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第二章
70.その優しさは当たり前じゃない
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「獅子尾、これってどうやんの?」
「あぁ。これか?これはな…」
実行委員会もこれで6回目。最初は無表情で無愛想なデカイ獅子尾とも気づけば気安く話せる仲になっていた。慣れればすげぇイイヤツで、しかも心配りがダントツに素晴らしいという事も分かった。
相変わらず朱雀に甲斐甲斐しく世話をしていて、傍から見ていると姫様と使用人のように見える。でも仕方なしにやっている訳でも朱雀がやらせている訳でもなく、どちらかと言えば自ら率先して世話を焼いているらしかった。
実行委員の仕事と部活で更に忙しくなった勝に、最近家の事情と塾も重なって忙しくなった志木、委員長としての仕事が多分にある雅樹。
俺らは全然一緒にいられる時間がなくて、ここ数週間とんとエロイ事をしてない。
最初は疼いて仕方がなかった体も、委員の仕事と塾、雅樹たちのスパルタカリキュラムも重なって毎日ヘトヘトで不思議なくらいに落ち着いた。
「俺には疲れマラとやらはないのだろうか。それとも悟りを開いたのだろうか」
「お兄ちゃん…マジで何いってんの」
無意識に口に出ていたらしく、横にいたゆりにドン引きされた。
「俺は17年生きてきてこんなにハードスケジュールをこなしたことはない!俺は絶対に商社には就職しないぞ。あと、マスメディア系。俺はのんびり働くのが合っていると今、痛感している」
「なにバカな事いってんの。男ならもっと貪欲に生きなきゃ!」
「だってよー…喜びがないんだよー。ご褒美がないと俺はやってられないー」
「王子たちにもらえば?」
「あいつらはあいつらで俺以上に忙しいんだよ。ご褒美ちょうだいとか言ったらぶっ飛ばされるわ」
「そうかなぁ。喜びそうだけど。聖上とのイベントはうまくいってるの?」
「あぁ。今んところは、委員長たちと向こうの委員長補佐が優秀なおかげで滞りなく順調に進んでるよ。向こうは男子校だから共学のうちとやれるのがすげぇ嬉しいみたいだぜ。学校中がそわそわしてるって言ってた」
「そうなの?…うちの学校の肉食女子にお坊ちゃんたちが食い散らかされなければいいけど」
「こぇぇ事いうなよ。今回成功したら、2回目も可能性としてはあるんだから変にトラブルを起さないで欲しい」
「そこはあれよ。王子に次回のためにも「協力してね♡」って声明を出してもらえばいいんだよ。飴を存分に使わないと」
「そんなもんか?」
「そんなもんよ」
「ところで———お兄ちゃん、ちょっと艶感衰えた?」
「艶感てなんだ??」
「なんていうか、全体的にくすんでる!!!お兄ちゃんにはいつでも艶ややかでいてもらわないとっ!!さぁさぁ、勉強おわったんならもう寝て!」
「な、なんだよ」
ぐいぐい背中を押されてリビングから追い出された。
「本当は、王子たちにたっぷり愛してもらうのが手っ取り早いんだけど、今は無理そうだしね…」
「なんか言ったか?」
「なんもー。さぁ!睡眠不足はお肌の大敵よ!ついでに脳みそにも!!」
「脳みそがついでってなんだよ」
「おやすみ!」
そう言って、リビングの扉を閉めてしまった。
「…寝れぬ」
寝返りを打つとギシリとスプリングが軋んだ。
ここにきて、一気にエロい事が一切なくなったなぁと思い当たる。先月までは乱れに乱れた性事情だったのにな…。オナニーでもしてみようかと思って、ごそごそと己のジュニアを取り出して擦ってみるも、全然反応せずへにゃりとしたまま。
エロい事を想像してもいまいち乗り切れない。
ふと、脳裏によぎったのは雅樹と朱雀の後ろ姿。
「…?」
なんで、今、胸がズンって重くなったんだろう。
「なんか、息が苦しい…」
胸が痛くて苦しくて、思わずシャツの胸元をぎゅうと握った。搔きむしりたくなるような、チクチクとズキズキとした痛みが絶え間なく襲う。
「そういえば、雅樹とはキスすらしてない…」
忙しくてあまり親密に会えるような瞬間がないんだから当然なのは分かってるのに、今はその事実ですら納得できないというか、心をざわめかせて落ち着かなくさせた。
帰りは必ず朱雀と一緒だし、俺のこと全然見てくれないし。
「今までは見るなつっても穴が開きそうなほど見てたくせに」
そう、口に出したら鼻の奥がツンと痛くなって涙が出てきた。
違う。実際は、教室ではいつも通りなんだ。だから気づかなかったんだ。
———朱雀と一緒にいる時だけ、俺を全然見てくれない事に。
◇◇◇◇◇◇
「うっわ!どうした樹ちゃん」
教室に入って志木と目があった瞬間に驚いた顔でそう言って俺の傍まで来て俺の顔を両手で包み込んで顔を覗き込んできた。
「なんでもない…」
「その顔でなんでもないってあり得ないでしょ」
「なんでもないんだってば!」
「樹ちゃん…」
「ご、ごめん。本当に何でもないから大丈夫だから」
「そう?なにか言いたくなったらいつでも頼ってね?」
「うん。ありがとう」
八つ当たりした俺に、優しく親指で目元を擦ってくれる。優しさが染みて、じわっと目元が潤んだ事に、それに気づいてるはずなのに何も言わず髪を手で優しく梳きながら見つめてくれた。あぁ、こういうのって当たり前じゃないんだ。
こういう親密な優しさって、本当はすごくすごく貴重で大切なものだったんだ。
「志木、いつもありがとうな」
「どういたしまして。でも、俺こそいつもありがとう」
「へへっ。改めて言うとなんか照れるな」
「ふふ。そうだね」
「ちょっと。朝っぱらから出入り口でイチャつかないでくれない?」
「お。おはよう篠田」
「…おはよ」
俺は扉に背を向けていたから雅樹の顔を見ずにすんだ。不意打ちで雅樹の声を聞いたから軽く肩が跳ねてしまって、それに気づいた志木が軽く目を眇めたけど自然に胸元に抱き寄せ、俺の表情を隠して雅樹が通れるスペースを作った。
「樹、おはよう」
「おはよう…」
志木の胸に顔を押し付けてくぐもった声のまま挨拶を返す。表情をいつも通りにする為に意識的に息を整えた。
「樹?いつまでも志木に引っ付いてないで顔みせて?」
雅樹に呼ばれて渋々、志木の胸から顔を轢き剥がして顔を向けた。
「やっと顔みせてくれた。おはよう、樹。今日も可愛いね」
「っ…!さっき挨拶したじゃん。可愛いって言われても嬉しくねぇ」
「そんなつれないこと言わないでよ」
なるべくいつも通りになるように言葉を返す。うまく、表情作れてるかな。笑えてるかな。雅樹への複雑な気持ちを考えないように頭から無理やり追い出して会話を続けた。席に戻った時にはぐったりと疲れてしまった。
(そうだ、今日は委員会だった……)
今更どうしようもないけど、安直に委員を受けた事を心から後悔した。
「あぁ。これか?これはな…」
実行委員会もこれで6回目。最初は無表情で無愛想なデカイ獅子尾とも気づけば気安く話せる仲になっていた。慣れればすげぇイイヤツで、しかも心配りがダントツに素晴らしいという事も分かった。
相変わらず朱雀に甲斐甲斐しく世話をしていて、傍から見ていると姫様と使用人のように見える。でも仕方なしにやっている訳でも朱雀がやらせている訳でもなく、どちらかと言えば自ら率先して世話を焼いているらしかった。
実行委員の仕事と部活で更に忙しくなった勝に、最近家の事情と塾も重なって忙しくなった志木、委員長としての仕事が多分にある雅樹。
俺らは全然一緒にいられる時間がなくて、ここ数週間とんとエロイ事をしてない。
最初は疼いて仕方がなかった体も、委員の仕事と塾、雅樹たちのスパルタカリキュラムも重なって毎日ヘトヘトで不思議なくらいに落ち着いた。
「俺には疲れマラとやらはないのだろうか。それとも悟りを開いたのだろうか」
「お兄ちゃん…マジで何いってんの」
無意識に口に出ていたらしく、横にいたゆりにドン引きされた。
「俺は17年生きてきてこんなにハードスケジュールをこなしたことはない!俺は絶対に商社には就職しないぞ。あと、マスメディア系。俺はのんびり働くのが合っていると今、痛感している」
「なにバカな事いってんの。男ならもっと貪欲に生きなきゃ!」
「だってよー…喜びがないんだよー。ご褒美がないと俺はやってられないー」
「王子たちにもらえば?」
「あいつらはあいつらで俺以上に忙しいんだよ。ご褒美ちょうだいとか言ったらぶっ飛ばされるわ」
「そうかなぁ。喜びそうだけど。聖上とのイベントはうまくいってるの?」
「あぁ。今んところは、委員長たちと向こうの委員長補佐が優秀なおかげで滞りなく順調に進んでるよ。向こうは男子校だから共学のうちとやれるのがすげぇ嬉しいみたいだぜ。学校中がそわそわしてるって言ってた」
「そうなの?…うちの学校の肉食女子にお坊ちゃんたちが食い散らかされなければいいけど」
「こぇぇ事いうなよ。今回成功したら、2回目も可能性としてはあるんだから変にトラブルを起さないで欲しい」
「そこはあれよ。王子に次回のためにも「協力してね♡」って声明を出してもらえばいいんだよ。飴を存分に使わないと」
「そんなもんか?」
「そんなもんよ」
「ところで———お兄ちゃん、ちょっと艶感衰えた?」
「艶感てなんだ??」
「なんていうか、全体的にくすんでる!!!お兄ちゃんにはいつでも艶ややかでいてもらわないとっ!!さぁさぁ、勉強おわったんならもう寝て!」
「な、なんだよ」
ぐいぐい背中を押されてリビングから追い出された。
「本当は、王子たちにたっぷり愛してもらうのが手っ取り早いんだけど、今は無理そうだしね…」
「なんか言ったか?」
「なんもー。さぁ!睡眠不足はお肌の大敵よ!ついでに脳みそにも!!」
「脳みそがついでってなんだよ」
「おやすみ!」
そう言って、リビングの扉を閉めてしまった。
「…寝れぬ」
寝返りを打つとギシリとスプリングが軋んだ。
ここにきて、一気にエロい事が一切なくなったなぁと思い当たる。先月までは乱れに乱れた性事情だったのにな…。オナニーでもしてみようかと思って、ごそごそと己のジュニアを取り出して擦ってみるも、全然反応せずへにゃりとしたまま。
エロい事を想像してもいまいち乗り切れない。
ふと、脳裏によぎったのは雅樹と朱雀の後ろ姿。
「…?」
なんで、今、胸がズンって重くなったんだろう。
「なんか、息が苦しい…」
胸が痛くて苦しくて、思わずシャツの胸元をぎゅうと握った。搔きむしりたくなるような、チクチクとズキズキとした痛みが絶え間なく襲う。
「そういえば、雅樹とはキスすらしてない…」
忙しくてあまり親密に会えるような瞬間がないんだから当然なのは分かってるのに、今はその事実ですら納得できないというか、心をざわめかせて落ち着かなくさせた。
帰りは必ず朱雀と一緒だし、俺のこと全然見てくれないし。
「今までは見るなつっても穴が開きそうなほど見てたくせに」
そう、口に出したら鼻の奥がツンと痛くなって涙が出てきた。
違う。実際は、教室ではいつも通りなんだ。だから気づかなかったんだ。
———朱雀と一緒にいる時だけ、俺を全然見てくれない事に。
◇◇◇◇◇◇
「うっわ!どうした樹ちゃん」
教室に入って志木と目があった瞬間に驚いた顔でそう言って俺の傍まで来て俺の顔を両手で包み込んで顔を覗き込んできた。
「なんでもない…」
「その顔でなんでもないってあり得ないでしょ」
「なんでもないんだってば!」
「樹ちゃん…」
「ご、ごめん。本当に何でもないから大丈夫だから」
「そう?なにか言いたくなったらいつでも頼ってね?」
「うん。ありがとう」
八つ当たりした俺に、優しく親指で目元を擦ってくれる。優しさが染みて、じわっと目元が潤んだ事に、それに気づいてるはずなのに何も言わず髪を手で優しく梳きながら見つめてくれた。あぁ、こういうのって当たり前じゃないんだ。
こういう親密な優しさって、本当はすごくすごく貴重で大切なものだったんだ。
「志木、いつもありがとうな」
「どういたしまして。でも、俺こそいつもありがとう」
「へへっ。改めて言うとなんか照れるな」
「ふふ。そうだね」
「ちょっと。朝っぱらから出入り口でイチャつかないでくれない?」
「お。おはよう篠田」
「…おはよ」
俺は扉に背を向けていたから雅樹の顔を見ずにすんだ。不意打ちで雅樹の声を聞いたから軽く肩が跳ねてしまって、それに気づいた志木が軽く目を眇めたけど自然に胸元に抱き寄せ、俺の表情を隠して雅樹が通れるスペースを作った。
「樹、おはよう」
「おはよう…」
志木の胸に顔を押し付けてくぐもった声のまま挨拶を返す。表情をいつも通りにする為に意識的に息を整えた。
「樹?いつまでも志木に引っ付いてないで顔みせて?」
雅樹に呼ばれて渋々、志木の胸から顔を轢き剥がして顔を向けた。
「やっと顔みせてくれた。おはよう、樹。今日も可愛いね」
「っ…!さっき挨拶したじゃん。可愛いって言われても嬉しくねぇ」
「そんなつれないこと言わないでよ」
なるべくいつも通りになるように言葉を返す。うまく、表情作れてるかな。笑えてるかな。雅樹への複雑な気持ちを考えないように頭から無理やり追い出して会話を続けた。席に戻った時にはぐったりと疲れてしまった。
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