あなたが遺した花の名は

きまま

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シャンデリアの光が、夜空の星よりもまぶしく瞬いていた。
琥珀色の灯が幾千もの結晶に砕け、ドレスの裾やワイングラスの縁に反射して踊る。
弦楽器の音が滑らかに流れ、人々の笑い声がそれに溶けていく。
絹の衣擦れ、香水の甘い匂い、銀食器のかすかな触れ合い——
この部屋はすべてが華やかで、完璧に整えられていた。
けれど、私の心だけはまるで冷たい海底にいるみたいに静かだった。

会場のざわめきが波のように広がるたび、私は胸の奥を押さえている。
グレイブが公の場に姿を見せたのは、半年ぶりだった。
それは何か大事なことを暗示しているようにも思え、どうか、今夜だけは何も起きませんように、と願わざるを得なかった 。
そう願うたび、胸元のペンダントがわずかに震え、シャンデリアの光を跳ね返す。
その光が私の願いを叶える偶像であれば、どんなによかっただろうか。けれど、シャンデリアの光はただその役割を全うするのみだった。

隣に居座るグレイブは何を思っているのだろうか。
人々の視線が彼に集まるたび、彼はわずかに眉をひそめ、手にしたグラスを傾けている。
彼の放つ沈黙には言葉よりも強い力があるようで、その仕草一つ一つに、周囲の空気がすっと張り詰めた。

私は彼の横顔を盗み見る。
頬に落ちる光は冷たく、彫刻のように整っていた。そして、その瞳は遠くを見ていて、この華やかな場所にいながら、まるで別の遠い世界を見ているようだった。

「……久しぶりの舞踏会ですね、グレイブ様」

震えそうになる声を抑えて、そう囁く。

「……ああ」

短い返事。
その声には熱も棘もなく、ただ通り過ぎていった風のようだった。
けれど、その一瞬だけ、彼のまつげがわずかに震えたのを私は見た。
——やっぱり、何かを隠している。
けれど、問いかけてはいけない。
簡単な問いでは、彼はきっと頷くばかりだから。それでも、唇が勝手に動いてしまった。

「……何を隠しているのでしょうか」

その問いに彼は沈黙を返そうとして、口を結んで、しかし、ふと、呟いた。

「もう頃合いか……」

それは誰に向けた言葉でもなく、彼自身に言い聞かせるような響きだった。
まるで、遠い鐘が静かに時を告げるように。
その声に触れた瞬間、胸の奥が冷たくなる。
何かが終わりに向かって動き出したような、そんな予感だけが、確かにあった。
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