聖女は良い子と呼ばれたくない! ~社会からはみ出した夜遊び少女のゆるり異世界生活~

釈 余白(しやく)

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第三章:聖女は一般人になる

28.聖女の成功体験

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 きっと今の私は非常に満足した顔をしているだろう。まずは勝負に勝ったこと、そして相撲を見た子供たちや先生が楽しそうに喝采を上げているからだ。

 しかしそうではない子がここに一人――

「今何をした!? 絶対おかしなことしたんだろ? そんな―― 僕がこんなことになるはずない。この卑怯者ひきょうものめ! ふざけるな、もう一度勝負しろ!」

「なに? くやしいわけ? ウチなんて簡単に投げて当然だったんじゃないの? アンタのが体が大きいからってなめてかかってきたんでしょうけど残念ね。さっき言ったじゃないの? 相撲で勝つには頭の良さも必要なのよ。それと礼儀れいぎも大切ね」

 私はそう言い放ち、礼をしてから土俵を降りた。土俵と言っても地面にぐるりとロープを置いただけでまだ本格的なものではないから、またいで外に出たと言うほうが正しい。

 ケイラムは勝つ気満々で飛び出してきたのに、一瞬で私にはたきこまれ悔しそうにしている。それでも先生にうながされ、礼をしてから土俵を出た。

 これはなかなか教育的にいい授業なんじゃないか? そう考えたのは私だけでは無いようで、先生も満足そうに次の取組を眺めている。

 組み合わせはやりたい人が手を挙げてそこから先生が選んでいるのだが、流石に男女で当たらないよう配慮している。じゃあ私とケイラムはいいのかと言うと、お互いがやると言ったのだから構わないってことだろう。

 女の子の中にも力の強い子はいるので、結構派手に投げが決まって転がったりシリモチをついたりしているが、今のところ泣き出す子はいない。

 ちびっこ相撲をやっていたころにはしょっちゅう泣く子がいたので、こちらの世界の子供はやっぱり鍛え方が違うと感心していた。


◇◇◇


「アキナさまの発案、うまくいって良かったね。アタシもやってみたくなったけど、小さな子相手じゃ無理だもんなぁ。離宮でも始めないかな?」

「そうね。離宮のみんなは運動不足がちだからやったらいいんだわ。学校でもこれから週に一度は相撲の時間になるって。しかも全学年だよ?これってもしかして すごいことじゃない?」

「そりゃすごいよー 実はみんな縄跳びとか球当てドッジボールとかには飽きてたってことかもしれないね。怪我がちょっと心配なくらいかなぁ」

「最初だから恐る恐るやってた感じだし、幸い大けがした子はいなかったけど、すりむいたりあざができた子はいたね。もしケガした場合って神力でパパッと治せたりしないの? おなか痛いとかの時は救護室で治してもらえるんでしょ?」

「水属性の治癒術は病気にしか効かないからなぁ。他の属性で治せるか知らないけど普通に治療院へ行くしかないんじゃない? 猛獣もうじゅうに襲われたときに担ぎ込まれて治療受けて治ったっておじさんもいたし、きっとちゃんと治せるんだと思うよ?」

「それ聞いたら少し安心したよ。せっかく楽しめそうなのに親とかが苦情言ってきて中止になったらイヤだもん」

「それはないんじゃない? 逆に怪我なんかして情けないってお父さんにひっぱたかれたりしそう。アタシが一度だけへこたれて離宮での見習いやめたいって言った時は、お父さんにもお母さんにもビンタされて戻されちゃったんだよ? ひどくない?」

「確かにそれはひどい…… 暴力で言うこと聞かせるのは絶対ダメ! 子供相手でもちゃんと言い聞かせないとおかしな大人になっちゃうよ。それもだけど、優秀ゆうしゅうな天才フロラが辞めたいって思ったことがあるほうに驚いたけどね」

「ああ、それはね。半年くらい経つと周りの子とだいぶ差が付いちゃってさ。なんか気まずいって言うか近寄りがたく扱われたと言うか、そんな感じでここにいるのがつらくなってきたのよ」

「へー、天才ならではの悩みだね。でもそれはもう解消したの? 周りも追いついてきたとか?」

「ううん、離宮に来て一年は見習いの見習いみたいな立場だから、一緒に入った子たちと学ぶのよ。でもアタシの場合は周りと調和ちょうわが取れないからって見習いの組へ上げてくれたわけ。だからリヤンと仲良くなれたんだよね」

「それってええっと、学校出てからだから十三歳の時だよね? リヤンは十六歳? ってことは三年たってる子と同じってことだからかなりすごくない?」

「まあそこそこかな。学力とかがあったらもっと上でセナタと同じだったかもしれないけど、そこは仕方ないって感じ」

「ちょっと待って…… セナタってリヤンの一つ下だよね? もしかしてリヤンってやばくない? それで来年神官になれるのかなぁ」

「ムリムリ、絶対なれないよ。十八で一発合格なんてめったにいないんだから。アタシだって多分無理だな。それに最低でも浄化のほかにもうひとつ使えないと働く場所もないよ」

「じゃあずっと見習いの可能性もあるわけ? そんな人たちもいるの?」

「そうだねぇ、いなくはないけど転職して公衆浴場とか治療院とか、あとは子育てだけやってる人もいるね。一生涯この離宮務めなんて統括たちみたいな幹部くらいじゃないかな」

「へー、みんな気楽な雰囲気だけど実際は厳しい道のりなのか。大変だろうけど頑張ってほしいなぁ。でもウチのお世話係からいなくなるのもさみしいけどさ」

「あはは、じゃああと七年くらいは見習いのままでいいからリヤンの心配はいらないね、あはははー」

 この時私はハッとして扉へ向かって振り向いた。以前同じような状況の時に、リヤンがむくれて立っていたことを思い出したのだ。しかしそこには誰もおらず一瞬の静寂が訪れる。


「ちょっと上の二人! うるさいんですよ! そんな大声で私の悪口言わなくてもイイじゃないですか!」

 そう思ってた矢崎、下の階から怒鳴りつけてきたのはリヤンだった。どうやら休憩時間に自習していたらしく、きっと聞こえていたんだろう。

 私とフロラは驚いた顔で見合ってから、さっきよりもさらに大きな声で笑った。
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