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第713話
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カインはリアンに連絡を取った後すぐにノアに連絡を入れたのだが、誰か知らないおじさんが出たので慌てて切った。もしかしたらノアはどこかでスマホを落としでもしたのだろうか? 次に会った時に教えてやろうと思いつつ、目の前の小麦畑を見渡した。
「宰相どの、これは一体?」
エントマハンターの長、ミカが言うと、カインも首を傾げつつ答える。
「多分だけど、あなた達がこちらに戻る前にソラからの祝福を受けたんだ。もしかたらそれが原因かも」
「ソラの祝福? そのソラというのが妖精王よりも偉い方なのか?」
「ああ。俺たちにはちょっと想像も出来ないけど、全ての星の妖精王をとりまとめてる凄い人らしい。だとしたらこの世界を元に戻すなんて容易い事なのかもな」
カインの言葉にミカは頷いて小麦を一つずつ点検して、土の状態も調べている。
「栄養も問題無い。むしろとても肥沃に生まれ変わっている。来年はここは休ませなければと思っていたが、まだまだいけそうだな」
「そうなの? だとしたらソラの祝福は大地にもあったって事か」
そう言えばソラは星への祝福だと言っていた。どうやらソラは建物だけではなく、星の全ての物に祝福を与えたようだ。
「カイン! あっちも見て来たんすけど、やっぱり全部綺麗なまんまっすね! 見事な金色畑だったっす!」
オリバーが心穏やかにカインに駆け寄ると、カインは笑顔で頷いて返してくれた。このコンビは多分、初めてだ。
「アメリアが暴れ倒した時にはどうなる事かと思ったけど、ソラが最終的に味方してくれて助かったよな! アリスちゃんじゃないけど、畑は一朝一夕じゃどうにもならないし」
「ほんとそれっすよ。俺も一番心配してたとこっす」
「いくら儂等が手を貸してもそれは無理じゃ。宰相どの、他の所も無事なんじゃろ?」
「ああ、みたいだよ。ミカの爺さんわざわざ来てくれたのに、なんかごめんな」
カインが言うと、ミカは珍しく満面の笑みで首を振った。
「何を言うか。あんた達のおかげで今の儂等があるんじゃ。こんな時に手を貸さずにいつ貸すんじゃ。それに小麦達も感謝しておるぞ」
「そうなんすか?」
「ああ。皆、喜んどる。だからこんなにも美しく輝いているんじゃ」
言いながらミカは目の前の小麦畑を見渡した。小麦達は日差しと風を受けてキラキラと輝きながらまるで踊るかのようにゆらゆらと揺れている。
「綺麗だな……無くならなくて良かった……」
「ほんとっすね……こういうの見てると、自分はちっぽけなんだなていっつも思うっす」
何気なくオリバーが言うと、カインが無言で頷いた。そんなカインの反応にオリバーは内心首を傾げる。もしもここに居たのがアリスやリアンだったら、きっと何かしらのリアクションが返ってくるだろうが、カインだとそうはいかない。
何となくそれを物足りないと感じてしまた自分に気付いてオリバーは青ざめた。
「ヤバ……俺もどんどん感化されてる……」
「ん? どうかしたか? オリバー」
「ああ、いや、何でも無いっす」
「そうか? それじゃあ他の所も一応点検しに行くか!」
「そ……っすね」
初めてのカインとのペアでとても心穏やかに過ごせているのに、裏腹にオリバーの心は複雑だ。
結局、始終穏やかに終わったカインとのペアはあまりにも穏やかすぎて相当アリスとリアンが恋しかったのか、その日の夜に二人が夢にまで出てきたのは秘密である。
キャロラインはルーデリアの地方をニケに乗ってひたすら空からチェックしていた。隣に並んで反対側をチェックしてくれているのはライラだ。そんなライラの後ろにはミアが乗っている。
「それにしても、まだ呼んでも居ないのに来てくれるだなんて思わなかったわ!」
キャロラインが声を張り上げると、隣からライラとミアの嬉しそうな声が聞こえてくる。
「私もミアさんもずっとウズウズしていましたから! アリスのぬいぐるみから送られてくる中継を見て、ずっと準備していました! ね? ミアさん」
「はい! それはもう早くこちらに戻りたくて戻りたくて!」
「そうだったの。ヤキモキしたでしょう?」
「そうですね……でも、あちらでも色々あったので、後半はそんな事を考えている暇もありませんでした」
ライラが苦笑いして言うと、キャロラインが目を丸くした。
「何かあったの?」
「はい。まずヴァニタスの刻印を押されていた方たちが無事に全員目を覚ましました!」
「まあ! やっとね! それで? 皆、どこも衰弱したりはしていない? 何か問題は?」
「それが、目覚めた人たちは大分長い間眠っていたにも関わらず、軽度の栄養失調ですんでいたんです」
この事に関しては流石のポリー率いる救護班チームは全員首を傾げていた。
そしてミアの言葉にキャロラインも首を傾げている。
「それはおかしな話ね。誰も点滴を受けていたとか栄養剤を定期的に打ち込んでいたとかではないわよね?」
「はい。でも私達が目覚めた方々に色々お話を伺ったところ、いくつか不思議な事があったんです」
「不思議な事?」
キャロラインの言葉にライラとミアは顔を合わせて頷いた。
「実は、どうやら皆さん眠っている間、同じ夢を見ていたみたいなんです」
「同じ……夢?」
「そうなんです! 背丈よりも大きな花や草がある所で、カブトムシの執事と蝶々のメイド達が美味しいお菓子や不思議な食べ物を振る舞ってくれていた、と」
「カブトムシ? 蝶々?」
「はい。時折声が聞こえてきて「もうすぐですよ」「あと少しの我慢ですよ」と言って励ましてくれていたそうです。その他にも……えっと、ミアさんなんだっけ?」
「その他にも異様に手足の長いロバとか人の形をしているけれどずっと逆さまの人とかがやってきて、この星のお話を色々聞かれたと言っていました。夜になると流れ星のような水滴みたいな光るキャンディーが降ってきて、それが驚くほど美味しかったって」
「……全然想像できないし不思議な話ね……では皆、夢の中で食事をしていたと、そういう事?」
「ポリーさんはそれしか考えられないって仰っていました。人外なアリスが街を我が物顔で闊歩しているのだから、そんな事があっても不思議ではない! なんて言って髭を撫でてましたね」
ミアが苦笑いしながら言うと、それを聞いてキャロラインも苦笑いしている。
「もう、ポリーったら! どれだけアリスがお気に入りなの?」
「もう大好きなんだと思います。アリスさんは素直だし子どものような無邪気さだし、説明のつかない不思議な生態をしているしで、ポリーさんには堪らないのではないでしょうか」
「私もそう思います。アリスは知れば知るほど好きになっていくんです! 流石大地の化身です!」
胸を張って言い切ったライラを見て三人は思わず顔を見合わせて頷く。
「今まではそれでもアリスは人間よって思っていたのだけれど、流石にあの光るアリスを見た時は少しだけライラの言うようにあの子は大地の化身かもしれないと思ってしまったわ」
「私も……画面がずっと真っ白で、それなのにアリスさんの地獄の讃歌だけはしっかりと聞こえてきていて、気付いたらチームキャロラインの皆が一緒になって地獄の讃歌を口ずさんで居た時にはちょっと……大丈夫かな? って思いました」
特にルイスの悪口を言っていた歌詞には皆が酷く共感して大声で歌っていた。
「そうなの? 怖いわね……皆働きすぎかしら……」
ポツリと言ったキャロラインを見てライラとミアは苦笑いする。そんな二人を見てキャロラインは言った。
「全て終わったらまた皆で女子会温泉旅行でもしましょうか」
キャロラインの言葉にライラとミアは顔を輝かせて頷く。
「はい! 是非!」
「今から楽しみです! あ、でもその前に絶対にバセット領でバーベキューがありますよ!」
「そうね。あれはもう恒例だものね。そうと決まれば、早くチェックを終わらせてしまいましょう!」
そう言ってキャロラインはニケにお願いしてその後もあちこちを見て回った。
「宰相どの、これは一体?」
エントマハンターの長、ミカが言うと、カインも首を傾げつつ答える。
「多分だけど、あなた達がこちらに戻る前にソラからの祝福を受けたんだ。もしかたらそれが原因かも」
「ソラの祝福? そのソラというのが妖精王よりも偉い方なのか?」
「ああ。俺たちにはちょっと想像も出来ないけど、全ての星の妖精王をとりまとめてる凄い人らしい。だとしたらこの世界を元に戻すなんて容易い事なのかもな」
カインの言葉にミカは頷いて小麦を一つずつ点検して、土の状態も調べている。
「栄養も問題無い。むしろとても肥沃に生まれ変わっている。来年はここは休ませなければと思っていたが、まだまだいけそうだな」
「そうなの? だとしたらソラの祝福は大地にもあったって事か」
そう言えばソラは星への祝福だと言っていた。どうやらソラは建物だけではなく、星の全ての物に祝福を与えたようだ。
「カイン! あっちも見て来たんすけど、やっぱり全部綺麗なまんまっすね! 見事な金色畑だったっす!」
オリバーが心穏やかにカインに駆け寄ると、カインは笑顔で頷いて返してくれた。このコンビは多分、初めてだ。
「アメリアが暴れ倒した時にはどうなる事かと思ったけど、ソラが最終的に味方してくれて助かったよな! アリスちゃんじゃないけど、畑は一朝一夕じゃどうにもならないし」
「ほんとそれっすよ。俺も一番心配してたとこっす」
「いくら儂等が手を貸してもそれは無理じゃ。宰相どの、他の所も無事なんじゃろ?」
「ああ、みたいだよ。ミカの爺さんわざわざ来てくれたのに、なんかごめんな」
カインが言うと、ミカは珍しく満面の笑みで首を振った。
「何を言うか。あんた達のおかげで今の儂等があるんじゃ。こんな時に手を貸さずにいつ貸すんじゃ。それに小麦達も感謝しておるぞ」
「そうなんすか?」
「ああ。皆、喜んどる。だからこんなにも美しく輝いているんじゃ」
言いながらミカは目の前の小麦畑を見渡した。小麦達は日差しと風を受けてキラキラと輝きながらまるで踊るかのようにゆらゆらと揺れている。
「綺麗だな……無くならなくて良かった……」
「ほんとっすね……こういうの見てると、自分はちっぽけなんだなていっつも思うっす」
何気なくオリバーが言うと、カインが無言で頷いた。そんなカインの反応にオリバーは内心首を傾げる。もしもここに居たのがアリスやリアンだったら、きっと何かしらのリアクションが返ってくるだろうが、カインだとそうはいかない。
何となくそれを物足りないと感じてしまた自分に気付いてオリバーは青ざめた。
「ヤバ……俺もどんどん感化されてる……」
「ん? どうかしたか? オリバー」
「ああ、いや、何でも無いっす」
「そうか? それじゃあ他の所も一応点検しに行くか!」
「そ……っすね」
初めてのカインとのペアでとても心穏やかに過ごせているのに、裏腹にオリバーの心は複雑だ。
結局、始終穏やかに終わったカインとのペアはあまりにも穏やかすぎて相当アリスとリアンが恋しかったのか、その日の夜に二人が夢にまで出てきたのは秘密である。
キャロラインはルーデリアの地方をニケに乗ってひたすら空からチェックしていた。隣に並んで反対側をチェックしてくれているのはライラだ。そんなライラの後ろにはミアが乗っている。
「それにしても、まだ呼んでも居ないのに来てくれるだなんて思わなかったわ!」
キャロラインが声を張り上げると、隣からライラとミアの嬉しそうな声が聞こえてくる。
「私もミアさんもずっとウズウズしていましたから! アリスのぬいぐるみから送られてくる中継を見て、ずっと準備していました! ね? ミアさん」
「はい! それはもう早くこちらに戻りたくて戻りたくて!」
「そうだったの。ヤキモキしたでしょう?」
「そうですね……でも、あちらでも色々あったので、後半はそんな事を考えている暇もありませんでした」
ライラが苦笑いして言うと、キャロラインが目を丸くした。
「何かあったの?」
「はい。まずヴァニタスの刻印を押されていた方たちが無事に全員目を覚ましました!」
「まあ! やっとね! それで? 皆、どこも衰弱したりはしていない? 何か問題は?」
「それが、目覚めた人たちは大分長い間眠っていたにも関わらず、軽度の栄養失調ですんでいたんです」
この事に関しては流石のポリー率いる救護班チームは全員首を傾げていた。
そしてミアの言葉にキャロラインも首を傾げている。
「それはおかしな話ね。誰も点滴を受けていたとか栄養剤を定期的に打ち込んでいたとかではないわよね?」
「はい。でも私達が目覚めた方々に色々お話を伺ったところ、いくつか不思議な事があったんです」
「不思議な事?」
キャロラインの言葉にライラとミアは顔を合わせて頷いた。
「実は、どうやら皆さん眠っている間、同じ夢を見ていたみたいなんです」
「同じ……夢?」
「そうなんです! 背丈よりも大きな花や草がある所で、カブトムシの執事と蝶々のメイド達が美味しいお菓子や不思議な食べ物を振る舞ってくれていた、と」
「カブトムシ? 蝶々?」
「はい。時折声が聞こえてきて「もうすぐですよ」「あと少しの我慢ですよ」と言って励ましてくれていたそうです。その他にも……えっと、ミアさんなんだっけ?」
「その他にも異様に手足の長いロバとか人の形をしているけれどずっと逆さまの人とかがやってきて、この星のお話を色々聞かれたと言っていました。夜になると流れ星のような水滴みたいな光るキャンディーが降ってきて、それが驚くほど美味しかったって」
「……全然想像できないし不思議な話ね……では皆、夢の中で食事をしていたと、そういう事?」
「ポリーさんはそれしか考えられないって仰っていました。人外なアリスが街を我が物顔で闊歩しているのだから、そんな事があっても不思議ではない! なんて言って髭を撫でてましたね」
ミアが苦笑いしながら言うと、それを聞いてキャロラインも苦笑いしている。
「もう、ポリーったら! どれだけアリスがお気に入りなの?」
「もう大好きなんだと思います。アリスさんは素直だし子どものような無邪気さだし、説明のつかない不思議な生態をしているしで、ポリーさんには堪らないのではないでしょうか」
「私もそう思います。アリスは知れば知るほど好きになっていくんです! 流石大地の化身です!」
胸を張って言い切ったライラを見て三人は思わず顔を見合わせて頷く。
「今まではそれでもアリスは人間よって思っていたのだけれど、流石にあの光るアリスを見た時は少しだけライラの言うようにあの子は大地の化身かもしれないと思ってしまったわ」
「私も……画面がずっと真っ白で、それなのにアリスさんの地獄の讃歌だけはしっかりと聞こえてきていて、気付いたらチームキャロラインの皆が一緒になって地獄の讃歌を口ずさんで居た時にはちょっと……大丈夫かな? って思いました」
特にルイスの悪口を言っていた歌詞には皆が酷く共感して大声で歌っていた。
「そうなの? 怖いわね……皆働きすぎかしら……」
ポツリと言ったキャロラインを見てライラとミアは苦笑いする。そんな二人を見てキャロラインは言った。
「全て終わったらまた皆で女子会温泉旅行でもしましょうか」
キャロラインの言葉にライラとミアは顔を輝かせて頷く。
「はい! 是非!」
「今から楽しみです! あ、でもその前に絶対にバセット領でバーベキューがありますよ!」
「そうね。あれはもう恒例だものね。そうと決まれば、早くチェックを終わらせてしまいましょう!」
そう言ってキャロラインはニケにお願いしてその後もあちこちを見て回った。
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