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第38話 危うい均衡
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「エデン殿下、最近はやりすぎではありませんか」
宰相の苦言は続いている。表立ってエデンを非難できる者は少ないが、水面下では複数の貴族が連携して「エデン王子を正道に戻そう」という動きを強めていた。彼らの意図する“正道”とは、相応の貴族令嬢との婚姻を結び、王族としての立場を強固にすることだ。
「誰がどんな動きをしようと、俺の意志は変わらない。……お前たちが俺を制御できると思うな」
エデンはそう冷たく言い放つが、その眉間には深い皺が刻まれている。周囲の圧力が高まれば高まるほど、リオンを危険にさらすことになると感じているからだ。
「殿下、ただでさえ隣国との交渉も不安要素が多いというのに、こんな内輪の問題に時間を割いている場合ではありません。王家の名誉を守るためにも、穏便にことを進める策を探るべきかと」
「だったら、そっとしておけ。わざわざ俺を追い詰めるから余計に面倒になるんだ」
エデンの視線は鋭く、相手を怯ませるほどの威圧感を放つ。宰相をはじめとする古参の貴族たちは、一瞬言葉を失うが、今度は引き下がらなかった。
「ですが、殿下が“あの男爵家の次男”との関係を断たぬ限り、王宮の安定は崩れるでしょう。宰相派や有力貴族の多くが、既に反発を表明しているのです」
「……そんなもの、くだらない思惑だろう。王宮の安定とは関係ない」
エデンは吐き捨てるように言うが、実際に貴族令嬢たちの不満が各方面に広がっていることは知っていた。結局のところ、リオンとの関係を続ける以上は、エデンもリオンも安全とはいえない状況にある。
「殿下、申し訳ありません。わたしも必ずしも殿下を否定したいわけではないのですが……」
宰相の苦しげな声に、エデンは言葉を失う。相手なりに王国の未来を憂いている部分もあり、全てがエデンへの攻撃というわけではないのだ。
「……もういい。俺は自分の道を見失わない」
それだけ言い残し、エデンは部屋を出る。廊下を大股で歩くその背には苛立ちと焦燥がにじみ出ていた。
「殿下、少しお待ちください」
後を追うのはイーサンだ。騎士としてエデンの行動を把握しなければならないが、今はそれ以上にエデンの心を案じている。エデンは振り返らずに言う。
「……放っておいてくれ。あまり干渉されると余計に苛立つ」
「ですが、殿下……」
イーサンの言葉は最後まで続かなかった。エデンが立ち止まり、振り向いた眼差しがあまりにも険しかったからだ。
「俺は冷静だ。……リオンにも会ってこないといけない。あいつがこの騒動を知って、不安になっているかもしれない」
「かしこまりました」
イーサンはそれ以上何も言えず、敬礼して距離を置く。エデンがリオンを思う気持ちを改めて痛感しながら、自分の心にも鈍い痛みを感じるのだった。
危うい均衡の上で、エデンは王族としての責務とリオンへの想いの狭間でもがき続けている。遠くない未来、どちらかを選ばなくてはならない日が来るのではないか――そんな不吉な予感が、王宮の空気を一層重苦しくしていた。
宰相の苦言は続いている。表立ってエデンを非難できる者は少ないが、水面下では複数の貴族が連携して「エデン王子を正道に戻そう」という動きを強めていた。彼らの意図する“正道”とは、相応の貴族令嬢との婚姻を結び、王族としての立場を強固にすることだ。
「誰がどんな動きをしようと、俺の意志は変わらない。……お前たちが俺を制御できると思うな」
エデンはそう冷たく言い放つが、その眉間には深い皺が刻まれている。周囲の圧力が高まれば高まるほど、リオンを危険にさらすことになると感じているからだ。
「殿下、ただでさえ隣国との交渉も不安要素が多いというのに、こんな内輪の問題に時間を割いている場合ではありません。王家の名誉を守るためにも、穏便にことを進める策を探るべきかと」
「だったら、そっとしておけ。わざわざ俺を追い詰めるから余計に面倒になるんだ」
エデンの視線は鋭く、相手を怯ませるほどの威圧感を放つ。宰相をはじめとする古参の貴族たちは、一瞬言葉を失うが、今度は引き下がらなかった。
「ですが、殿下が“あの男爵家の次男”との関係を断たぬ限り、王宮の安定は崩れるでしょう。宰相派や有力貴族の多くが、既に反発を表明しているのです」
「……そんなもの、くだらない思惑だろう。王宮の安定とは関係ない」
エデンは吐き捨てるように言うが、実際に貴族令嬢たちの不満が各方面に広がっていることは知っていた。結局のところ、リオンとの関係を続ける以上は、エデンもリオンも安全とはいえない状況にある。
「殿下、申し訳ありません。わたしも必ずしも殿下を否定したいわけではないのですが……」
宰相の苦しげな声に、エデンは言葉を失う。相手なりに王国の未来を憂いている部分もあり、全てがエデンへの攻撃というわけではないのだ。
「……もういい。俺は自分の道を見失わない」
それだけ言い残し、エデンは部屋を出る。廊下を大股で歩くその背には苛立ちと焦燥がにじみ出ていた。
「殿下、少しお待ちください」
後を追うのはイーサンだ。騎士としてエデンの行動を把握しなければならないが、今はそれ以上にエデンの心を案じている。エデンは振り返らずに言う。
「……放っておいてくれ。あまり干渉されると余計に苛立つ」
「ですが、殿下……」
イーサンの言葉は最後まで続かなかった。エデンが立ち止まり、振り向いた眼差しがあまりにも険しかったからだ。
「俺は冷静だ。……リオンにも会ってこないといけない。あいつがこの騒動を知って、不安になっているかもしれない」
「かしこまりました」
イーサンはそれ以上何も言えず、敬礼して距離を置く。エデンがリオンを思う気持ちを改めて痛感しながら、自分の心にも鈍い痛みを感じるのだった。
危うい均衡の上で、エデンは王族としての責務とリオンへの想いの狭間でもがき続けている。遠くない未来、どちらかを選ばなくてはならない日が来るのではないか――そんな不吉な予感が、王宮の空気を一層重苦しくしていた。
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