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第712話

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「それにしても、また時が戻るなんてね」

 しばらくしてキャロラインがぽつりと言ってルイスを見ると、ルイスはそんなキャロラインを見て顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまう。

「そ、そうだな。な、何だか懐かしいような恥ずかしいような感じだな」
「ルイス、耳まで真っ赤だぞ。ていうか、若返った時キャロラインとシャルルとアランは普通だったな。なんで?」
「そりゃ僕たちは何度も同じ目に遭っていますから。たかが7~8年若返るぐらいでもう驚きませんよ」
「そうね、アランの言う通りだわ。目が覚めたら5歳とかに戻るよりも全然いいわ」
「全くです。あの恐怖に比べたら、むしろ嬉しいぐらいですよ」

 ゲームのループに巻き込まれて何度も何度も同じ運命を辿ったキャロラインとシャルルとアランだ。

「なるほど」
「そんな事よりも僕が心配なのはね!」
「おお、どした? リー君」
「どした? じゃないよ! ここの第三子! 今から恐怖でしか無いんだけど!?」

 ソラの言い分は間違いなくそういう事だ。これからやってくる恐怖を思い浮かべてリアンが震えると、それに気付いた仲間たちも青ざめる。そんな中、違う見解を示したのはアーロだ。

「俺はどちらかと言うと、秘密のアリス部隊にソラも加入した事の方が怖いが」
「そうだ! アリス! お前はなんて物をソラに渡したのだ! 何故かソラは喜んでいたではないか!」

 全てを見通すソラだ。もちろんアリスのカードも、そこに名を連ねるメンバーも知っていただろう。その上でそのカードを喜んで受け取ったのだ。

「まぁ、喜んでたならいいんじゃないの? はぁ」

 何故か叱られてばかりだった観測者が大きなため息をつくと、アリスが慰めるように観測者の肩を叩いた。

「まぁまぁ! きっとソラの祝福が観測者さんの何かにも起こってるよ!」
「……そうかしら」

 あの感じではそんな感じは一切受けなかったが。そんな言葉を飲み込んで観測者は大きな伸びをして言った。

「さてと! それじゃあ私も家に戻ろうかしら! 早くシャワー浴びた~い」
「ちょっと待って、観測者さん。あなたもここまで頑張ったメンバーなんだから、もちろん最後まで頑張るでしょ?」
「……最後までって、いつまで?」
「最後は最後だよ。さ、それじゃあ皆、語り合うのは復興してからにしよう。その前にレプリカから皆を戻さなきゃね」

 ノアが言うと、仲間たちは無言で動き出した。



 復興が始まってすぐ、仲間たちは散り散りになって動き出したのだが、ふとある事に気付いた。

「ねぇ……何か街、綺麗じゃない?」
「本当だな……これは一体どういう事だ?」

 ルーデリアの王都に派遣されたリアンがポツリと言った。それを聞いてルイスも頷く。不思議な事が起こっていると思いながらも歩いていると、そこへヴァイス率いるレスターがやってきた。

「ルイス様! リー君!」
「レスター! レスターじゃないか!」
「ミニ王子じゃん! ここの担当なの?」
「はい! えっと……ルイス様とリー君……ですよね?」

 思わずレスターがルイスとリアンに尋ねると、二人は苦笑いして頷く。

「さっきのソラの声、聞こえてなかったか?」
「ソラの声? なんですか、それ」

 レスターが首を傾げると、ルイスとリアンは顔を見合わせて何かに納得したように頷いている。

「そっか……それじゃあ、あそこにだけ聞こえてたんだね。ソラがね、色々ありがとってさ。皆に祝福があったみたいだよ」
「皆に?」
「そ。この星に住む全ての生物に祝福だってさ」
「そうなんですね! なんだろう? 祝福って」

 レスターが首を傾げると、リアンが肩を竦めて笑う。

「ほんと、何なんだろうね。それは分かんないけど、きっと何かちょっとだけ良いことが起こるんじゃない?」
「そうですか! それは楽しみです。それでここなんですけど……もしかしてアメリアはここは通らなかったのでしょうか?」
「そんな訳なくない? 王都だよ? 何なら真っ先に壊しにかかるでしょ」
「そうだな。俺がアメリアならまずは各国の主要都市を攻めるな」
「そうですよねぇ」

 不思議な事が起こっていると思いながらヴァイスから下りたレスターの元に、ロトとカライスが息を切らせて駆け寄ってきた。

「おいレスター! 大変だぞ! ここだけじゃなくて他の場所も――ん? 誰だ?」
「俺には王とリー君に見えるけど……若いな?」
「僕だよ! ソラのせいで若返っちゃったんだよ! で、不思議な事って?」

 誰も彼もがこんな反応をするので思わずリアンはいつもの調子で突っ込むと、ルイスも隣で苦笑いしている。

「あ、ああ、やっぱ王とリー君か! ビックリしたぞ! 何だか懐かしいな! それで不思議な事ってのはだな!」
「他の場所も何も壊れてないんだ。城の中は多少物が落ちたり壊れたりしてるが、外側は全部無事。ありえないだろ?」

 ロトとカライスはそう言って互いの顔を見合わせてゴクリと息を呑んだ。それを聞いてリアンがポツリと言う。

「ソラの祝福……?」
「それですよ! きっと、そう! ソラが壊れた建物をきっと直してくれたんですよ!」

 レスターが喜んで声を上げたその時、リアンのスマホが鳴った。相手はカインだ。

「次期宰相、どしたの?」
『リー君たち王都だよな!? 俺今セレアルなんだけど、小麦畑が全部無事なんだよ! そっちはどう!?』
「あ、やっぱりそっちもなんだ? 王都も同じ。ただ、城の中の物はちょっと壊れてるってさ」
『はあ!? 一体何が起こったんだ!?』
「それなんだけど、これがソラの祝福かなって。ほら、さっき突風吹いたじゃん? あの時」
『ああ……え!? 星の上の倒壊した建物全部直したって事かよ!?』
「ソラなら余裕なんじゃないの? 詳しくは元神様に聞いてみてよ」
『は? それって誰――ああ、ノアか。そうだな。あいつならこういうの得意そうだもんな。分かった、聞いてみる。ありがとな、リー君』
「いえいえ、どういたしまして」

 そう言ってリアンはスマホを切った。

「カインは何だって?」
「うん。セレアルの小麦畑も全部無事だってさ。ビックリしてたよ」

 リアンが言うと、レスターは嬉しそうに頷いた。

「そっか! 心配してたんだ! 二人共、セレアルも無事だって!」
「マジか!」
「本当に? ソラってのは凄いんだな」

 驚いたようにカライスが言うと、リアンもレスターも、ロトでさえも頷いていた。

「しかし何故カインはまず俺ではなくてリー君に連絡するんだろうな」
「そりゃ、あんたじゃ頼りないんじゃないの。なんたって泣く子も黙る木偶の王なんだし」
「リー君!? 木偶の王に泣く子は黙らないぞ!」
「突っ込むとこそこ? 違うよ。王が木偶だって知った時にショックで黙るんだよ。だからあんたは木偶卒業頑張りなって」
「そ、そうだな……しかし見た目が可愛くても相変わらずリー君は辛辣だな……今からキリに会うのが怖い」

 若返った直後はキリも混乱していたようだったから何も言われなかったが、落ち着いたらまたあの顔で何を言われるか分からない。

 そう言って青ざめたルイスを見て皆が笑った。その笑顔は大地を照らす日差しのように明るかった。
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