聖女は良い子と呼ばれたくない! ~社会からはみ出した夜遊び少女のゆるり異世界生活~

釈 余白(しやく)

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第二章:聖女はとうとう聖女になる

15.聖女の初外出

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 とうとうこの時がやってきた! もう朝から落ち着かず、あっちへうろうろそっちへふらふらしながらその時を待つ私だ。

 なんといってもこちらの世界へきて初めての外出だから興奮するなと言うほうが無理に決まっている。

 いったい街はどんな雰囲気ふんいきだろうか。離宮内は自由に動き回れると言ってもそこから街並みが見えるわけではない。

 ここの造りから想像するに、きっと少し前の時代の洋風建築で、レンガや石造りの家が並んでいるんじゃないかと考えていた。

「そんなにワクワクするようなところじゃないと思いますけどねぇ。昼過ぎになれば商店は開きますけど、あくまで配給物の交換が主なので楽しめる要素はありませんよ? 今日はお祭りとかもないですし」

「でも初めて表に出るんだよ? それだけだって十分楽しみだってば。リヤンだって彼氏と初めて出かけたときは場所がどこであろうとワクワクしたでしょ?」

「い、今それは関係ないってば! もう…… ちびっ子なのに色恋の話が好きなんて絶対におかしい! これじゃ街へ出たら普通じゃないってばれちゃいますねぇ」

「あ、うそうそ、絶対にばれないようにするから。ね? リヤンお姉ちゃん! あーあー、セナタお姉ちゃんはまだかなー」

 街へ出るときの約束事として、聖女であることがばれないようにするのがルカ統括から出された条件だった。まあ条件と言ってもそれは私も当然だと思うので別に逆らったりはしてない。

 ルカ統括の心配は、聖女であることがばれて民衆会にさらわれるとか、弱みを握られるとかそっち方面のことだった。

 だがその心配は取り越し苦労に過ぎない。いざとなればさらったり洗脳せんのうしたりしようとした人の精神をのっとって帰ってくればいいだけだからだ。

 私はそんな難しい心配はしておらず、聖女だなんてことが知れたら注目を集めて自由に出歩けなくなるかもしれないと言うことだ。

 もてはやされてうれしくないわけじゃないけど、ずっと見られていたら街を落ち着いて歩いてられない。

 こうして昼のおやつが終わるのを待って、私たちはいよいよ街へと繰り出した。


「ねえ、街までは遠いの? まだ大分かかる? ウチ歩きすぎて足が痛くなってきちゃった」

「えっ? アキナったら何言ってるの?さっきからずっとアケツの街の中だよ? 今日は普通の日だからなにもないって言ったじゃないの。そうだなぁ、あ、あそこの家の前にお店が出てるでしょ?」

「お店? どこを指さしてるのよ。えとー、んん?」

 私はリヤンの腕の下へもぐって指差している方向を見つめた。するとそこには家の前にゴザを敷いている人が見える。言われてみれば確かになにか並べていて通りがかる人が足を止めたり、なにかと交換しているようだ。

「えー、あれがお店なの? ゴザ敷いてるだけだよ?」

「そうだよ、アケツではあれが普通だもん。大きな配給所へ行けばもっと大勢の人がいるけど、そこは食材や調味料が中心だから行っても面白くないよ? まさか料理に興味があるとか?」

「うーん、別にないけどさ。お店って言うから家の前にちょっと出してる、みたいなのは想像してなかったんだもん。でもそっか、いくらがんばってなにか作って売っても自分のかせぎってわけじゃないもんね。決められたものを決められただけ作るのが当たり前なのかな」

「まあそうだね。それ以外に何があるのか知らないし、アキナがどんなの想像してたのかもわからないけどさ。でもほかの国から演劇や演奏隊がやってくることもあるんだよ? そういう時は外国のお金が手に入るからみんな張り切っちゃう」

「ああ、お金自体はあるんだね。テンカーにはないだけで。そういうの知ってても今のほうがいいと思う? ウチとしてはいいとこどりすればいいのにって思うから、ルカ統括はもっと柔軟に考えたほうがいいんじゃないかなぁ」

「私には難しいことはわからないかな。今みたいに生活できればどっちでもいいってのが本音。だってほかの国だとお金稼げなかったらご飯も食べられないで死んじゃうんだよ?」

「まあ難しいことは偉い人たちに任せて、ウチたちは今を楽しめばいっか。リヤンやセナタのおすすめスポットはないわけ? デートに行くときどうしてんのよ。あの離れてついてきてる人たちに聞いてもいいけど」

「ダメダメ、組み合わせ的に不自然だもん。もっと若いか歳いってたら兄妹か親子で良かったけど、ちょっと半端で危ない人っぽくなっちゃうでしょ?」

「なんで危ないって―― えっ、やっぱり小さい女の子が好きな男の人とかいるわけ!? やっばー」

「なにそれ! ちょっとー、恥ずかしいこと言いださないでよね! 他国から来た人さらいに捕まったみたいに見えるってことだよ。自分の国で売るためにテンカーからさらっていくんだって。私たちって神力持ってることが髪の色を見れば一発でわかっちゃうからね」

「じゃあのんきに出歩いてちゃまずいんじゃないの? だから護衛ごえいなんてつける話になったのかな。でもそしたらほかの神官や見習いはどうでもいいってこと?」

「どうでもよくはないと…… 思いたいけどね。人さらいの話がが明るみに出たのは行方不明事件が起きた何十年か前のことだし、それからは街の出入りで厳しく検査してるって話。だからそれからは発生してないんだってさ」

「ホントかなぁ? 隠してるとかばれてないだけじゃないの? ルカ統括って秘密主義な雰囲気ぷんぷんだもん。他の偉い人だって似たようなものなんじゃない?」

「なんかアキナってすごく疑い深いよね…… 実際にないと思うよ? 大昔と違って神力のことは誰でも知ってることだし、海外へ行くのも不可能じゃないからね。気軽に旅行が無理なだけでさ」

「じゃあ別に護衛なんていらなかったじゃん。陰で見られてると思うと落ち着いて楽しめないよ。まあ楽しむ場所もないけど……」

「なくはないんだけど、護衛の人がいるからあまり変なとこへは行かれないしなぁ」

「どうしてどうして? 護衛の人も一緒に行けばよくない?」

「だって女向けだからさぁ。男の人連れてなんて行けないってばー」

 そこまで聞いたらどうしても行きたくなるのが私の性分である。つまりこれはやるしかない――

「じゃああの人たちをまいちゃおう! リヤン、セナタ、走って!」

 それはもうこっちの世界に来てから一番と言うくらいのスピードで、私は短い足を目いっぱい早く動かして走った。
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