【完結】傲慢王子エデンと内気男爵リオンの恋模様

第21話 セシリアの仲裁

「リオン、少しお話しできるかしら」

　
王宮の一角にある応接室。そこに姿を現したのは、第一王女セシリアだった。リオンは思わぬ呼び出しに緊張しながらも、丁寧にお辞儀をする。

　
「はい。王女殿下、わざわざお時間をいただきありがとうございます」

　
腰掛けを勧められ、リオンは恐る恐る椅子に座る。セシリアは優しい眼差しを向けつつ、ゆっくりと切り出した。

　
「エデンとあなたの間で、なにやらすれ違いがあったと聞いたわ」

　
リオンは沈んだ表情で俯く。あの舞踏会からの衝突以来、エデンとは距離ができてしまった感がある。謝りたい気持ちはあれど、どうしていいか分からず日々が過ぎていた。

　
「僕のせいで、殿下を追い詰めてしまったようで……無神経だったと思います」

　
セシリアはリオンの様子を見て、柔らかく微笑む。けれど、その瞳にはどこか哀しみも宿っていた。

　
「エデンは昔からそうなの。周りに期待されて、いつの間にか壁を作りがち。でもあなたは、そんな彼の壁を壊せる数少ない存在だと思うわ」

　
その言葉に、リオンは驚きのあまり目を見開く。セシリアは続ける。

　
「王家に生まれたエデンは、常に責任と義務に縛られてきた。弱さを見せれば、それを叩かれることもある。だからこそ、誰にも心を開こうとしなかったの。……でも、あなたがその孤独に気づいたからこそ、エデンも少しずつ歩み寄っていたはず」

　
リオンの胸が熱くなる。エデンが壁を作るのは、自分を守るためだと薄々感じてはいたが、改めてセシリアの口から聞くと、その重さを痛感する。

　
「僕は……殿下が苦しむ姿を見たくありません。助けたいのに、どうすればいいか分からなくて」

　
リオンの声が震える。セシリアはそっと微笑んで、リオンの肩に手を置く。

  
「あなたができることは、彼を責めず、ただ寄り添うこと。もしエデンが突き放したとしても、その心の扉を叩き続ける勇気があるなら……きっと道は開けるはずよ」

  
「寄り添う……」

  
リオンはその言葉を噛み締める。確かに、自分はエデンの悩みを知らないまま、一方的に好きという感情を押し付けていたかもしれない。寄り添うためには、もっとエデンを理解しようとする姿勢が必要だ。

  
「はい、王女殿下。僕、もう一度殿下と話してみます」

  
その瞳には、少しだけ光が戻る。セシリアは満足そうに頷き、席を立ち上がる。

  
「ええ、そうしてあげて。エデンも、あなたとの距離を完全に絶ちたいわけではないのよ。あの子の本音を引き出せるのは、きっとあなた」

  
そう告げられて、リオンは決意を新たにする。エデンを苦しめたいわけじゃない。むしろ、笑顔でいてほしい。そのために自分ができることがあるなら、どんな壁だって乗り越えたいと思うのだ。

  
「ありがとうございます、王女殿下。僕……頑張ります」

  
リオンは頭を下げ、セシリアと別れる。そして、廊下へ出るとすぐに深呼吸し、心の中で再び誓う。

  
「殿下の力になりたい。必ず……もう一度、ちゃんと話そう」

  
セシリアの仲裁は、リオンの心を救い、エデンへの再挑戦を促す一筋の光となったのだった。