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第28話 密やかな宮廷の反発
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「お聞きになりました? エデン殿下が、男爵家の次男と連れ立っているとか」
「まったく、あり得ない話ですわ。王族としての品位にかかわるのでは」
王宮の廊下の片隅で、令嬢たちのひそひそ話が聞こえてくる。たまたま通りかかったリオンは、思わず足を止めた。自分のことを言われているのは明白だったからだ。
「……やっぱり、僕と殿下の噂は広まっているんだ」
リオンは苦い表情を浮かべる。公然の場で踊ったり、庭園で二人の姿を見られたりすれば、当然噂も広がる。だが、それがエデンに悪い影響を与えているとしたらどうしようかと、心配になる。
「リオン様、そんなところでどうなさいました」
声をかけたのは近衛騎士の一人。リオンは慌てて笑みを作って首を振る。
「いえ、何でもないです」
噂など気にしていないと自分に言い聞かせるが、胸の奥に微かな痛みが走るのは止められない。エデンに迷惑をかけるのではないかという不安が膨らむばかりだ。
「男爵家の次男とはいえ、身分違いですわ。エデン殿下にはもっとふさわしい方が……」
さきほどの令嬢たちの声が耳に残る。どれだけエデンが自分を受け入れてくれたとしても、周囲が彼を認めない可能性は大いにある。リオンはそれを痛感し、唇を噛む。
「……でも、だからといって離れるわけにはいかない」
リオンは決意を新たにする。エデンが抱えている孤独を知ってしまった以上、自分だけ身を引いて楽になるのは卑怯だと思うからだ。
その日の夕方、リオンはささやかな花束を手にエデンの執務室へ向かった。扉の前で控える近衛の兵士に声をかける。
「エデン殿下に、お渡ししたいものがあるんです。今、ご多忙でしょうか」
兵士は一瞬怪訝そうな顔をするが、少し考えた末に室内を確認し、リオンを通す。中に入ると、エデンが机に山積みの書類を捌いていた。リオンの姿に気づくと、書類を脇に寄せて小さく笑う。
「また花を持ってきたのか。懲りない奴だ」
「はい。……殿下、こういうものはご迷惑でしょうか」
リオンが遠慮がちに差し出すと、エデンはわざとらしくため息をつく。しかし、嫌そうには見えない。その手で花束を受け取り、軽く香りを確かめるように鼻を寄せる。
「花そのものは嫌いじゃない。ただ、お前を噂する連中は面白く思わないだろうな」
「それでも構いません。殿下が受け取ってくださるなら、それだけで僕は嬉しいです」
真っ直ぐにそう言うリオンに、エデンは声を潜める。
「お前……もう少し自分を守れ。下手をすると、お前が狙われるかもしれない」
周囲の反発が高まれば、嫌がらせも本格的になりかねない。エデンはそれを心配しての忠告だった。リオンの胸は締め付けられるが、はっきり答える。
「ご心配ありがとうございます。でも……僕は逃げません」
エデンは一瞬だけ驚いた表情を見せる。噂や反発を恐れずに、なお自分のもとに来るリオンを、どう受け止めればいいのか戸惑うのだ。
「……お前は本当に馬鹿だな」
軽く苦笑しながら、エデンは花束をデスクの隅へそっと置いた。周囲からの風当たりがいくら強くなろうと、リオンの気持ちは揺るがない。その不器用な愛情が、エデンの胸に小さな温もりを灯すのだった。
「まったく、あり得ない話ですわ。王族としての品位にかかわるのでは」
王宮の廊下の片隅で、令嬢たちのひそひそ話が聞こえてくる。たまたま通りかかったリオンは、思わず足を止めた。自分のことを言われているのは明白だったからだ。
「……やっぱり、僕と殿下の噂は広まっているんだ」
リオンは苦い表情を浮かべる。公然の場で踊ったり、庭園で二人の姿を見られたりすれば、当然噂も広がる。だが、それがエデンに悪い影響を与えているとしたらどうしようかと、心配になる。
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「いえ、何でもないです」
噂など気にしていないと自分に言い聞かせるが、胸の奥に微かな痛みが走るのは止められない。エデンに迷惑をかけるのではないかという不安が膨らむばかりだ。
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さきほどの令嬢たちの声が耳に残る。どれだけエデンが自分を受け入れてくれたとしても、周囲が彼を認めない可能性は大いにある。リオンはそれを痛感し、唇を噛む。
「……でも、だからといって離れるわけにはいかない」
リオンは決意を新たにする。エデンが抱えている孤独を知ってしまった以上、自分だけ身を引いて楽になるのは卑怯だと思うからだ。
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「エデン殿下に、お渡ししたいものがあるんです。今、ご多忙でしょうか」
兵士は一瞬怪訝そうな顔をするが、少し考えた末に室内を確認し、リオンを通す。中に入ると、エデンが机に山積みの書類を捌いていた。リオンの姿に気づくと、書類を脇に寄せて小さく笑う。
「また花を持ってきたのか。懲りない奴だ」
「はい。……殿下、こういうものはご迷惑でしょうか」
リオンが遠慮がちに差し出すと、エデンはわざとらしくため息をつく。しかし、嫌そうには見えない。その手で花束を受け取り、軽く香りを確かめるように鼻を寄せる。
「花そのものは嫌いじゃない。ただ、お前を噂する連中は面白く思わないだろうな」
「それでも構いません。殿下が受け取ってくださるなら、それだけで僕は嬉しいです」
真っ直ぐにそう言うリオンに、エデンは声を潜める。
「お前……もう少し自分を守れ。下手をすると、お前が狙われるかもしれない」
周囲の反発が高まれば、嫌がらせも本格的になりかねない。エデンはそれを心配しての忠告だった。リオンの胸は締め付けられるが、はっきり答える。
「ご心配ありがとうございます。でも……僕は逃げません」
エデンは一瞬だけ驚いた表情を見せる。噂や反発を恐れずに、なお自分のもとに来るリオンを、どう受け止めればいいのか戸惑うのだ。
「……お前は本当に馬鹿だな」
軽く苦笑しながら、エデンは花束をデスクの隅へそっと置いた。周囲からの風当たりがいくら強くなろうと、リオンの気持ちは揺るがない。その不器用な愛情が、エデンの胸に小さな温もりを灯すのだった。
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