【完結】傲慢王子エデンと内気男爵リオンの恋模様

えるろって

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第32話 セシリアの計らい

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「エデン、あなたの周囲が少し騒がしくなってきたわね」

  
王女セシリアが、弟の部屋を訪れる。大きな窓から差し込む陽光を受けて、エデンは書類に目を通していたが、その手を止めて姉に顔を向ける。

  
「騒がしく……というか、あいつらが勝手に騒いでいるだけだ。俺は変わらない」

  
エデンの瞳には自信が宿っているが、セシリアは苦笑して首を振る。

  
「あなたが変わらないかどうかは問題じゃないの。周囲がどう動くかを考えるのも、王族の務めよ。特に、宰相や影響力ある貴族令嬢たちが動けば、リオンを巻き込む恐れがあるわ」

  
その名前が出たとき、エデンの眉がピクリと動く。彼はリオンの身を案じてはいるが、どう守るかまでは明確な答えを持っていない。

  
「どうせあいつは引かないだろう。嫌がらせをされても耐えると決めているようだし」

  
「そうね。でも、一人で耐えられるほど、宮廷の政治は甘くない。だからこそ、あなたがそれとなく盾になってあげる必要があるわ」

  
セシリアはエデンを見つめ、その頑なな表情に優しく触れる。

  
「リオンはあなただけを見て、あなただけを信じている。それはとても純粋で、でも危険も多い。……あなたが本気なら、彼を守りきる覚悟を持たなくては」

  
エデンは視線を落とし、机上の書類を無意識に指でなぞる。自分にその覚悟があるか、問いかけるような沈黙が流れる。

  
「……姉上は、俺とリオンがこのまま近づくことを推奨するのか?」

  
「推奨なんてしないわ。ただ、私たち王族にも心があるということを忘れないでほしいの。王家の使命と個人の幸せは、両立するのが難しい。でも、あなたが諦めるのなら、最初からリオンを惹きつける必要はなかったはず」

  
セシリアの言葉は厳しくも温かい。エデンは小さく息を吐き、苦笑まじりに肩をすくめる。

  
「俺が惹きつけたわけじゃない。あいつが勝手に近づいてきたんだ」

  
「けれど、あなたは振り払わなかった。……ねえ、エデン。私に考えがあるの。貴族たちがあなたを縛ろうとするなら、逆に時間稼ぎをしてしまえばいい」

  
「時間稼ぎ?」

  
エデンは眉をひそめる。セシリアは微笑を浮かべ、計略を練るように話し始める。

  
「具体的には、あなたへの婚約話や政治的縁談を、形式的に検討するふりをして先延ばしにするの。そうすることで、宰相や令嬢たちの目を逸らし、リオンが集中的に狙われるのを防ぐわ」

  
姉の提案に、エデンはしばらく考え込む。そして、ゆっくりと頷いた。

  
「……なるほど。俺が絡む婚約話を出せば、令嬢たちはそっちに注目する。あいつへの嫌がらせも分散するか」

  
「ええ。完璧な策ではないけれど、今のところそれが最善だと思う。リオンには内緒で進めるべきかもしれないわ。あの子、きっと自分のせいであなたが婚約を考えるなんて誤解して落ち込むでしょうから」

  
エデンはセシリアの指摘に苦笑しつつ、心の中で決意を固める。リオンを守るための遠回りだが、これも一つの選択肢だろう。

  
「ありがとう、姉上。……俺も、あいつを失いたくないんだ」

  
素直に漏れたエデンの本音に、セシリアは優しい眼差しを向ける。こうして、エデンとセシリアの“時間稼ぎ”という計らいが、水面下で動き始めたのだった。
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