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第40話 王の本音
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「エデン、お前のやり方が国にとって最善かどうか……よく考えているのか」
玉座の間ではなく、王家の居住区にある小さな談話室。そこに呼び出されたエデンは、父である国王の正面に立っていた。周りにはほとんど人がいない。セシリアも今日は同席していないようだ。
「最善かは分からない。ただ、俺はもう自分の気持ちを無視して生きるつもりはありません」
エデンは遠慮のない口調で答える。国王の表情は険しくも悲しげでもある。しばしの沈黙のあと、国王は低い声で問いかけた。
「お前はその青年……リオンを大切に思っているのだな」
エデンの胸が高鳴る。まさか国王の口からリオンの名が出るとは思わなかった。王としてではなく、一人の親として問うているようにも聞こえる。
「……はい。あいつがいない未来は考えたくない。周囲に何を言われようと、俺はリオンと共に歩みたいと思っています」
率直な答えに、国王は複雑な表情を見せる。そこには厳しさだけでなく、どこかホッとしたような色もあった。
「そうか。……エデン、お前が自分の幸せを望むのは間違いではない。だが、お前は王家の人間だ。国の将来や外交関係を考えれば、通常は異性の貴族と縁を結ぶのが定石……それでも、譲れぬ思いがあるのだな」
国王の声には、わずかな温情が含まれる。エデンは視線を上げ、父の顔を見据えた。
「父上も昔、母上と結婚なさったときには反対が多かったと聞いています。身分差や政治的な思惑で」
「そうだな。……私も王になる前は、周りから縁談を押しつけられたが、それを跳ね除けて母上を選んだ。……あれは大きな賭けだった」
国王は遠い目をして微笑む。思い出すように、愛しい人を懐かしむ表情だ。それを見て、エデンは一抹の期待を抱く。父もかつては自分の信じる道を選んだのではないか、と。
「もし、お前が本当にリオンという青年を人生の伴侶とするつもりなら、周囲の理解を得るために相応の行動が必要だ。強引に押し通せば、リオンが傷つくことになるかもしれない」
「……はい」
エデンは思い返す。リオンは何度も王家や周囲の圧力に耐えながら、エデンの傍にいようとしている。それに報いるためにも、適切な方法を考えなければならないと思った。
「幸い、セシリアもお前を応援しているようだ。私も、形だけの婚姻に縛られたお前を見るのは望まない。……だが、反対勢力を納得させるだけの力を見せてもらわなくてはならない」
国王は真っ直ぐにエデンを見つめる。その眼差しは、王としての冷徹さと父としての優しさが入り混じったものだった。エデンは大きく息を吸い込み、力強く頷く。
「分かりました。父上の期待に応えます。……リオンと共に、必ずこの国を良い方向へ導いてみせます」
その言葉に、国王は深く頷いた。表情こそ柔らかくないが、エデンの決意を受け止めた様子だ。
「エデン、お前が幸せになることは、王家にとっても決して悪いことではない。……ただ、これから多くの試練が待ち受けるだろう。それを乗り越える覚悟があるなら、私はお前を見守ろう」
父の本音を聞いたエデンは、胸が熱くなる。まだ全面的に認められたわけではない。だが、国王の態度には確かな親心が感じられた。
「ありがとうございます、父上」
その一言で、エデンは談話室を後にする。背筋を伸ばして歩く姿は、いつも以上に凛々しく見える。リオンとの未来に向けて、王族としてできる限りの手段を模索し、周囲の反対を乗り越える――その決意が、エデンの中で確固たるものになった瞬間だった。
玉座の間ではなく、王家の居住区にある小さな談話室。そこに呼び出されたエデンは、父である国王の正面に立っていた。周りにはほとんど人がいない。セシリアも今日は同席していないようだ。
「最善かは分からない。ただ、俺はもう自分の気持ちを無視して生きるつもりはありません」
エデンは遠慮のない口調で答える。国王の表情は険しくも悲しげでもある。しばしの沈黙のあと、国王は低い声で問いかけた。
「お前はその青年……リオンを大切に思っているのだな」
エデンの胸が高鳴る。まさか国王の口からリオンの名が出るとは思わなかった。王としてではなく、一人の親として問うているようにも聞こえる。
「……はい。あいつがいない未来は考えたくない。周囲に何を言われようと、俺はリオンと共に歩みたいと思っています」
率直な答えに、国王は複雑な表情を見せる。そこには厳しさだけでなく、どこかホッとしたような色もあった。
「そうか。……エデン、お前が自分の幸せを望むのは間違いではない。だが、お前は王家の人間だ。国の将来や外交関係を考えれば、通常は異性の貴族と縁を結ぶのが定石……それでも、譲れぬ思いがあるのだな」
国王の声には、わずかな温情が含まれる。エデンは視線を上げ、父の顔を見据えた。
「父上も昔、母上と結婚なさったときには反対が多かったと聞いています。身分差や政治的な思惑で」
「そうだな。……私も王になる前は、周りから縁談を押しつけられたが、それを跳ね除けて母上を選んだ。……あれは大きな賭けだった」
国王は遠い目をして微笑む。思い出すように、愛しい人を懐かしむ表情だ。それを見て、エデンは一抹の期待を抱く。父もかつては自分の信じる道を選んだのではないか、と。
「もし、お前が本当にリオンという青年を人生の伴侶とするつもりなら、周囲の理解を得るために相応の行動が必要だ。強引に押し通せば、リオンが傷つくことになるかもしれない」
「……はい」
エデンは思い返す。リオンは何度も王家や周囲の圧力に耐えながら、エデンの傍にいようとしている。それに報いるためにも、適切な方法を考えなければならないと思った。
「幸い、セシリアもお前を応援しているようだ。私も、形だけの婚姻に縛られたお前を見るのは望まない。……だが、反対勢力を納得させるだけの力を見せてもらわなくてはならない」
国王は真っ直ぐにエデンを見つめる。その眼差しは、王としての冷徹さと父としての優しさが入り混じったものだった。エデンは大きく息を吸い込み、力強く頷く。
「分かりました。父上の期待に応えます。……リオンと共に、必ずこの国を良い方向へ導いてみせます」
その言葉に、国王は深く頷いた。表情こそ柔らかくないが、エデンの決意を受け止めた様子だ。
「エデン、お前が幸せになることは、王家にとっても決して悪いことではない。……ただ、これから多くの試練が待ち受けるだろう。それを乗り越える覚悟があるなら、私はお前を見守ろう」
父の本音を聞いたエデンは、胸が熱くなる。まだ全面的に認められたわけではない。だが、国王の態度には確かな親心が感じられた。
「ありがとうございます、父上」
その一言で、エデンは談話室を後にする。背筋を伸ばして歩く姿は、いつも以上に凛々しく見える。リオンとの未来に向けて、王族としてできる限りの手段を模索し、周囲の反対を乗り越える――その決意が、エデンの中で確固たるものになった瞬間だった。
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