【完結】傲慢王子エデンと内気男爵リオンの恋模様

第10話 距離が縮まる瞬間

「リオン、少し時間はあるか？」

　
ある晴れた午後、宮廷の庭園でエデンがリオンを呼び止める。リオンは驚きながらも、すぐにうなずいた。

　
「はい。もちろん、殿下」

　
ふと見ると、エデンはこれまでよりも少し穏やかな表情をしているように見える。彼の後ろに控えているイーサンも、微妙に複雑そうな顔。

　
「イーサン、お前は下がっていろ。二人で話す」

　
エデンの言葉に、イーサンは一瞬戸惑うが、やがて小さく首を縦に振って離れていく。その姿を見届けてから、エデンはリオンを促すように歩き出した。

　
「こっちへ来い」

　
「はい……」

　
リオンは心臓が高鳴るのを感じながら、エデンの後をついていく。やがて二人が辿り着いたのは、華麗なバラ園の一角。鮮やかな花々が咲き誇り、甘い香りが漂う場所だった。

　
「……今日は、天気がいい。バラもよく咲いている」

　
エデンは独り言のように呟く。その横顔はどこか柔らかな空気をまとっていて、リオンは思わず息をのむ。

　
「はい。すごく綺麗ですね」

　
リオンが素直に答えると、エデンはちらりとリオンを見つめる。

　
「お前、いつも花を持ってくるだろう。花が好きなのか？」

　
「ええ……家の庭にも花がたくさん咲いていて、小さい頃から慣れ親しんでいました」

　
エデンはふと笑みをこぼしそうになり、慌てて表情を引き締める。

　
「そうか。……お前は、俺がこうして呼び出すのをどう思う？」

　
何気なく放たれた言葉に、リオンの胸は一気に熱くなる。エデンが自分を必要としてくれている――そんな気がして、嬉しさがこみ上げてくる。

　
「正直、とても嬉しいです。殿下が僕なんかを呼んでくださるなんて……最初は思いもよりませんでした」

　
すると、エデンは微かに眉を寄せる。

　
「……お前なんか、とは何だ。お前は……まあ、変わった奴だが」

　
「す、すみません……つい卑下してしまって」

　
リオンが慌てて頭を下げると、エデンはため息をつきながらも、どこか楽しげに見える。

　
「お前は……そのままでいい。下手に取り繕われるよりは、ずっとマシだ」

　
それはエデンなりの誉め言葉だと感じて、リオンの頬が熱を帯びる。こんな風にエデンと静かに会話をするだけで、心が満たされていく気がした。

　
しばらくして、エデンは立ち止まり、バラの咲く一角を見渡す。

　
「俺は……本当は、こんな風にのんびり過ごすことなんて滅多にない。王子としての仕事や、周囲の視線もあるからな」

　
「……そうですよね」

　
リオンはエデンの言葉に耳を傾ける。強気でプライドの高い王子が、こうして自分に思いを打ち明けるなど、以前のリオンなら想像もできなかった。

　
「お前と話していると……なぜか気を張らなくていい気がする。それが一体、何なのか分からないが……」

　
そう呟くエデンの横顔は、少しだけ安堵したようにも見える。リオンは嬉しさで胸がいっぱいになり、自然と微笑みが浮かぶ。

　
「僕は……殿下がこうして少しでも楽になれるなら、いつでもお話しを聞きます」

　
すると、エデンはわずかに苦笑して小さく頷いた。その仕草は、まるで信頼の証しのようでもあった。

　
「……お前らしいな。じゃあ……少しだけ、付き合え」

　
エデンが視線を向けたのはベンチだった。二人で腰掛けて、まだ時間の許す限り、他愛もない会話を続ける。

　
そのひとときは、王族と男爵家の青年という身分を超えて、ただ一人の人間同士が距離を縮めている瞬間だった。