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第706話
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各国の重鎮達が集まったテントでも、スマホ片手に妖精王の宣言を聞いて皆静かに喜びを噛み締めていた。
「やっと、ですね」
イライジャがだらしなく足を投げ出して大きく伸びをすると、隣にいたオルトが無言で頷く。
「長かった……実に長かった……」
心の底から呟いたようなラルフの言葉に皆が姿勢を正す。
長きに渡ってメイリングと戦争を繰り返してきたレヴィウスの王の言葉は、あまりにも重い。ここには居ないが、メイリングの王、アンソニーも今頃地上で安堵の息を漏らしているのではないだろうか。
「残るは復興だな。それが終わって初めて真の平和が訪れる」
ルカの言葉に全員が真剣な顔をして頷いた。レプリカから見ていた映像だけでは被害はほとんど分からないが、アメリアが巨大な妖精に乗って闊歩していたのを見る限り、相当数の住宅や農地に被害が出ているのではないだろうか。
「我々はまず一番に戻りましょう。全体の被害を確認して、それからしばらくは全国民への手当と配給を出さなければ」
ダレていたイライジャが咳払いをしながら言うと、向かいからレヴィウスの貴族が尋ねてきた。
「どれぐらいの期間保証しますか?」
「それは被害しだいだな。今回は星規模で起こった戦争だ。一旦国という括りは捨てて、それぞれが手を取り合うべきだろう」
ルカの言葉に今度はメイリングの高位貴族が身を乗り出す。
「しかし、そんな事をしたら出し抜いたりする者が現れるのでは!?」
「お前はこの期に及んでまだそんな事する奴が居ると思うのか? ここへ来てよく分かっただろう? 金や資産など、有り余る程持っていても無駄だ。いざという時に何の役にも立たんと言う事を。結局大事なのは繋がりだ」
「王の言う通りです。今回は国同士の戦いではありません。それぞれの国庫を開き、国をリセットするには良い機会です」
ルカの言葉を引き継ぐようにルードが口を開いたが、それを聞いてギョッとしたのはルーデリアの貴族だ。
「ルード殿!? 国をリセットとは何事ですか!?」
「そのまんまの意味ですよ。今のままではまた戦争が起きる。そうならないようにするためには、一度全ての国をリセットする必要があります。全ての国の資産を均等に分け、もう一度1からスタートするべきです」
「それをするメリットは?」
ヘンリーが尋ねると、ルードは頷いてスマホを取り出し一枚の写真を皆に見せた。そこに写されていたのは、アメリアが使っていた不思議な水晶だ。
「メリットは全ての国に均等に技術が行き渡る事です。何よりそうする事で世界は次の段階に進むことが出来ると俺は思っています」
「次の……段階……」
フォルスの貴族が唖然とした様子で言うと、ルードの言葉を引き継いでロビンが静かに言う。
「アメリアが使っていたあの技術。あれは太古の昔に使われていた技術だそうです。それを正しく使う為の入り口に、我々は今立っているのですよ」
「あの不思議な技術か……確かにあれはどこかの国だけが所有すべきではないな」
ルカが思わず呟くと、ラルフも納得したように言う。
「その通りだ。どこかが所有をすれば、必ずそれを奪おうとする物が現れる。あれを正しく使うには、皆が均等に持つのが一番だ」
「奇しくもここには各国の重鎮たちが集まっています。この話を各国の王たちに進言するべきだと俺は思います」
「うちは賛成だ。これ以上の犠牲は払いたくはないからな」
唯一の現王ラルフが言うと、オルトも隣で頷く。レヴィウスが賛成をすれば、恐らく他の国の王たちも頷くだろう。
いや、たとえレヴィウスが賛成しなくとも他の国の王たちは賛成するはずだ。何せ身を挺して最前線でずっと戦ってきた者たちばかりなのだから。
ラルフの言葉にそれまでどこか半信半疑で聞いていた者たちがようやく納得したように頷いた。きっと現王達の事を思い出したのだろう。
「では決まりですね。まずは我々があちらに戻り、被害の確認をしてそれから――」
皆の話をまとめようとイライジャが話し出したその時、テントにライアンとルークがやってきた。
「待って! 一番に戻すのは騎士たちの家族にしてやってほしいんです!」
ルークの声に重鎮たちは首を傾げた。そんな重鎮たちにライアンが言う。
「騎士たちの心配を、家族達がずっとしている。彼らを一番に会わせてやってほしい。もちろん任意だが」
「しかし王子、戻った所であちらの被害状況も分からないのに……」
「だからこそだ! 騎士たちは野営にも慣れているし、復興の手足となって働くのは彼らだ。そんな彼らを支える事が出来るのは、家族だろう!?」
「……言いたい事は分かりますが、家族を送った所で返って足手まといになるのでは?」
「では聞くが、お前たちは星が終わるかどうかの戦争が終わった後、誰に一番会いたいのだ? 愛する者ではないのか? それともそんな隙すら与えず彼らにさらに働けと命令をするのか?」
ライアンの一言に全員が顔を見合わせて黙り込んだ。そんな中、ルードだけは口元に手を当てて考え込み、口を開いた。
「いや、案外いいかもしれません。彼らの士気を下げずに復興をしてもらう為には、その作戦が一番効果がありそうです」
「どういう事だ? ルード」
「特別感ですよ、ヘンリー様。それを煽ります」
「目に見えない報酬という奴だな」
ルカが言うと、ルードが頷く。これを言ったのは誰だったかと考えて、学生時代のルイスだったと思い出す。
「なるほどな。今は金銭という報酬をもらうよりは、家族と会える事が何よりの報酬になる、という事か」
「そうです!」
ライアンとルークは自分たちの意見が通りそうだと目を輝かせた。
「驚いたよ。君たちは俺が知らないうちに本当に随分と成長したんだね」
ライアンとルークを見てルードが笑うと、二人は誇らしげに胸を張ってテントを出て行った。
「頼もしい限りだな」
まだ跡継ぎの居ないラルフが目を細めて言うと、キョトンとした顔をしてイライジャが言う。
「最悪の場合、レヴィウスにはノエルかアミナスを国王に立てれば良いのでは?」
そんなイライジャの言葉にラルフとオルトは一瞬絶句してすぐに首を横に振った。
「な、何て事を言うのだ! あの二人はノアと嫁の子どもだぞ!? そんな事をしたら一瞬でレヴィウスがアリス王国になってしまうだろうが!」
「そうですよ! 恐ろしい事を言わないでください! イライジャ殿!」
二人のあまりの剣幕に久しぶりに笑いが起きる。
そのすぐ後にライアンとルークと全く同じことを何故かステラとオリビアが言いに来た。
変わりゆく世界に不安が無い訳ではないが、心の何処かで期待もしている。皆の気持ちは一つだった。
「やっと、ですね」
イライジャがだらしなく足を投げ出して大きく伸びをすると、隣にいたオルトが無言で頷く。
「長かった……実に長かった……」
心の底から呟いたようなラルフの言葉に皆が姿勢を正す。
長きに渡ってメイリングと戦争を繰り返してきたレヴィウスの王の言葉は、あまりにも重い。ここには居ないが、メイリングの王、アンソニーも今頃地上で安堵の息を漏らしているのではないだろうか。
「残るは復興だな。それが終わって初めて真の平和が訪れる」
ルカの言葉に全員が真剣な顔をして頷いた。レプリカから見ていた映像だけでは被害はほとんど分からないが、アメリアが巨大な妖精に乗って闊歩していたのを見る限り、相当数の住宅や農地に被害が出ているのではないだろうか。
「我々はまず一番に戻りましょう。全体の被害を確認して、それからしばらくは全国民への手当と配給を出さなければ」
ダレていたイライジャが咳払いをしながら言うと、向かいからレヴィウスの貴族が尋ねてきた。
「どれぐらいの期間保証しますか?」
「それは被害しだいだな。今回は星規模で起こった戦争だ。一旦国という括りは捨てて、それぞれが手を取り合うべきだろう」
ルカの言葉に今度はメイリングの高位貴族が身を乗り出す。
「しかし、そんな事をしたら出し抜いたりする者が現れるのでは!?」
「お前はこの期に及んでまだそんな事する奴が居ると思うのか? ここへ来てよく分かっただろう? 金や資産など、有り余る程持っていても無駄だ。いざという時に何の役にも立たんと言う事を。結局大事なのは繋がりだ」
「王の言う通りです。今回は国同士の戦いではありません。それぞれの国庫を開き、国をリセットするには良い機会です」
ルカの言葉を引き継ぐようにルードが口を開いたが、それを聞いてギョッとしたのはルーデリアの貴族だ。
「ルード殿!? 国をリセットとは何事ですか!?」
「そのまんまの意味ですよ。今のままではまた戦争が起きる。そうならないようにするためには、一度全ての国をリセットする必要があります。全ての国の資産を均等に分け、もう一度1からスタートするべきです」
「それをするメリットは?」
ヘンリーが尋ねると、ルードは頷いてスマホを取り出し一枚の写真を皆に見せた。そこに写されていたのは、アメリアが使っていた不思議な水晶だ。
「メリットは全ての国に均等に技術が行き渡る事です。何よりそうする事で世界は次の段階に進むことが出来ると俺は思っています」
「次の……段階……」
フォルスの貴族が唖然とした様子で言うと、ルードの言葉を引き継いでロビンが静かに言う。
「アメリアが使っていたあの技術。あれは太古の昔に使われていた技術だそうです。それを正しく使う為の入り口に、我々は今立っているのですよ」
「あの不思議な技術か……確かにあれはどこかの国だけが所有すべきではないな」
ルカが思わず呟くと、ラルフも納得したように言う。
「その通りだ。どこかが所有をすれば、必ずそれを奪おうとする物が現れる。あれを正しく使うには、皆が均等に持つのが一番だ」
「奇しくもここには各国の重鎮たちが集まっています。この話を各国の王たちに進言するべきだと俺は思います」
「うちは賛成だ。これ以上の犠牲は払いたくはないからな」
唯一の現王ラルフが言うと、オルトも隣で頷く。レヴィウスが賛成をすれば、恐らく他の国の王たちも頷くだろう。
いや、たとえレヴィウスが賛成しなくとも他の国の王たちは賛成するはずだ。何せ身を挺して最前線でずっと戦ってきた者たちばかりなのだから。
ラルフの言葉にそれまでどこか半信半疑で聞いていた者たちがようやく納得したように頷いた。きっと現王達の事を思い出したのだろう。
「では決まりですね。まずは我々があちらに戻り、被害の確認をしてそれから――」
皆の話をまとめようとイライジャが話し出したその時、テントにライアンとルークがやってきた。
「待って! 一番に戻すのは騎士たちの家族にしてやってほしいんです!」
ルークの声に重鎮たちは首を傾げた。そんな重鎮たちにライアンが言う。
「騎士たちの心配を、家族達がずっとしている。彼らを一番に会わせてやってほしい。もちろん任意だが」
「しかし王子、戻った所であちらの被害状況も分からないのに……」
「だからこそだ! 騎士たちは野営にも慣れているし、復興の手足となって働くのは彼らだ。そんな彼らを支える事が出来るのは、家族だろう!?」
「……言いたい事は分かりますが、家族を送った所で返って足手まといになるのでは?」
「では聞くが、お前たちは星が終わるかどうかの戦争が終わった後、誰に一番会いたいのだ? 愛する者ではないのか? それともそんな隙すら与えず彼らにさらに働けと命令をするのか?」
ライアンの一言に全員が顔を見合わせて黙り込んだ。そんな中、ルードだけは口元に手を当てて考え込み、口を開いた。
「いや、案外いいかもしれません。彼らの士気を下げずに復興をしてもらう為には、その作戦が一番効果がありそうです」
「どういう事だ? ルード」
「特別感ですよ、ヘンリー様。それを煽ります」
「目に見えない報酬という奴だな」
ルカが言うと、ルードが頷く。これを言ったのは誰だったかと考えて、学生時代のルイスだったと思い出す。
「なるほどな。今は金銭という報酬をもらうよりは、家族と会える事が何よりの報酬になる、という事か」
「そうです!」
ライアンとルークは自分たちの意見が通りそうだと目を輝かせた。
「驚いたよ。君たちは俺が知らないうちに本当に随分と成長したんだね」
ライアンとルークを見てルードが笑うと、二人は誇らしげに胸を張ってテントを出て行った。
「頼もしい限りだな」
まだ跡継ぎの居ないラルフが目を細めて言うと、キョトンとした顔をしてイライジャが言う。
「最悪の場合、レヴィウスにはノエルかアミナスを国王に立てれば良いのでは?」
そんなイライジャの言葉にラルフとオルトは一瞬絶句してすぐに首を横に振った。
「な、何て事を言うのだ! あの二人はノアと嫁の子どもだぞ!? そんな事をしたら一瞬でレヴィウスがアリス王国になってしまうだろうが!」
「そうですよ! 恐ろしい事を言わないでください! イライジャ殿!」
二人のあまりの剣幕に久しぶりに笑いが起きる。
そのすぐ後にライアンとルークと全く同じことを何故かステラとオリビアが言いに来た。
変わりゆく世界に不安が無い訳ではないが、心の何処かで期待もしている。皆の気持ちは一つだった。
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