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第678話

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「妖精王から不思議な生き物が送られてきたんだけど、これは何だと思う?」

 ノエルが手のひらにちょこんと座ってこちらを見上げる二匹の生物を見て首を傾げると、それまで手紙を読んでいたレオが真顔で言った。

「犬だそうです」
「犬!? オ、オズももしかたら画伯……なのかな?」
「もしくは、犬を見たことが無い。どっちかだと思う」

 レオの言葉に驚いたノエルと納得したレックスを見て、リーゼロッテが恥ずかしそうに指先を擦り合わせている。

「オズはね、何でも出来るけど絵だけは苦手なの。なんかね、見たことある物でも上手くイメージが出来ないって言ってた」
「姫、それは別に姫が恥じることでなないのでは」
「でも、オズは犬を知ってるよって一応言っておこうかなって」

 これでもオズワルドをフォローしたつもりだ。そんなリーゼロッテを見て、何故か皆の視線が生暖かくなる。

「可愛いね! 名前付けなきゃ! 何がいいかなぁ……海ちゃんと空ちゃんでいっか!」
「またそんな適当な名前を!」
「だって! この子たち海と空が具現化した妖精だもん! 間違ってないもん!」
「……そうなのですか?」
「そうだよ! ね? 海ちゃんと空ちゃん!」

 アミナスが二匹の生物に問いかけると、二人はコクリと頷いた。それを見てレックスが関心したように言う。

「アミナスは凄い。どうして分かったの?」
「え? だって海ちゃんは磯臭いし、空ちゃんは干しすぎたお布団の匂いするもん!」
「……磯の匂いと干しすぎた布団……」
「レックス! 誤解しないで! これはアミナスの褒め言葉だから! 君たちもそんな落ち込まないで!」

 暗に臭いと言っているのかと勘違いした二人の古代妖精はしょんぼりと項垂れているが、ディノは感心したように目を細め、次の瞬間には険しい表情をした。

「私にも分からぬほどの匂いを嗅ぎ分けるのは流石だな。しかし、そうか……大地だけはまだ戻らないか……」
「大地って?」
「アメリアが乗っているあの古代妖精だ。あの者こそがこの大地を統べる妖精なのだ。どうにかして開放してやりたいが……」

 ディノが腕を組んで考えこもうとしたその時、どこからともなく不思議な声が聞こえてきた。

『ディノ、我らの声が聞こえるか』
『久しいわね、ディノ』
「! 空と海の!」
『ああ。この声はお前にしか聞こえぬ。あの者の魔力は強大だな。ここまで我らの力を封じよった』
『でも、そのおかげで初代の魔力から開放されたわ。お礼を伝えておいて』
「分かった。必ず伝えておこう」

 ディノが一人頷くと、子どもたちは突然一人で話しだしたディノを怪訝な顔をして見ているが、そんな子どもたちを無視して海と空は話し始めた。

『大地を支配するのはバラだ。初代が育てたバラは、今も大地に植え付けられている。まずはそれを引き抜け。でなければ、バラは何度でも再生するぞ』
「分かった」
『それから私達の力が抑えられている事で今は気象を管理できないの。この貴重な時間をどうするかはあなた達次第よ』
「それは……我が目覚める絶好のチャンスという事か?」
『そうね。最大限に私達のエネルギーを抑えられている今なら、もしかしたらあなたは目覚めて力を発揮することが出来るかもしれない』
「……考えてみよう」

 そう言ってディノは視線を伏せた。ディノが復活するということは、レックスが居なくなるということだ。ノアには何か考えがあるようだが、一体何が起こるのか分からない以上、どうしても踏み切れない。

 そんなディノの迷いを払拭するかのように海が追い打ちをかけてきた。

『時間がないわ、ディノ。星の維持能力が働く前に結論を出すのよ』
「……ああ」

 どうすればいいのだ。本当にノアを信用出来るのか。その作戦が失敗したりはしないのか。色んな考えが頭を巡ったが、そんなディノの腕を誰かが掴んだ。レックスだ。

「ディノ、石を返すよ」
「レックス! しかし!」
「時間が無い。それが、僕の役目だよ」
「……」

 レックスの強い眼差しにディノは思わず息を呑んだ。

 ふと思い出したのは、まだ舌っ足らずに「ディノディノ」と言ってディノの後を追ってきていたレックスの幼い頃の姿だ。会議室の壁に落書きをしてディノを困らせたレックス。ディノが見当たらないと言って泣いて地下の住人を困らせていたレックス。やがて地下に誰も居なくなってもディノが眠りにつくその瞬間までディノの指を握って涙を堪えていたレックスの姿が、まるで昨日の事のように蘇ってくる。

「ディノ。僕は、死ぬんじゃない。人間に生まれ変わるんだ。今度こそ」
「!」
「だから、僕は僕のためにディノに石を返したい。受け取って……くれる?」

 そう言ってレックスは自分の胸に手を当てた。それを見て仲間たちがゴクリと息を呑む。

「そうだよ……ディノ! レックスは未来の為にディノに石を返すんだよ!」
「アミナス……ありがとう」
「うん! 私はいつだってレックスの味方だからね! それに、父さまはお願いは絶対に破らないよ!」

 約束はしょっちゅう破るけれど。アミナスはそんな言葉を飲み込んでレックスの手を握った。

「僕もレックスに賛成するよ。ディノには悪いけど、レックスには僕たちと一緒に年を取って欲しいから」

 アミナスとは反対側のレックスの手を取ったノエルに賛同するようにレックスの後ろにレオとカイ、そしてリーゼロッテが立った。

 その時だ。突然モニターの電源が自動で変わった。そこに映し出されていたのは、レプリカに行った子どもたちだ。

『誰かいるか? おーい!』
「ライアンだ! 皆も居る! 無事だったんだ!」
『おお、アミナス! そちらも皆無事そうだな! こちらはさっきようやくアメリアの兵士が全員消えたんだ! 寝返った者達も続々と戻ってきているぞ!』
「そっか、良かった。それで皆は突然どうしたの?」
『それがな、ジャスミンとローズがすぐにモニターを繋いでレックスの背中を押せと言うんだ。一体何の話か分かるか?』
「! 本当にジャスミンとローズの予言は優秀なのだな」

 ライアンの言葉にディノは思わず目を丸くした。そんなディノとは違って、すっかり慣れてしまっている子どもたちは次々にこちらの状況を話し出す。
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