上 下
660 / 746

第658話

しおりを挟む
「僕もそう思う。で、残された二人が僕たちを追ってきたって事か。でもあれだけの分かれ道があったのに的確にあの部屋に辿り着けたのは一体どういう事なんだろう?」
「それも恐らく錫杖の力だ」
「錫杖の力?」
「ああ。初代はいつも不思議な錫杖を持っていた。それは初代の魔力が詰まった錫杖で、何でも出来る。もしもあちらの手にあの錫杖が落ちていたら、賢者の石を追う事など容易なはずだ。何せ賢者の石も初代の創った物なのだから」
「その理屈でいくと、その錫杖でディノの事も追えるという事?」
「いいや。私は初代に開放された。初代との繋がりは絶たれたのだ」
「なるほど……母さま達の影みたいなものか。そう言えば影達は今どこにいるんだろう?」
「ルイス王達と共に行動しているはずですが、あちらは大丈夫なのでしょうか?」
「分からない。ちょっと連絡してみるよ」

 そう言ってノエルがスマホを取り出した瞬間、辺りにスマホの音が鳴り響いた。

『お前たち! どこに居るんだ!? あれほどノア達に核から動くなと言われていただろう!?』
「ごめんなさい。ちょっと守らないといけない物があって、僕たちは今源の木の所に居るんです」
『源の木!? どこだそこ――あそこか。分かった。すぐに行く。動くなよ!?』
「はい、あ、切れた」

 動くなよ、とだけ言って一方的に切られたスマホを見つめていると、また辺りが光った。それと同時にルイスとカインと観測者、そして三人の影がツカツカと足早に近寄ってきて、そこに居た全員が影キリのゲンコツを食らう。

「この馬鹿者! どうして勝手な事をしたんだ! 心配しただろうが!」
「まぁまぁルイス、叱るのは後だ。それで、どうしてこんな事しでかしたのかな? ディノがついていながら」
「す、すまない」

 まさか自分までゲンコツを食らうとは思っていなかったディノは短い手を精一杯伸ばして頭をさすりながら言った。

「賢者の石をあちらに奪われる訳にはいかなかったんだ。あちらの兵士はすぐそこまでやって来ていた。危機一髪だった」
「賢者の石? うわ! なんだ、これ!? え、ラピスラズリ?」

 ディノの言葉にカインは不自然に木の根元に鎮座している馬鹿みたいにデカい石を見て驚いた。

「これが賢者の石だ。観測者どのは知っているだろう?」
「ええ、存在はね。でも直接見るのは初めてよ。初代が残した遺物のうちの一つね」
「他にもあるの?」

 アミナスが尋ねると、観測者はアミナスの頭を撫でながら頷く。

「あなた達も知ってる物よ。アメリアが持っているバラとこの賢者の石、そしてディノ」
「ディノも遺物?」

 それを聞いて今度はレックスが首を捻ると、観測者は笑顔を浮かべて言った。

「ディノはむしろ彼の最高傑作よ。だからリセットしてすぐに彼を開放したの。守りたかったのよ、ディノを。そして錫杖はどうやら初代聖女のホムンクルスに渡したようね」
「とんでもない事してくれちゃったよな。いくら聖女ったって一市民にそんな力与えちゃ駄目でしょ」
「正しく使ってくれると信じていたのでしょう、きっと。実際最初の聖女からしばらくはあの錫杖は正しく使われていたわよ。でもある時無くなったのよね。聖女の末裔と一緒に」
「それは追えなかったのか? 観測者どののあの不思議なペンで」
「無理よぉ! だって錫杖は生物じゃないもの! それに前にも言ったかもしれないけど、私にも地下の生物達の行く末は追えないわ。あそこは完全に独立した世界だったのだから。ここや核と一緒ね」
「ここも?」
「そうよ。だって、ここを創ったのは妖精王でもディノでも無いでしょ? 核も同じ。あそことここだけは妖精王やディノにも手出しが出来ないわ。たとえ錫杖を持っていたとしてもね」
「……だったら、ここに場所を移したのは正解って事か?」

 ポツリとルイスが言うと、観測者は無言で頷いた。

「そうか……怒鳴って悪かったな、お前たち。しかしよくこの場所を思いついたな。偶然か?」
「いえ、ローズからレインボー隊を介して絵が送られてきたんです。あと、僕たちが行動を起こしたのはちょっと思った事があって」

 ノエル達に頭を下げたルイスに慌てて頭を上げさせたノエルに、今度はカインが訝しげにこちらを覗き込んできた。

「思ったこと?」
「うん。父さまが書いた手紙の最後が、どうして皆が別れる前だったんだろうって話になったんだ」
「それの何がおかしいの?」
「あの父さまがどうしてあんな中途半端なネタバレしか送らなかったのかなって考えるとね、変だよねって」

 ノエルの言葉にカインは一瞬ハッとした顔をしてノエルを凝視する。

「その通りだな。どうせ手紙を届ける時間や日時を指定出来るなら、ノアの事だから確実に戦いに勝ってから手紙を送りつけるはずだ。それなのにあの場面から手紙を送ったって事は、それ以降が届かなかったって事……か」
「うん。もしくは、それ以降を書けなかった。それは多分、何かを失敗したって事だと思ったんだ」
「お前らは天才だな! それで賢者の石を思い出したのか!」
「まぁ、そんな所です」
「なるほどね。俺たちが思うほどお前たちはもう子どもでもないんだな。そうであって欲しいっていう俺たちの勝手な思い込みなのかな」

 何だか嬉しいような寂しいような複雑な気持ちにカインは表情を歪ませた。もしかしたら前回の戦争の時の親たちもこんな気持だったのだろうか。

「カイン、落ち込んでる場合じゃないぞ! お前たち、レプリカから何か連絡が入っていないか!?」
「それ! 僕たちも聞こうと思ってたんだ! このモニターに絵美里が映し出されてね、まだこんな所にもモニターがあったのねって!」
「どういう事だ? 絵美里が野放しになっているのか? ノエル、起きた事を一から説明してくれ。どこかにヒントがあるかもしれん」

 ルイスの言葉にノエルは頷いて話しだした。

 元々モニターは電源が切れいた事、それが突然オンになったと思ったら誰も映らず、しばらくあちこちから怒声が聞こえていた事、それから絵美里がノエル達に言った事を説明すると、ノエルの言葉にカインが腕を組んで考え込む。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7,614pt お気に入り:1,562

限界集落で暮らす専業主婦のお仕事は『今も』あやかし退治なのです

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:454pt お気に入り:1

なんで元婚約者が私に執着してくるの?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:13,867pt お気に入り:1,874

B型の、B型による、B型に困っている人の為の説明書

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:6

【完結】断罪後の悪役令嬢は、精霊たちと生きていきます!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:12,062pt お気に入り:4,073

【立場逆転短編集】幸せを手に入れたのは、私の方でした。 

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:6,036pt お気に入り:825

追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:92pt お気に入り:3,603

処理中です...