お飾り王妃は愛されたい

神崎葵

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十一話

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 お願いした日のうちとは言わなくても、翌日には許可が下りるだろうと思っていたのに、まさかの二日が経過してしまった。
 忙しいからと後回しにされたのかと邪推しかけたけど、頭を振って気を取り直す。

 なんにしても許可は降りた。
 即日昼食会を開くということはできないので、一週間後に開くことにしよう。それぐらいあれば招待する人たちも予定を調整できるだろう。
 侍女とオーギュスト、どちらが用意してくれたのかはわからないけど、招待客リストも一緒に持ってきてもらえたのは助かった。

「招待状もこちらで手配できますが、どうされますか?」
「便箋だけ用意してもらえれば、あとは私が書くわ」

 何事も初めてが肝心。仲良くしたいのだと伝わるように、私自ら作成したほうが誠意も伝わりやすいだろう。
 ずらりと並んだ全員の招待状を作るのは大変かもしれないけど、どうせ花嫁衣裳を決めたりする以外は暇な身だ。

 城外に出かけたいとも思うけど、それには専任の護衛騎士が必要となる。誰かしら騎士を借りることもできるかもしれないけど、彼らには彼らの職務があるので、私に付き合わせている間は仕事を中断せざるをえない。
 だから心置きなく――時間を気にすることなく遊ぶためには、私の護衛が職務である騎士がいる。

「それでは昼食後、便箋を持ってまいります」
「ええ、お願いね」

 それから、今日の予定をこなす。昨日は仕立て屋が来たので、花嫁衣裳に使う色を選んだ。
 そして今日は宝石商。昨日選んだ色に合わせて宝石を選ぶ。

「……本当にこちらでよろしいのですか?」

 訝しげな顔は、昨日の仕立て屋と同じ。
 私が選んでいるのは、私に合う色ではない。彼の愛する伯爵令嬢に合う色だ。

 さっさと結婚したいオーギュストのことだ。愛する伯爵令嬢との結婚式を挙げることになっても、さらに時間がかかるとなれば億劫になってしまうかもしれない。
 愛する人のために時間を割いてもいいと判断するのなら、それでも構わない。だけどもしも、面倒だから私でいいやとなられたらたまらない。

 伯爵令嬢は私が選んだものはいやだと言うかもしれないけど、その説得はオーギュストに任せることにしよう。というか、そうするしかない。
 私にできるのは、つつがなくオーギュストが愛する人と結婚できるように準備することだけだ。

「私はそれがいいの」

 だから、もっと他にいいものがあるのに――そう言わんばかりの宝石商に頷いて返した。
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