【完結】傲慢王子エデンと内気男爵リオンの恋模様

えるろって

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第29話 秘密の文通

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「リオン様、こちらが届いております」

  
男爵家の執事が、手紙を差し出してくる。リオンは心当たりがないまま受け取ると、差出人の名は書かれていない。けれど、独特の封蝋と上質な封筒の質感から、すぐに察しがついた。

  
「殿下……」

  
中には、簡潔ながらもエデンの名前を思わせる文面が記されている。

  
「件の花、さっそく飾っている。香りは悪くない。ただ、あまり派手に動くな。お前を守るためにも、慎重に振る舞え」

  
その一文に、リオンは思わず微笑んでしまう。口調こそそっけないが、自分を気遣う気持ちが伝わってくるからだ。

  
「殿下は、わざわざ手紙で僕に伝えようとしてくれたんだ」

  
リオンは胸の奥がじんわりと温まるのを感じる。エデンは公の場では互いに立場があるため、会うのが難しい日も多い。だからこそ、こうして内密に文通をすることで、お互いの気持ちを確認し合っているのだろう。

  
リオンも急いで返事を書き始める。

  
「殿下、いつもお気遣い感謝します。僕は殿下が無事でいてくださるなら、それだけで十分です。もしまた困ったことがあれば教えてください。僕にできることがあれば何でもします」

  
文面には愛を直接示さないよう気を配りながらも、エデンへの想いをにじませる。王族との手紙が人目に触れれば、一大事に発展しかねない。そういった危険性も承知しているからこそ、配慮が必要だった。

  
数日後、また返信が届く。今度は少し短い。

  
「俺の身を案じるより、自分を守れ。仕事で出払うことが多い。お前も余計な噂に巻き込まれるな」

  
殿下らしい、簡潔な注意。それでもリオンは嬉しかった。互いの無事を確認し、短い言葉の中にも優しさが感じられる。公に会えなくても、二人はこうしてつながっているのだ。

  
(殿下は本当に、僕を気にかけてくれているんだ)

  
そう思うと、嫌がらせや噂話など気にならなくなる。密かな文通によって、お互いに離れていても心は近くにあると感じられるからだ。

  
「リオン、何やら嬉しそうだな」

  
同じ部屋にいた父アルベールが微笑ましそうに声をかける。リオンは顔を赤らめながら小さく頷く。

  
「はい、少しだけ幸せを感じられることがありまして」

  
「そうか。お前が笑っていられるなら、わしも安心だ」

  
アルベールの温かな言葉に、リオンは感謝を込めて笑い返す。困難が待ち受けているのは分かっているが、エデンとの秘密のやり取りが、その辛さを和らげてくれる。恋の力とは、ここまで人を強くするものなのかと、自分自身でも驚くほどだ。

  
(いつか、堂々と殿下と話し合える日が来るのだろうか。……その日まで、僕は耐えて、頑張るしかない)

  
リオンは手紙を大切にしまい込み、再びペンを握りしめる。短い言葉でも、エデンに伝えたい思いは尽きない。秘密の文通が、二人の心を結びつける大切な架け橋になっていた。
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