聖女は良い子と呼ばれたくない! ~社会からはみ出した夜遊び少女のゆるり異世界生活~

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
45 / 53
第五章:聖女は悪い子をめざします

45.聖女のひらめき

しおりを挟む
 今のこの状況をはたから見たら、子供二人が庭のベンチで仲良く話しているように見えるかもしれない。しかし実のところどちらも子供ではなかった。

 まあ確かに私はまだ若いし子供といっていい。だけど相手の中身は間違いなくオジサンである。しかも軽薄けいはくそうなイタリア人ときたもんだ。

 今までオジサンと二人でおしゃべりするなんて考えたこともなかった。とはいってもこの時間はお互いに都合がよく、私は庭のベンチにケイラムと並んでこれまでのいきさつを聞いていた。

 どうやら本当に婚約話は王さま主導で言いだしたことらしい。てっきりケイラムが私に一目ぼれでもして王さまへ頼んだのかと疑ってたのに違ったとは、少々自意識過剰じいしきかじょうだったようで恥ずかしくなる。

 最初は途中入学なんて珍しいって話から始まり、聖女召喚に巻き込まれた少女、というか幼女と聞いた王妃がまず盛り上がり始めたようだ。

 そんな慈愛じあいにあふれる王妃の心にひびいてしまったのは、一人で異界からやってきたのが小さな子供であることが最大の理由らしい。

 きっと一人でさびしいだろうとか、離宮には仕事をしている女性たちしかいないので遊び相手もおらずかわいそうだとか理由はいくらでも出てくるだろう。

 話が婚約まで飛躍ひやくした最大の決め手となったのはやはり親がいないことで、同い年であればまずは養女として迎えておいて、適齢てきれいになったら結婚すればいいと考えて王さまともども勝手に納得したとか。

「さすがに僕は困ってしまったよ。なんと言っても今は六歳だけど中身は三十過ぎの青年だからね。キミとは違ってこちらで生まれたから完全に現地人なんだけど、記憶だけはしっかり残っていると言うわけさ」

「ちょっと待って、今青年って言った? そこだけは引っかかるわね。三十代なんて言ったらオジサンじゃないの。勝手に話をじ曲げないでくれる? ウチは正真正銘ピチピチだけど!」

「そこはどうでもいいのでは? 僕だってまだ若いつもりなんだからさ。まあそれはともかく、こちらにしてみれば大人の僕が六歳の幼児と結婚するなんてありえない話だろ? おっと、日本人は大人が子供を恋人にするんだったっけ? アニメで見たことがあるよ?」

「一体どんな偏見へんけんなのさ…… アニメなんて全部フィクションなのに、大の大人がそんなのに感化かんかされてどうすんのよ。でもまあ言ってることは正論かもね。ウチも三十過ぎのオジサンと結婚なんてまっぴらごめんだもん」

「だから青年だが…… だけどそれを誰にも言えないだろう? キミは実年齢十七歳だってことを離宮の人たちに知られているのかい?」

「全員じゃないけど、ルカ統括とか世話係の三人とかは知ってるね。他にも聖女召喚の儀式に立ち会った人は知ってるかもしれないなぁ」

「なるほどね。では一応秘密にしておくべきってことか。それで聖女さまは見た目と実年齢は同じなのかい? 少し肉付きのいい健康的な女性だったよね」

「ん? 聖女の実年齢ってだからさ―― あわわ、なんでもない。ちょっとアンタ? まさか聖女を口説こうとか考えてないでしょうね? 確かに年齢は二十代半ばだったはずだから中身のアンタとは釣り合うかもしれないけど、今の自分が六歳児だってことわかってんの?」

「なにも言ってないのに変なこと決めつけないでくれよ。まったく世の軽薄イタリア男たちは他人への迷惑めいわくを考えてほしいね。全員が全員ナンパ男じゃないんだぜ?」

「でもアンタのしゃべり方ってなんか軽いじゃん? それじゃ同類に見られて仕方ないと思うけどな。そんで、オジサンが幼児性愛者ロリコンじゃなくてまともそうなのはわかったけど、じゃあどうするわけ? 親も乗り気なんでしょ? 断れるの?」

「いや、今まで一度も逆らったことなんてないし、なるべく子供らしく振舞ふるまおうと努力してきたからめちゃくちゃいい子で通ってるんだよねえ…… どうしたらいいと思う?」

「はあ? アンタがいい子だっての? 笑っちゃうわね。学校では取り巻き連れて威張いばってるくせにさ」

「あれなぁ、困ってるんだよ。彼らは王宮で働いてくれてる家政婦さんたちの子息なんだよね。赤ん坊のころからの付き合いだから対等な付き合いがしたいんだけど、学校へ入るときに親たちから僕をしっかり守るように、みたいに言われてああなっちゃったのさ。帰ってくると普通なんだけどね」

「そっか、あれは演技と言うか、アンタを持ち上げて見せる遊びみたいなもんってことね。なんだ、普通の子供らしいとこあるんじゃないの」

「そりゃ向こうは正真正銘しょうしんしょうめい普通の子供だからね。調子に乗った振りして偉そうに見せるのも楽じゃないよ」

 どうやらケイラムはケイラムで苦労があるようだ。私はそんなオジサンの振る舞いを思い返してクスクスと笑ってしまった。

 それより問題は婚約話の行方である。どうやって断ればいいのか考えてみたが、何のことはない。私がこの貧弱ケイラムを無様ぶざまに振ってやればいいだけ。

 気楽に考えた私は、そうなったときに皆がどんな反応をするかを想像し、ひとり勝手に楽しくなっていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~

小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ) そこは、剣と魔法の世界だった。 2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。 新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・ 気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

処理中です...