと思ったら、突然吹き出した。

「っ……はは! 親父もお袋もまさか孫に家壊されたなんて死んでも思わないだろうな! ざまぁみろ!」
「えへへ!」

 何だかユアンが嬉しそうに笑うのが新鮮でアリスも思わず笑ってしまった。

「ところで話しを戻しますが」
「お、おう。何だよ?」
「その後、アメリア達と手を組んでアメリア達を若返らせ、今に至るという事でしょうか?」
「ああ。どのみちアメリア達を野放しにしておく気はなかったんだ。ただ、ディノの地下の存在をあいつらに教えるのは俺は反対したんだがな。実際教えはしたがアメリア達は長い間ディノの地下には入ることが出来なかったんだ。それはディノに許されなかった。だからあいつらがディノの四季の庭に入れたのは割と最近なんだよ。まぁ、それだけディノの力が弱ってたって話なんだが」

 そう言ってユアンは視線を伏せたが、キリはそれを聞いて頷いただけだった。

「それは仕方なかったのでしょう。アメリアがあなた達を信用しなければそもそも意味がない。あちらはモルガナを人質にしていたのでしょうから」
「そうなんだ。結局俺たちが監視したかったのはアメリアじゃない。モルガナのバラだ。あいつはそれもちゃんと理解してた。だからこちらに恩を売るつもりでこちらについたんだよ。途中で先にアメリアを排除しようって話しも出たんだが、お前と一緒だよ」

 そう言ってユアンはアリスを指差す。

「アンソニーはアメリアを捕まえて処分したところで、アメリアが生きて罪を償わなければ意味が無いと考えた。何よりもアメリアが居なくなればトップを失った下っ端が今度は上に来るだけだ。それじゃあいくら星を救った所で意味がない。で、結局今の状態になったって訳だ。アメリアは初代聖女の末裔で、俺とアーロはリセット前に居た人間の末裔。お前らにしてもこちらにしても、ようやく役者が揃ったんだよ」
「なるほどねぇ。ずっと疑問だったからやっとスッキリしたよ」

 リアンが腕を組んで納得したように頷いたその時、ノア達の方から声が上がった。


「それは本当なの? ノエル」

 キャロラインの言葉にノエルは真剣な顔をして頷いた。

「うん。観測者さんも居たから間違いないよ。ね?」
「ええ……私もちょっと信じられなかったけど、絵美里は時を戻す魔法だって言ってたわ。絵美里はそのせいで精神病んじゃってたけどね」
「どういう原理なのでしょう? アメリアの魔法は確か自白ですよね?」
「そのはずだけどね。実際僕は彼女の魔法を使われてたと思うから間違いないと思うよ」

 レヴィウスで幽閉されていた時、ノアはアメリアの魔法によってアリス達の事を喋ってしまっていたから間違いないはずだ。

「だとしたら、どうやってそれをやったかって事だよな。時を戻す魔法なんて使えるのは妖精王ぐらいだろ?」
「本当に時間を戻す魔法ならね」
「どういう意味ですか? 観測者さん」

 観測者の言い方が気になったライラが首を傾げると、観測者はため息交じりに言う。

「アメリアが次元を開く原子複製転移装置を持っていた。古代の知識を彼女たちがどこまで持っているか分からないけれど、アメリアは絵美里に嘘をついた可能性があるわ」

 そこまで言って観測者は俯いて小さく舌打ちをする。古代の技術はまだ解禁されていない。どうしてソラはこの事を放置していたのか、本気で謎だ。
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