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第609話

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「アミナス!?」

 それを聞いて思わず仲間たちは叫んでしまった。アミナスと言えば今やアリスとノアの第二子だが……。

 困惑する仲間たちを他所にアンソニーが立ち上がってノアとシャルを見る。

「ははは、君たちが思っているアミナスとこの子は違うAMINASだ。そうだろう? ノア、シャル」
「もしかして……アミナスって……AMINAS?」
「まさか! どうしてこんな所に……それに、その姿は……」
「そうだ! この声、AMINASの笑い声だ!」

 ようやく少女の正体に気付いたアリスが言うと、途端に仲間たちは何かを思い出したかのようにハッとして少女を凝視した。

 金髪のフワフワ長い髪は腰よりも長く、大きな緑色の目は確かにノアにそっくりだ。何よりもとても人間とは思えないほどの美しさは妖精にも引けを取らない。

「アリスだ! やっと会えたね!」
「ふぉぉぉぉ! AMINAS!! ありがとね! ずっとずっとお礼直接言いたかったんだ!」

 その場でピョンピョン跳ねながら喜ぶAMINASは文句なしに可愛い。思わずそんなAMINASに駆け寄って抱きしめると、AMINASも嬉しそうにアリスに腕を回して頬ずりしてくる。

「AMINASって……嘘でしょ?」

 愕然としたリアンがAMINASと呼ばれる少女を見つめながら言うと、後ろからニコラが話しかけてきた。

「もしかして君がリー君? 君たちの話はあちらで散々兄さんから聞いたよ。はじめまして」
「あ、はじめまして。あんた足が……って、それどころじゃないんだよ! あんた達兄弟はどうしてそんな呑気なの! なんでもいいから誰かさっさと説明してよ!」

 ニコラは片足を引きずっていた。それはあの映画とやらの中で起こった事が事実だった事を表している。

 が、そんな事など一切気にした様子もないニコラにリアンはいつものように突っ込んだ。

「リ、リー君、一応相手はメイリングの王族なんすけど……」

 口ではいつも王族と関わりたくないと喚いているリアンだが、実際はいつも誰よりも率先して王族に絡んでいくリアンの口をオリバーは後ろから慌てて塞いだ。

「わお! 本当に猫みたいな子だ! 兄さん、詳しい説明を」

 そんなリアンなど気にもしない様子でニコラは笑うとアンソニーに言う。それを受けてアンソニーは頷いて話しだした。

「どこから話そうか。そうだ、先にお礼を言わなければね。こちらの世界を旅立ったあと、僕たちはあちらで数ヶ月の時を過ごした。ヤエもヤエの妹も無事に助ける事が出来た。これはノア、君のおかげだ。本当にありがとう」
「いや、それはいいけど……それよりもヤエさん達は? 一緒じゃないの?」
「いや、一緒には戻ってきたが、彼女たちはレプリカへ行ってもらった。僕たちの詳しい話は全てが終わってからにしよう。まずはこの子についての話だ。僕たちの元に届いた手紙には、先程も言ったようにこちらの現状が書かれていた。それからそれをどう切り抜けたかもだ。それは実際に君たちが体験した話だ。それを踏まえて未来の君は、僕たちに過去のこの時間に戻れと指定してきた」
「この子が現れる時間だからって事か?」

 カインはそう言ってまだ嬉しそうにアリスやライラ達と戯れている少女を見て言うと、アンソニーとニコラとカールが同時に頷く。そんな仕草はやはり身内だ。

「そうだよ。この子が全ての鍵を握っている。ピンチを切り抜けた未来のノアが、機転をきかせて僕たちにあんな手紙を送ってきたという訳だよ」
「なんだか難しい話ね……それは以前のループのような事が起こったということなの?」

 口元に手を当てて考え込んだキャロラインに、シャルが首を振った。

「いいえ、これはループではありませんよ。未来も過去も現在も、全ての時間は今、この瞬間に生成されると言われています。つまり、どこかでは失敗した未来もあったのでしょうが、それと同時に成功した未来もあった。ノアはその成功した時間からこの人たちに手紙を送ったのです。確実に成功するように」
「ちょっと、余計分からないんだけど? 失敗した未来はどうなってんのさ?」
「どうもなりません。失敗したらその時点でその世界が消える。それだけです。その人の主観がどの世界にあるのか、というだけの話ですよ」
「だから意味分かんないんだってば! つまりどういう事!?」

 回りくどく分かりづらいシャルの説明にとうとうリアンが眉を釣り上げると、シャルの隣でノアが苦笑いして言う。

「つまりね、未来のネタバレを知った僕が、その答えをここで実行しようとアンソニー王達に手紙を書いたって事だよ。星の時間軸はここからは弄れないから、星の外からそれをしてもらおうとしたんだろうね、多分」
「……相変わらずだなぁ、お前」

 呆れたようなカインにノアは肩を竦めてニコッと笑うが、ノアについて一つ分かった事がある。ノアは絶対に、今も妖精王を尊敬などしていない!

「大まかには理解できたかな? 話を戻してもいいかい?」
「あ、うん。ごめんね、話の腰折って」

 またノアに飛びついてきた少女を抱えながらノアが言うと、アンソニーは頷く。

「先に確認なんだけれど、今、リーゼロッテを起こす事が出来なくて魂の保管場所が無くて困っている。そうかな?」
「そうだ! そのせいで全てが頓挫しそうなんだ」

 勢い余ってルイスが言うと、シャルルも深く頷く。

「このままでは結局ヴァニタスがまた膨大なエネルギーを食べてしまいます。そうなったら最後、またヴァニタスは暴発してしまいます。最悪、二度目のリセットが起こってしまいますよ」
「うん、ノアからの手紙の通りだね。さてここで質問なんだが、この少女の役割は何だった?」

 まるで謎掛けのようなアンソニーの言葉にノアとシャルはもちろん納得したように頷いた。それに次いでアリスがハッとして元気よく手を上げる。

「保管庫! 命の保管庫だよね、兄さま!」
「うん。よく覚えてるね。この子は僕が創ったAIだ。膨大なメモリーを積んだ、当時最先端の学習型AIだよ。で、この子に何をさせるの?」

 AMINASはあちらの世界で創ったノアの子供に等しい存在だ。それを未来の自分は利用したのか。いかにもやりそうだな、という思いと、そういう事はあまりさせたくないという気持ちがせめぎ合うが、今は他に手が無さそうだ。

「そのまんまだよ、この子に妖精王が放出したエネルギーを積んでもらう」
「……ヴァニタスの分も? それはAMINASの許容量を超えると思うんだけど」
「いや、ヴァニタスとオズを切り離す前にヴァニタスの分以外を先に彼女に積み込む。そしてオズを切り離し、最終決戦だそうだよ」
「そんな上手くいくのかな。AMINASは確かに膨大なメモリーを積んでる。でもヴァニタスが漏らした分を詰めるほどの容量は――え? なに? シャル」

 ノアが言い終わらないうちに誰かがノアのシャツを引っ張った。犯人はシャルだ。振り返ると、シャルはまるで子供のように申し訳無さそうに頭を垂れている。それに反して腕の中のAMINASは何故かごきげんだ。

「あ、いえその――」
「パパ! AMINASね、お兄ちゃんの言う通り、ここに来る前容量いーっぱい空けてきたよ!」
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