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「少し良いでしょうか」

腰掛けたソファから立ち、私はため息を吐くように彼に問いかける。
国外追放を言い渡されたのだから、とっとと外に出れば良いのだろうが、私には最後にすべきことが残っていた。

「悪女と話すことなどないんだがな。まぁ、良い。置き土産の一つや二つ、許すとしよう」

「ありがとうございます」

「それで、どんな置き土産を残すんだ?」

その傲慢でいて高圧的な態度を崩さず、彼はソファに腰を下ろした。
彼は私を見上げているというのに、見下すような視線に少しばかりの不明瞭な感情が私の心の中で渦巻く。

これはどういった感情なのだろうか。
きっとこれは恨みや復讐心、そういう負の感情なんかじゃない。意地悪とか我儘とか、そういう自分本位の幼稚な感情だ。

そして、私は彼が視線を追うまま、その顔に近づき、一つ耳打ちをした。

「《アサナシア》」

と。
彼は驚きもせず、ただそれを受け止めるばかりだった。
だが、それで良い。私は最後に我儘な置き土産を残せたのだ。



私が城を出ると、陽気な日の光に加え、贅沢な観衆の視線がこちらを射していた。どうやら私の国外追放は周知されているらしい。
その中には親しかった者もいるが、私が聖女の座にいない今、それは関係の無いことだろう。どこかその視線は冷酷で浅はかであった。

「聖女を偽ってたんだって。それなのに国外追放で済むなんて...」

「そうだ、今回の処罰は甘すぎる。聖女を騙るやつなんか即刻死刑にされるべきだ!それなのに、アルヴィン様は一体何をお考えになっているのやら...」

「やっぱりあの魔法は見せかけだったのね。私はわかっていたけど」

周囲からブツブツと嫌みたらしい声が聞こえてくるが、彼らとの良好な関係が破綻した今、それはどうでも良いことだった。
それ以上に早くこの国から去りたい、という願いが強く出る。

行くあてもないのだけれど。

ただ、それがもうじき滅びる国に居たいと思う理由にはならないだろう。

私を引き止める者は誰も来ず。
かくして、私のアルヴィン国の聖女としての2年は呆気なく、終わってしまった。
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