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陽気な日の光が真上から射す昼。
やけに騒がしい街を背に、祭りか、なにかあっただろうか、と思いながらひっそりと城へ、彼がいる部屋へと向かった。
陽気な日の光が真上から射す昼。
それは私を晒し者のするかのように、酷く嘲笑っていた。
「ロレイン、お前は聖女を騙っているな?」
アルヴィン国王の静かな声が閑散とした執務室でやけに響く。
その言葉に私は驚き、声も出せずにただ彼の背を眺めることしか出来なかった。
アルヴィン国王に呼び出されるのは私たちが国王と聖女という関係上、おかしくはない。
ただ、最近はどういうことか、彼に呼び出されることもなく、私的な話や公務の話さえしていなかった。
そしてそんな最中、急に呼び出されたかと思ったら、このザマだ。
事務的な会話をするわけでもなく、ただひたすらに私を疑うその言葉、その目。
私は彼の言動を一つも理解出来ずにいた。
「聖女を騙っているというのは、どういうことでしょうか?」
オロオロと理由を尋ねる私とは対照的に、アルヴィン国王は狩りの対象を定めた狩人のように、透き通った芯のある声で言葉を並べた。
どうやら彼には確固たる意思があるらしい。
「この国の治安は今、聖女の障壁によって成り立っている。それを完成させ、維持しているのが君だと思っていたが、それは全て見せかけだったようだ」
「見せかけではありません。現に障壁はしっかりと機能しているでしょう?」
私は2年前に聖女となり、アルヴィン国を障壁で覆い、毎日城から魔力を送ることでそれを維持してきた。
そのことに偽りなどなく、それが機能しなくなるほどでたらめに魔力を込めたことなど、一日たりともなかった。
それなのに、見せかけと言い切られてしまうのはどうも納得がいかなかった。
「そうだな。しっかりと機能している」
「それではどうして私が聖女を騙っていると、おっしゃるのですか?」
「古来から言われてきたように、聖魔法には付与した者の名が刻まれる。アルヴィン国を覆う障壁にも刻まれているが、それは君の名前なんかじゃない。聖女『ユーフィン』と」
「ユーフィン、ですか?」
その名前を聞いたことはなかった。
けれども、その正体はすでに分かりきっている。
聖女というのは、安定した暮らしが保証され、人々を厭なほどに敬服させる高貴な地位だ。
だから、偽物と言われた私がしがみついて良いものでは無いし、誰もがその地位を望むわけだ。
人間も、エルフも、あまつさえ魔族でさえも。
「ユーフィン、彼女こそが真の聖女にして、人知れずこの国を支えてきた者だ。ただのお前とは大違いだ」
ようやく彼は私の方にまっすぐと顔を見せ、その表情を晒した。
その瞳は虚ろに微笑み、私に違和感を覚えさせるには十分だった。いや、違和感と言うにはそれはあまりにも明確で。
「《カサリス》」
と。
私は咄嗟に浄化魔法を唱えた。
しかしながら、彼の表情に変化は無い。
「なんの真似だ?..,まぁ、良い。その無礼ごと、お前に処罰を与えよう」
そればかりか、アルヴィン国王は激昂したように声を荒らげた。それでも、彼は人形のように感情を表に出すことは無く、ただ虚ろの瞳で私にそれを言い渡す。
「悪女ロレイン。君は聖女と偽り、人々を騙してきたが、それは到底許されることの無い大罪だ。よって、聖女の称号を剥奪し、国外追放とする」
と。
アルヴィン国王は最後まで、その意志を変えることはなかった。
「...分かりました」
結局、私の能力はその程度なのだ。未熟で、曖昧で、聖女の座を降りるには相応しい。
やけに騒がしい街を背に、祭りか、なにかあっただろうか、と思いながらひっそりと城へ、彼がいる部屋へと向かった。
陽気な日の光が真上から射す昼。
それは私を晒し者のするかのように、酷く嘲笑っていた。
「ロレイン、お前は聖女を騙っているな?」
アルヴィン国王の静かな声が閑散とした執務室でやけに響く。
その言葉に私は驚き、声も出せずにただ彼の背を眺めることしか出来なかった。
アルヴィン国王に呼び出されるのは私たちが国王と聖女という関係上、おかしくはない。
ただ、最近はどういうことか、彼に呼び出されることもなく、私的な話や公務の話さえしていなかった。
そしてそんな最中、急に呼び出されたかと思ったら、このザマだ。
事務的な会話をするわけでもなく、ただひたすらに私を疑うその言葉、その目。
私は彼の言動を一つも理解出来ずにいた。
「聖女を騙っているというのは、どういうことでしょうか?」
オロオロと理由を尋ねる私とは対照的に、アルヴィン国王は狩りの対象を定めた狩人のように、透き通った芯のある声で言葉を並べた。
どうやら彼には確固たる意思があるらしい。
「この国の治安は今、聖女の障壁によって成り立っている。それを完成させ、維持しているのが君だと思っていたが、それは全て見せかけだったようだ」
「見せかけではありません。現に障壁はしっかりと機能しているでしょう?」
私は2年前に聖女となり、アルヴィン国を障壁で覆い、毎日城から魔力を送ることでそれを維持してきた。
そのことに偽りなどなく、それが機能しなくなるほどでたらめに魔力を込めたことなど、一日たりともなかった。
それなのに、見せかけと言い切られてしまうのはどうも納得がいかなかった。
「そうだな。しっかりと機能している」
「それではどうして私が聖女を騙っていると、おっしゃるのですか?」
「古来から言われてきたように、聖魔法には付与した者の名が刻まれる。アルヴィン国を覆う障壁にも刻まれているが、それは君の名前なんかじゃない。聖女『ユーフィン』と」
「ユーフィン、ですか?」
その名前を聞いたことはなかった。
けれども、その正体はすでに分かりきっている。
聖女というのは、安定した暮らしが保証され、人々を厭なほどに敬服させる高貴な地位だ。
だから、偽物と言われた私がしがみついて良いものでは無いし、誰もがその地位を望むわけだ。
人間も、エルフも、あまつさえ魔族でさえも。
「ユーフィン、彼女こそが真の聖女にして、人知れずこの国を支えてきた者だ。ただのお前とは大違いだ」
ようやく彼は私の方にまっすぐと顔を見せ、その表情を晒した。
その瞳は虚ろに微笑み、私に違和感を覚えさせるには十分だった。いや、違和感と言うにはそれはあまりにも明確で。
「《カサリス》」
と。
私は咄嗟に浄化魔法を唱えた。
しかしながら、彼の表情に変化は無い。
「なんの真似だ?..,まぁ、良い。その無礼ごと、お前に処罰を与えよう」
そればかりか、アルヴィン国王は激昂したように声を荒らげた。それでも、彼は人形のように感情を表に出すことは無く、ただ虚ろの瞳で私にそれを言い渡す。
「悪女ロレイン。君は聖女と偽り、人々を騙してきたが、それは到底許されることの無い大罪だ。よって、聖女の称号を剥奪し、国外追放とする」
と。
アルヴィン国王は最後まで、その意志を変えることはなかった。
「...分かりました」
結局、私の能力はその程度なのだ。未熟で、曖昧で、聖女の座を降りるには相応しい。
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