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第三章:聖女は一般人になる
32.聖女の秘策
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クリスの立ち合いが終わって土俵がきれいに整えられるといよいよ私の番がやってきた。気合いを入れ過ぎて思わずまわしを平手でパンパンと叩くと、意外に大きな音がして周囲の視線が集めてしまい少し恥ずかしい。
自分なりに気合いを入れただけのつもりだったが、こんなしぐさをしている子は一人もいなかったのでかなり目立った気がする。だが恥ずかしいとか思っている場合ではない。
土俵へあがる前に一応そんきょして心を落ち着けるのが、今まで功を奏している気がするため今回も同じように腰を落とす。
心の中ではちびっ子相撲時代を思い出すんだ。パパが庭に円を描いてたくさん教えてくれてたでしょ、と自分自身へ語りかける。
これは取組前に自分に自信をつけるためパパもやっていたことの真似だ。厳しいけいこをしてきたのだから勝てる、そう思い込むことが大切なのだとか。
そうこうしているうちに時間いっぱい、なんてルールはないけど、まあそんな感じで呼び出しがかかった。
「それでは両者前へ。準備はいい? はっきょーい、のこったあ!」
意味も分からず掛け声として発せられた立ち合いの合図。行司がいるわけではないので土俵の中には二人だけである。
相手は予想通り上から手を伸ばして掴みかかってきた。しかし――
『パッチーン!』
大きな音が鳴り響くと、それに反応したのかビビったのか、どっちでもいいが相手の動きが一瞬止まった。その一瞬の隙を見逃す私ではない。
あっという間に横手へ回り込み、ひざの裏へ手をまわして相手のバランスを崩してやった。すると当然のように膝カックンとなって両膝両手を土俵へとつける。
「アキナちゃん! やったあー!!」
「わああああ! すごい! 一番下の子が上級生を倒したぞ!」
「うわっ、今何したんだ!? よくわからなかったな?」
歓声も感想もいろいろありそうだが、私は無事に勝利することができた。大きく深呼吸をしてから土俵際までさがり、再びそんきょしてから礼をして土俵を降りる。
「すごいすごいすごい! アキナちゃんやったよ!」
「さすがアキナ! 八歳を倒しちゃうなんてすごすぎだよ!」
「アキナちゃんカッコよかったー! 今度私にも今の技教えてよね!」
女子からは手厚い祝福を受けているのだが、面白くないのは男子だろう。なんといっても代表の二人とも上級生の壁を破れず敗退済みなのだから。
「なんか今の汚くないか?」
「ズルだよズル、ホントなら負けだろうな」
そんな声も聞こえてくるが私は一向に気にしない。これは小兵が大きな相手に勝つために使うれっきとした相撲の技なのだから。
とはいっても五歳女子横綱としてはあまりほめられたものではない。力士の頂点である横綱は奇策を使うもんじゃない。建前上はだけど。
私がこの取組で使った猫騙しはパパも使っていた思い出深い技なのだ。小柄ながら真っ向勝負をする取組が多かったのに、たまに猫騙しをすることがあって人気者だった。
その技で強敵に勝てたのだから感無量と言っていい。当然男子のいちゃもんなんて気にもならないし、なんなら負け惜しみをしている子たちを見下すまである。
だがここでも意外なことが起こっていた。
「なに言ってるんだ。相手を一瞬止めたとして、それだけであの体格差の相手に勝てると思うか? アイツはやっぱりすごい、さすが僕の超えるべき相手だ」
なんと、またもやケイラムが私を擁護して男子たちをたしなめている。一体どういう風の吹き回しなのか、ここまで来ると気持ち悪い。
だがそんなことに気を取られている場合じゃない。次の取組も強敵なのだ。なんといっても少し―― いや大分大きすぎる六歳の女の子…… 本当に一つしか変わらないのか疑問を感じるほどである。
「ねえねえアキナちゃん、ちゃんとクッキー食べてよ? クリスちゃんの敵をとらなきゃなんだからさ。今の凄いのみたいな秘策ある? 絶対勝てるよね?」
「まあなるようになるんじゃない? 幸い動きは鈍そうだし、組まなければダイジョブでしょ。油断はしてないから全力で倒しに行くから応援よろしくね!」
「もちろん! まかせといて! はい、クッキーもう一枚食べてしっかりね」
しかし次の取組はあっけないものだった。なんとも拍子抜けのあっさりした勝負に観客からは失笑が漏れ聞こえてくる。
「それでは両者準備はいい? はっきょーい――」
両手の拳を土俵へつけて立ち合おうとした瞬間、私の瞳には信じられないものが写っていた。
相手の子は、先ほど私がやった猫騙しを相当に警戒してしまったらしく、立ち合いの直前に目を閉じたのだ。
「のこったー!」
でっぷりとした巨体をゆすりながら前へと突進してきたが、まだ目をつむったままである。当然私はゆうゆうとその様子を見ながら前に出された腕をつかんで引っ張った。
当然のように相手は前へとつんのめり、そのまま土俵へ手をつく。きれいな引き落としが決まって私はガッツポーズをとりたい気分になりつつ土俵際へと戻る。
それでも今まで同様そんきょと礼をしてから土俵から出た。するとこちらもさっきと同じように女子が群がってきて大歓声での出迎えだ。
「やったやった! アキナちゃん勝ったよ!」
「やっぱりアキナって強い! さすが!」
それはもう優勝したかのようなやんややんやの大喝采である。しかし取組はすべて終わったわけじゃない。これから敗者復活戦があって未対戦の子たちとも立ち会うことになる。
だけど正直言って私はもうへとへとだった。
自分なりに気合いを入れただけのつもりだったが、こんなしぐさをしている子は一人もいなかったのでかなり目立った気がする。だが恥ずかしいとか思っている場合ではない。
土俵へあがる前に一応そんきょして心を落ち着けるのが、今まで功を奏している気がするため今回も同じように腰を落とす。
心の中ではちびっ子相撲時代を思い出すんだ。パパが庭に円を描いてたくさん教えてくれてたでしょ、と自分自身へ語りかける。
これは取組前に自分に自信をつけるためパパもやっていたことの真似だ。厳しいけいこをしてきたのだから勝てる、そう思い込むことが大切なのだとか。
そうこうしているうちに時間いっぱい、なんてルールはないけど、まあそんな感じで呼び出しがかかった。
「それでは両者前へ。準備はいい? はっきょーい、のこったあ!」
意味も分からず掛け声として発せられた立ち合いの合図。行司がいるわけではないので土俵の中には二人だけである。
相手は予想通り上から手を伸ばして掴みかかってきた。しかし――
『パッチーン!』
大きな音が鳴り響くと、それに反応したのかビビったのか、どっちでもいいが相手の動きが一瞬止まった。その一瞬の隙を見逃す私ではない。
あっという間に横手へ回り込み、ひざの裏へ手をまわして相手のバランスを崩してやった。すると当然のように膝カックンとなって両膝両手を土俵へとつける。
「アキナちゃん! やったあー!!」
「わああああ! すごい! 一番下の子が上級生を倒したぞ!」
「うわっ、今何したんだ!? よくわからなかったな?」
歓声も感想もいろいろありそうだが、私は無事に勝利することができた。大きく深呼吸をしてから土俵際までさがり、再びそんきょしてから礼をして土俵を降りる。
「すごいすごいすごい! アキナちゃんやったよ!」
「さすがアキナ! 八歳を倒しちゃうなんてすごすぎだよ!」
「アキナちゃんカッコよかったー! 今度私にも今の技教えてよね!」
女子からは手厚い祝福を受けているのだが、面白くないのは男子だろう。なんといっても代表の二人とも上級生の壁を破れず敗退済みなのだから。
「なんか今の汚くないか?」
「ズルだよズル、ホントなら負けだろうな」
そんな声も聞こえてくるが私は一向に気にしない。これは小兵が大きな相手に勝つために使うれっきとした相撲の技なのだから。
とはいっても五歳女子横綱としてはあまりほめられたものではない。力士の頂点である横綱は奇策を使うもんじゃない。建前上はだけど。
私がこの取組で使った猫騙しはパパも使っていた思い出深い技なのだ。小柄ながら真っ向勝負をする取組が多かったのに、たまに猫騙しをすることがあって人気者だった。
その技で強敵に勝てたのだから感無量と言っていい。当然男子のいちゃもんなんて気にもならないし、なんなら負け惜しみをしている子たちを見下すまである。
だがここでも意外なことが起こっていた。
「なに言ってるんだ。相手を一瞬止めたとして、それだけであの体格差の相手に勝てると思うか? アイツはやっぱりすごい、さすが僕の超えるべき相手だ」
なんと、またもやケイラムが私を擁護して男子たちをたしなめている。一体どういう風の吹き回しなのか、ここまで来ると気持ち悪い。
だがそんなことに気を取られている場合じゃない。次の取組も強敵なのだ。なんといっても少し―― いや大分大きすぎる六歳の女の子…… 本当に一つしか変わらないのか疑問を感じるほどである。
「ねえねえアキナちゃん、ちゃんとクッキー食べてよ? クリスちゃんの敵をとらなきゃなんだからさ。今の凄いのみたいな秘策ある? 絶対勝てるよね?」
「まあなるようになるんじゃない? 幸い動きは鈍そうだし、組まなければダイジョブでしょ。油断はしてないから全力で倒しに行くから応援よろしくね!」
「もちろん! まかせといて! はい、クッキーもう一枚食べてしっかりね」
しかし次の取組はあっけないものだった。なんとも拍子抜けのあっさりした勝負に観客からは失笑が漏れ聞こえてくる。
「それでは両者準備はいい? はっきょーい――」
両手の拳を土俵へつけて立ち合おうとした瞬間、私の瞳には信じられないものが写っていた。
相手の子は、先ほど私がやった猫騙しを相当に警戒してしまったらしく、立ち合いの直前に目を閉じたのだ。
「のこったー!」
でっぷりとした巨体をゆすりながら前へと突進してきたが、まだ目をつむったままである。当然私はゆうゆうとその様子を見ながら前に出された腕をつかんで引っ張った。
当然のように相手は前へとつんのめり、そのまま土俵へ手をつく。きれいな引き落としが決まって私はガッツポーズをとりたい気分になりつつ土俵際へと戻る。
それでも今まで同様そんきょと礼をしてから土俵から出た。するとこちらもさっきと同じように女子が群がってきて大歓声での出迎えだ。
「やったやった! アキナちゃん勝ったよ!」
「やっぱりアキナって強い! さすが!」
それはもう優勝したかのようなやんややんやの大喝采である。しかし取組はすべて終わったわけじゃない。これから敗者復活戦があって未対戦の子たちとも立ち会うことになる。
だけど正直言って私はもうへとへとだった。
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