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第710話

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「僕、この光景知ってるなぁ」
「既視感が凄いですね」
「っすね。あ、また増えた」

 リアンとキリとオリバーは、眠るアリスにどんどん積まれていく大量の花と食べ物(ほとんどが肉)を見下ろして唖然していた。

「はい、ありがとう。ああ、大丈夫だよ。これは持って帰って君たちが食べて――それは駄目? うん、分かった。ありがとう」

 ノアは苦笑いしながら小さな妖精から受け取った食べられるのかどうかも怪しい木の実を受け取ってポシェットに仕舞い込む。

 妖精王の光が落ち着いた途端、一体どこから集まってきたのか大中小様々な大きさの妖精や動物達がアリスの周りにやってきて、好き勝手にこうしてさっきから貢ぎ物やら花やらを押し付けてくる。

 そんな妖精や動物達のねぎらいに困り果てていた所に、ようやく仕事を終えた妖精王とオズワルド、そしてディノが戻ってきた。

「これは凄いな! 前回の倍ではないか!」
「なんだ、アリス死んだのか?」
「この音はアリスのお腹の音か? まるで地響きのようだが……」

 思わずアリスを見下ろして呟いた三人を見つけて、妖精たちや動物たちが今度は一斉に三人に集ってあれこれと渡しだした。

「も、持てぬ! もう持てぬのだ! 我の腕は二本しか無いのだぞ!」
「……ありがと。これ食べられるの? あ、そう。ならいい。後でリゼと食べる」
「ははは、ありがとう皆。けれどこれは私が受け取るべきではないな。私はほんの少し力を貸しただけなのだから」

 三人は贈り物を受け取ってそれぞれの反応を見せるが、それを見ていたアンソニーがおかしそうに言った。

「見事に三人の性格が現れているね」
「ほんとだよ。こうやって見てると一番の人格者はディノかな。次いでオズだね」
「こらこらニコラ、そんな事を言ってはいけないよ。ところでノア、この後はどうするんだい?」

 アンソニーが振り返ると、アリスへのお供物の受付をエリスとアーロに任せたノアがこちらにやってきた。

「ふぅ~皆、あとであれ分けて持って帰ってね。それで、何か言った?」
「この後どうするんだい? と尋ねたんだよ」
「この後? この後はそりゃ復興一択だけどその前に」

 ノアはそう言って妖精王をチラリと見て声を張り上げた。

「妖精王! あなたはいつこの星の管理者に戻るの?」
「うん? そうだな、それはソラ次第だろうな。今回無茶を言って我はソラに管理を任せたのだ。正しくは、ソラが飽きるまで……だろうな」

 そう言って表情を曇らせた妖精王を見てノアは頷いた。

「だったらちょうど良いね。妖精王にディノは少し休んだら全ての国の農地の再生をお願いね」
「は?」
「分かった」
「で、オズは僕たちと一緒に壊れた道とか橋とか直すの手伝って」
「なんで俺が」
「それをしないとリゼちゃんとまた旅出来なくなるよ?」
「分かった。今からすぐ始める? 贈り物はここに入れて。ナマモノはやめろよ、腐るから」

 そう言ってオズワルドは自分の代わりに大きなカゴを置いてこちらにやってきた。

 すぐさま動き出そうとしたオズワルドを止めたのはルイスとカインだ。

「ちょ、ちょっと待て! 流石に少しぐらいは休息をだな!」
「そうだぞ、ノア! そんな闇雲に復興出来る訳……なに、これ」

 今回ばかりはルイスの言う通りだと言わんばかりにノアに詰め寄ったカインに、ノアが何故か分厚いノートの束を手渡してきた。

「妖精たちに頼んでおいたの。大きな道から小さな畑まで壊れてる所、前と違う所は全部書き出してくれてる」
「い、いつの間にこんな事……」
「皆がこっちに戻って来た時だよ。小さな妖精たちは戦力にはならないから、壊れたとことか危ないとこを調べて回ってもらってたの」
「あ! それで全く小妖精達を見なかったのですね!?」

 シャルルが思わず声を上げると、ノアはコクリと頷く。シャルルが見た小妖精は後にも先にもアメリアの金の光をどうしようかと悩んでいた時だけだ。

 それ以降全く姿を見なかったので、皆でどこかに避難でもしているのかと思っていたのだが、どうやら彼らは彼らでしっかりと仕事をしていたらしい。

「誰にでも……役割が……ある……」
「ん?」

 突然後ろから聞こえてきた掠れきった声に思わずノアとシャルルが振り返ると、そこにはまだ寝そべったままのアリスが、目を閉じたまま肉を頬張っているのが見えた。

 そんなアリスを怯えたような顔をしてリアンとオリバーが見下ろしている。

「ノア……あなたのアリスが眠ったまま肉を食べていますが……あと、何か寝言……ですか?」
「……うん、そっとしておいてやって。今、回復中だから。あと、あれは寝言じゃなくて――」

 ノアが最後まで言い終える前に、突然アリスがガバリと起き上がった。

「おはよう、皆! そう、誰にでも役割はある! 大きな者にも小さな者にもね! むしゃぁ!」
「怖いんだよ! 何で目覚めてすぐにそのテンションなの!? あと、いきなり肉は止めときなってば! お腹痛くなるよ!?」
「リアン様は何だかんだ言いながら優しいですね」
「全くっすね。俺だったらもうアリスが何しても止める気も無いっす」

 呆れた様子のオリバーにキリが真顔で頷いたその時だ。

 突然空が光り、また雲の隙間に亀裂が入った。

 それを見て息を呑んだ仲間たちが一斉に妖精王を見ると、妖精王すら青ざめて首を横に振っている。

「我じゃない! 我じゃないぞ!?」
「じゃあ一体誰が――」

 キャロラインが呟いたその時、どこからともなく性別不詳で年齢不詳な声が辺りに響き渡る。
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