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第603話

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「アメリアが絵美里にしたのは魔法ではなく、技術って事か。ということは、古代の技術には若返りの技術もあったって事だよね?」
「そうよ。蓋を開けたら簡単な話なの。要はテロメアを修復出来たのよ」
「テロメアを?」

 怪訝な顔をしたノアとシャルに観測者は頷く。

 けれどテロメアという単語を聞いて仲間たちは首を傾げるばかりだが、そんな中アーロがポツリと言う。

「悪いがどちらかそのテロメアの説明をしてくれ」
「ああ、そうだよね。テロメアって言うのは命の回数券って言われている、生物が持ってる全ての染色体の末端にくっついてる物なんだけどね、これが細胞分裂を繰り返すうちにどんどん短くなる事で生き物は老化していくんだ。観測者が言ったのは、つまりこのテロメアっていう所を修復してしまう技術って事だよ」
「それじゃあ……死ななくならないか?」
「どうかな。僕が居た時代では少なくともそれは確立されていなかった。ただ分かるのは、アメリアは絵美里にはその技術を使ったかもしれない。でも、自分には使わずに彼女は賢者の石を探してる。これが答えだと思うよ」
「それはつまり、絵美里を実験台にしたと言うこと?」
「そうなるね。恐らくアメリアは若返りの技術だけは知っていたけれど、それについてのリスクは知らない。だから絵美里で実験をしたけど、絵美里は精神がおかしくなってしまった。だから彼女はその答えが収められているであろう、賢者の石が欲しかった。そういう事だと思うよ」

 どこまでも自分本位で最低だ。ノアはいつものニコっも忘れて思わず真顔になってしまった。これはもう野放しにはしておけない。アメリアは本気で悪魔だ。

「それは……もしかしたら以前からアメリは実験をしていた可能性がありますね」

 ノアの言葉を聞いて拳を握りしめながらシャルルが言うと、それに対してアランも頷いた。

「僕もそう思います。彼女は前回の戦争の時からもしかしたらそれをしていた可能性もありますよね。そう、例えば前回の戦争の時にフェアリーサークルを通って年老いてしまった人たちとかに」
「……ありえるな」

 エリスはアランの言葉に大きく頷いた。前回の戦争が起こる前、アメリアはフェアリーサークルを使って何人もの兵士を島に調査隊として送り込んでいた。その全ての人たちが運良く若返った訳ではないのだ。そんな彼らに若返らせると言ってアメリアが実験をしていたと考えるのは当然の事である。

「まぁ、テロメアを伸ばす為の実験なんて注射一本で済むからね。体の中に遺伝子を操作する薬剤を打ち込めばすぐだよ」
「そ、そうなのか? そんな簡単に遺伝子というのは書き換わるものなのか?」
「簡単だよ。遺伝子って体の中にあるから凄く複雑だと思ってるかもだけど、案外簡単に書き換える事が出来るんだよ、その技術を知ってさえいればね」

 だから野菜などあんなにも簡単に遺伝子を組み替える事が出来るのだ。野菜で出来て人間で出来ないはずがない。ノアの居た時代ではクローンの技術も既にあったし、デザイナーベビーを作るという技術もあった。そういう意味では何が出来ても最早おかしくない。

 実際に古代の技術に原子複製転移装置なんて物があったのだとしたら、そんな事は容易に出来ただろう。

「でも皮肉な話だよね。古代の技術をいくら知っていても、後世にはそのリスクは教えられてはいなかった。それは全て賢者の石という石に守られ、真の賢者しかそれを扱うことは許されなかった。結局、不用意にその技術に手を出した人たちは自ら破滅に向かうように設計されてたって事なんだから」

 感慨深そうにそんな事を言うノアに観測者は真顔で頷いた。

「当たり前よ。そういう技術が完全に解禁するためには星そのものの発展度が必要になるの。そこが発展していないのに一つの生物だけが進化したって意味ないわ」
「まぁそれをここで考えても仕方ないね。どちらにしてもアメリアには賢者の石は扱えない。ということは、危ないのは賢者の石を読み取る事が出来るレックスが危ないんだよ。アラン、もうゲートは壊してきたんだよね?」
「ええ。これがその装置です」

 アランはノアの言いつけを守ってきっちり鳥居を破壊して、手紙を送るだけのエネルギーを高速充填する装置を作った。それをノアに渡す。

 ついでにアンソニー達にもノアには内緒でこっそりと同じ装置を渡してきた。これで今後、アンソニー達が戻ってきても手紙のやりとりぐらいは姉妹星と出来るだろうと考えたのだ。

「ありがとう、アラン。ノエル、これから君たちにはディノを起こしに行ってもらう」
「え? いいの? 父さま」
「うん。アンソニー達があちらに行った事で、この星のエネルギーは多少消費出来た。ディノを蘇らせるぐらいの空きは出来たと思うよ」
「!」

 それを聞いて子どもたちは顔を見合わせて目を輝かせたが、ノアがその続きを静かに話し出す。

「ここからだよ、重要なのは。ディノが目覚めたら次にリゼを目覚めさせて欲しいんだ。リゼ、というか星の姫とディノに妖精王が開放したエネルギーをどこか一箇所にまとめる為の知恵を出してほしい」
「どうして?」
「ヴァニタスにこれ以上エネルギーを与えたくないからだよ」
「分かった。僕たちはもう地上には出ない方がいいよね?」
「そうだね。レックスが狙われるのは何が何でも避けたいし、何よりこれから地上は戦場になる。僕たちの合図があるまでは、君たちは今度こそ何が起こっても地下に居て欲しい」
「うん」

 ノエルは隣りにいたレックスとアミナスの手を強く握ると、しっかりと頷いた。それに続いてアミナスもレックスも双子達も頷く。

「うん、良い子。それじゃあお義父さん、アーロ、この子達をディノの所まで送ってやって」

 ノアが言うと、それを聞いてすぐさまユアンがお茶を吹き出した。

「はあ!? おっま、何言って――」
「行くぞユアン、時間が無い。お前たちもだ」

 声を荒らげたユアンの腕を有無を言わさずアーロが引っ張り歩き出す。それを見て子どもたちもゾロゾロとついて行く。

「くっそ! 覚えてろよ! お前、絶対に覚えてろよっ!!」

 アーロに引きずられながら怒鳴るユアンに、ノアは相変わらずニコッと笑っただけだ。

「はいはい、行ってらっしゃい、お義父さん」
「お義父さんって言うな! おい、チビどもちゃんと手は繋げよ!」
「はぁい!」

 相変わらずキーキーしながらも面倒見が良いユアンに子どもたちは互いの顔を見合わせて笑いながら返事をした。
 

「あんたね、どうしてあんな事するの」

 呆れたように言うリアンにノアがニコッと笑った。

「ああでもしないといつまで経ってもお義父さんはアーロと話そうともしないんだから仕方ないでしょ?」
「そりゃそうだろうけど、そっとしといてやろうとかない訳?」

 無理やりあんな事してもユアンが可哀想なだけだ。そう思うリアンとは裏腹に、ノアはおもむろに胸ポケットから一枚のカードを取り出した。それは紛れもなくカップリング厨カードだ。

「あのカップリング、僕割と好きなんだよ。あ、もちろんそういう意味じゃなくて、君とオリバーを見てる感覚なんだよね。上手くいけばお互いにとってかけがえのない友人になると思うんだよ」
「……止めてよ、僕たちを引き合いに出すの」

 言いながらリアンがちらりとオリバーを見ると、オリバーは白い目でノアを見ている。

「まぁまぁ。悪いようにはならないと思うよ。それに、ユアンには生きていてもらわなきゃいけない。アリスや子どもたちがいくら言っても彼の気持ちが変わらないんなら、最後の砦はもうアーロしか居ない」

 ノアの言葉にリアンとオリバーは何とも言えない顔をしたまま渋々頷いた。
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