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セドリック王子が涙ながらに書き上げた「パパへのお手紙」を、マリアが「私が責任を持って最速の伝書鳩便に回してきますわ!」と預かってから数時間。
リリアンは、領主室のソファーでヴィクトール殿下と対等に座り、アシュクロフト領の将来的な上場……もとい、株式会社化の構想について語り合っていた。
「……なるほど。土地の所有権は王家に残しつつ、経営権と配当権を分離して証券化する。面白いな。貴様の頭の中には、法典ではなく帳簿が詰まっているのか」
「最高の褒め言葉ですわ、ヴィクトール殿下。法は後から書き換えられますが、利益の計算式は宇宙の真理ですもの」
二人の「合理主義モンスター」が意気投合している中、廊下からバタバタと騒がしい足音が聞こえてきた。
「お姉様! 大変ですわ! セドリック殿下が……殿下が、あろうことか『自分磨き』に目覚めてしまいましたの!」
マリアが扉を勢いよく開けて飛び込んできた。
その後ろには、なぜか誇らしげに胸を張るセドリックが立っている。
「ふふん、リリアン。私は気づいたのだよ。君にふさわしい男になるためには、ただ掃除をするだけでは足りない。マリアにアドバイスをもらって、この領地の『マスコット的存在』として自分をブランディングすることにしたのだ!」
リリアンは、セドリックの格好を見て、持っていた紅茶を危うく吹き出しそうになった。
そこには、アシュクロフト領の名産である「猪」を模した、モコモコとした毛皮の被り物を被り、手には「温泉最高!」と書かれたプラカードを持った、第一王子の成れの果てがいた。
「……ギルバート。私の視覚野に致命的なエラーが発生しているようですわ。あそこの物体、何かしら? 新種の魔物? それとも、廃棄予定の粗大ゴミ?」
「お嬢様、残念ながら俺たちの国の第一王子です。……マリア、お前、何を吹き込んだ?」
ギルバートが頭を抱えてマリアを問い詰める。
マリアは、扇で口元を隠しながら、計算高い笑みを浮かべた。
「あら、私はただ『リリアン様は、自分の役に立つ付加価値のあるものがお好きですわ。今のお姿ではただの負債ですので、せめて広告塔としての機能を備えてはいかが?』と助言しただけですわよ。……ねえ、殿下?」
「ああ! これでお客を呼び込めば、リリアンも私を見直してくれるはずだ! さあ、リリアン、今すぐ私を温泉の入り口に立たせてくれ! 『おバカな王子と握手!』というキャンペーンはどうかな!?」
セドリックが猪の被り物を揺らしながら迫ってくる。
リリアンは無言で指示棒を取り出すと、セドリックの眉間をピタリと押さえた。
「……マリア様。あなたの『逆襲』、実に見事ですわね。殿下をここまで再起不能なまでの『非効率な存在』に貶めるとは」
「お褒めにあずかり光栄ですわ、お姉様。これで、殿下が王都へ帰って復縁を迫る可能性は、統計的に見て零パーセントになりましたわね。誰がこんな『猪の皮を被ったバカ』を次期国王として認めますの?」
マリアの本音が漏れた。
彼女の目的は、セドリックを救うことでも、リリアンを助けることでもない。
「セドリックがリリアンの婚約者に戻る」という、自分にとって最大のノイズを徹底的に排除することだったのだ。
「待て……マリア? 今、バカと言わなかったか? それに、零パーセントとはなんだ!」
「あら、殿下。聞き間違いですわ。それより、王都からの使者が到着しましたわよ。お父様へのお手紙の返事を持った、近衛騎士団の方々ですわ!」
「なっ、もう来たのか!? よし、この格好で彼らを迎え、私の成長した姿を見せてやろう!」
セドリックが猪の姿のまま、屋敷の玄関へと走り出した。
「……ギルバート。追いなさい。……いえ、放っておきましょう。王都の使者がこの光景を見れば、我が国の王も『自分の息子はもう手遅れだ』と判断して、領地の接収を諦めるに違いありませんわ」
「お嬢様……。合理的ですが、セドリック殿下の政治的生命が今、完全に絶たれましたよ」
数分後、玄関ホールからは王都の使者たちの「ひえぇぇぇ!」という絶叫と、「殿下! 何をしておられるのですか!」という悲鳴が響き渡った。
リリアンは、その騒音を背景に、マリアが持ってきた最新の収支報告書を広げた。
「ふふ、マリア様。殿下を『客寄せパンダ』……いえ、『客寄せ猪』にするというアイデア。建築コストの削減にはなりませんが、宣伝広告費の大幅なカットが見込めますわね。採用ですわ」
「ありがとうございます、お姉様! 殿下のプライドという名の無駄なコストを削ぎ落とした結果ですわね!」
「狂っている……。この屋敷の女たちは、兄上よりもよっぽど恐ろしい」
ギルバートの呟きは、誰にも届かなかった。
アシュクロフト領は、王子の尊厳を犠牲にすることで、さらなる「強固な経営基盤」を手に入れたのである。
「さあ、使者の方々から『口止め料』という名の寄付金を徴収しに行きましょうか。マリア様、領収書の準備を!」
「はい、お姉様!!」
悪役令嬢と、その忠実な(?)秘書の進撃は、もはや誰にも止められなかった。
リリアンは、領主室のソファーでヴィクトール殿下と対等に座り、アシュクロフト領の将来的な上場……もとい、株式会社化の構想について語り合っていた。
「……なるほど。土地の所有権は王家に残しつつ、経営権と配当権を分離して証券化する。面白いな。貴様の頭の中には、法典ではなく帳簿が詰まっているのか」
「最高の褒め言葉ですわ、ヴィクトール殿下。法は後から書き換えられますが、利益の計算式は宇宙の真理ですもの」
二人の「合理主義モンスター」が意気投合している中、廊下からバタバタと騒がしい足音が聞こえてきた。
「お姉様! 大変ですわ! セドリック殿下が……殿下が、あろうことか『自分磨き』に目覚めてしまいましたの!」
マリアが扉を勢いよく開けて飛び込んできた。
その後ろには、なぜか誇らしげに胸を張るセドリックが立っている。
「ふふん、リリアン。私は気づいたのだよ。君にふさわしい男になるためには、ただ掃除をするだけでは足りない。マリアにアドバイスをもらって、この領地の『マスコット的存在』として自分をブランディングすることにしたのだ!」
リリアンは、セドリックの格好を見て、持っていた紅茶を危うく吹き出しそうになった。
そこには、アシュクロフト領の名産である「猪」を模した、モコモコとした毛皮の被り物を被り、手には「温泉最高!」と書かれたプラカードを持った、第一王子の成れの果てがいた。
「……ギルバート。私の視覚野に致命的なエラーが発生しているようですわ。あそこの物体、何かしら? 新種の魔物? それとも、廃棄予定の粗大ゴミ?」
「お嬢様、残念ながら俺たちの国の第一王子です。……マリア、お前、何を吹き込んだ?」
ギルバートが頭を抱えてマリアを問い詰める。
マリアは、扇で口元を隠しながら、計算高い笑みを浮かべた。
「あら、私はただ『リリアン様は、自分の役に立つ付加価値のあるものがお好きですわ。今のお姿ではただの負債ですので、せめて広告塔としての機能を備えてはいかが?』と助言しただけですわよ。……ねえ、殿下?」
「ああ! これでお客を呼び込めば、リリアンも私を見直してくれるはずだ! さあ、リリアン、今すぐ私を温泉の入り口に立たせてくれ! 『おバカな王子と握手!』というキャンペーンはどうかな!?」
セドリックが猪の被り物を揺らしながら迫ってくる。
リリアンは無言で指示棒を取り出すと、セドリックの眉間をピタリと押さえた。
「……マリア様。あなたの『逆襲』、実に見事ですわね。殿下をここまで再起不能なまでの『非効率な存在』に貶めるとは」
「お褒めにあずかり光栄ですわ、お姉様。これで、殿下が王都へ帰って復縁を迫る可能性は、統計的に見て零パーセントになりましたわね。誰がこんな『猪の皮を被ったバカ』を次期国王として認めますの?」
マリアの本音が漏れた。
彼女の目的は、セドリックを救うことでも、リリアンを助けることでもない。
「セドリックがリリアンの婚約者に戻る」という、自分にとって最大のノイズを徹底的に排除することだったのだ。
「待て……マリア? 今、バカと言わなかったか? それに、零パーセントとはなんだ!」
「あら、殿下。聞き間違いですわ。それより、王都からの使者が到着しましたわよ。お父様へのお手紙の返事を持った、近衛騎士団の方々ですわ!」
「なっ、もう来たのか!? よし、この格好で彼らを迎え、私の成長した姿を見せてやろう!」
セドリックが猪の姿のまま、屋敷の玄関へと走り出した。
「……ギルバート。追いなさい。……いえ、放っておきましょう。王都の使者がこの光景を見れば、我が国の王も『自分の息子はもう手遅れだ』と判断して、領地の接収を諦めるに違いありませんわ」
「お嬢様……。合理的ですが、セドリック殿下の政治的生命が今、完全に絶たれましたよ」
数分後、玄関ホールからは王都の使者たちの「ひえぇぇぇ!」という絶叫と、「殿下! 何をしておられるのですか!」という悲鳴が響き渡った。
リリアンは、その騒音を背景に、マリアが持ってきた最新の収支報告書を広げた。
「ふふ、マリア様。殿下を『客寄せパンダ』……いえ、『客寄せ猪』にするというアイデア。建築コストの削減にはなりませんが、宣伝広告費の大幅なカットが見込めますわね。採用ですわ」
「ありがとうございます、お姉様! 殿下のプライドという名の無駄なコストを削ぎ落とした結果ですわね!」
「狂っている……。この屋敷の女たちは、兄上よりもよっぽど恐ろしい」
ギルバートの呟きは、誰にも届かなかった。
アシュクロフト領は、王子の尊厳を犠牲にすることで、さらなる「強固な経営基盤」を手に入れたのである。
「さあ、使者の方々から『口止め料』という名の寄付金を徴収しに行きましょうか。マリア様、領収書の準備を!」
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