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第三章 水無月(六月)
48.六月十三日 朝 通学路
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以前八早月が通学中に上中下左右少年をいじめから助けたことが美晴と夢路にばれてしまってから数日、どうやら二人は左右へ連絡を取ったらしくちゃんと八早月にお礼と謝罪をさせようと息巻いていた。
そんな二人と一緒に通学するため、今日も少し手前で降ろしてもらいほんの十分程度の道のりでのおしゃべりを楽しんでいた。そして今日の話題は当然左右についてだ。
「一応さ、家には行ってみたんだけど出てこないんだよね。
あの子のお婆さんには伝えたけどどうしても会いたくなって言うんだよ?
いくらなんでもちょっとおかしいよね」
「やっぱり仲良かったわけでもないどころか、下手したら嫌われてるのかもね。
イジメてた子を恨んでるだけじゃなくて見てただけの子たちも同罪ってやつ?」
「まあそれも仕方ないよね。
同じ子供なんだし、先生に言いつけるくらいしかできないもん。
それを逆恨みされてもねぇ」
「教師はなぜ野放しにしておくのかしら。
私にはそこが一番理解できないわ」
「色々あるんだろうけど、一番は事なかれ主義だってさ。
おかあちゃんが言うには、公立教師は数年ごとに転勤だから問題なしが一番って。
上中下君の場合はまた別の問題があったんだけどねぇ。
親が子供の頃すごく悪い子だったらしくて恨まれてるんだってさ」
「そうそう、だから子供世代では何してもいいみたいな風潮があるみたい。
でも私やハルの親は絡みが無かったらしくて特に興味もないってわけ。
聞いた話だとどっちも不良でグループが違ってたとかそんなのらしい」
「はあ、下らわないわね、どっちもどっちってわけじゃない。
結局は今の力関係でいじめられているってことなのね。
哀れなのは確かだけど、卒業式では仕返ししたのでしょ?」
「体育館でパイプイスを投げまくって凄かったよ。
式は途中で終わりになったし、イジメてた子も軽い怪我したりしてさ。
でも中学に入ってまた先輩にいじめられてるみたいだね。
八早月ちゃんが相手にしたのはその先輩たちってことなんでしょ?」
「年上だったかどうかはわからないけど、話によるとそうなのかもね。
何かされそうになったら自分で対処するからいいけど、彼は難しいでしょうね。
二人が巻き込まれるようなことにならなければ私は平気、心配いらないわ」
そんなことを言っているうちに校門が見える辺りまでやって来た。すると手前には人目につかないよう自販機の影に隠れている男子生徒が見える。一人は以前八早月が痛めつけた男子で、その他には見知らぬ顔が二人の合計三人が待ち構えている。
「ねえ、あれって八早月ちゃんを探してるんじゃない?
どっか裏とかから入った方がいいよ。
それとも先に先生に言いに行こうか?」
「私は平気だから二人は先に言って巻き添え食わないようにしてもらえる?
この間うちに来た時に見たと思うけど、私ってかなり強いから平気なのよ。
先生も呼ばなくていいから、心配せずに先に行ってちょうだい」
渋る二人を何とか先に押し出して、八早月は一人で歩き出した。すると気付いた三人組がつかつかと歩み寄ってくる。
「こいつか、そのめっちゃ強え女子ってのはよ。
まったくそんな風に見えねえが、お前なんか企んでるんじゃねえだろうな?
俺たちを騙したらタダじゃおかねえぞ?」
「い、いえ、ホントなんです。
やられたのも俺だけじゃないですし、嘘なんてついてないですよ」
以前相手にした男子と、さらにその先輩らしき男子があれこれと話をしている。しかしここでずっと足止めされていたら遅刻してしまうため、いつまでも眺めているわけにもいかない。
「あなた達、なにかご用かしら?
私には用が無いから通してくれると助かるのだけど。
このままでは遅刻になってしまうわ?」
「女子だからってなにもされないと思うなよ?
俺たちも後輩がやられたならそのままにしてはおけねえんだよ。
泣いて謝れば許してやるから早めに観念しろや」
「では私からもお伝えしましょうか。
年上だからと言ってなにもされないと思わないで下さいね。
私は身に掛かる火の粉をただ払うほどおとなしくはないの。
痛みは一瞬でも恥は残りますからそのつもりでどうぞ?」
「てんめええ! なめんじゃねえぞ、このガキ!」
「はあ、またですか? てめえというのはご自分のことだと教えたでしょう?
そちらの後輩さんに教わっておくべきでしたね」
その直後、八早月に向かって繰り出された拳はカバンに叩かれ届くことはなく、その一瞬で両手両足を真宵に斬られた先輩らしき男子生徒二人は、痛い痛いと泣きながら地面に転がっていた。
『八早月様申し訳ございません、怒りのあまり深めに斬ってしまいました。
まったく、主様に手を上げる不届き者が、出来ることなら本当に斬り棄てたい』
『いいえ、このくらいは覚悟してもらわないといけませんからね。
ちょうど良いお仕置きだったでしょう』
二人の不良生徒を冷ややかに見下ろしながら、八早月と真宵は物騒な会話をしていた。事が始まる直前に慌てた様子で走ってきたドロシーは、一応助けに入ろうとしたらしく、傍らに自身の呼士である春凪を伴っていた。
しかしそばまで来たところで自分の学園の生徒が八早月であると確認し、ドロシーはどちらを助けるべきなのか悩んでいた。
そんな二人と一緒に通学するため、今日も少し手前で降ろしてもらいほんの十分程度の道のりでのおしゃべりを楽しんでいた。そして今日の話題は当然左右についてだ。
「一応さ、家には行ってみたんだけど出てこないんだよね。
あの子のお婆さんには伝えたけどどうしても会いたくなって言うんだよ?
いくらなんでもちょっとおかしいよね」
「やっぱり仲良かったわけでもないどころか、下手したら嫌われてるのかもね。
イジメてた子を恨んでるだけじゃなくて見てただけの子たちも同罪ってやつ?」
「まあそれも仕方ないよね。
同じ子供なんだし、先生に言いつけるくらいしかできないもん。
それを逆恨みされてもねぇ」
「教師はなぜ野放しにしておくのかしら。
私にはそこが一番理解できないわ」
「色々あるんだろうけど、一番は事なかれ主義だってさ。
おかあちゃんが言うには、公立教師は数年ごとに転勤だから問題なしが一番って。
上中下君の場合はまた別の問題があったんだけどねぇ。
親が子供の頃すごく悪い子だったらしくて恨まれてるんだってさ」
「そうそう、だから子供世代では何してもいいみたいな風潮があるみたい。
でも私やハルの親は絡みが無かったらしくて特に興味もないってわけ。
聞いた話だとどっちも不良でグループが違ってたとかそんなのらしい」
「はあ、下らわないわね、どっちもどっちってわけじゃない。
結局は今の力関係でいじめられているってことなのね。
哀れなのは確かだけど、卒業式では仕返ししたのでしょ?」
「体育館でパイプイスを投げまくって凄かったよ。
式は途中で終わりになったし、イジメてた子も軽い怪我したりしてさ。
でも中学に入ってまた先輩にいじめられてるみたいだね。
八早月ちゃんが相手にしたのはその先輩たちってことなんでしょ?」
「年上だったかどうかはわからないけど、話によるとそうなのかもね。
何かされそうになったら自分で対処するからいいけど、彼は難しいでしょうね。
二人が巻き込まれるようなことにならなければ私は平気、心配いらないわ」
そんなことを言っているうちに校門が見える辺りまでやって来た。すると手前には人目につかないよう自販機の影に隠れている男子生徒が見える。一人は以前八早月が痛めつけた男子で、その他には見知らぬ顔が二人の合計三人が待ち構えている。
「ねえ、あれって八早月ちゃんを探してるんじゃない?
どっか裏とかから入った方がいいよ。
それとも先に先生に言いに行こうか?」
「私は平気だから二人は先に言って巻き添え食わないようにしてもらえる?
この間うちに来た時に見たと思うけど、私ってかなり強いから平気なのよ。
先生も呼ばなくていいから、心配せずに先に行ってちょうだい」
渋る二人を何とか先に押し出して、八早月は一人で歩き出した。すると気付いた三人組がつかつかと歩み寄ってくる。
「こいつか、そのめっちゃ強え女子ってのはよ。
まったくそんな風に見えねえが、お前なんか企んでるんじゃねえだろうな?
俺たちを騙したらタダじゃおかねえぞ?」
「い、いえ、ホントなんです。
やられたのも俺だけじゃないですし、嘘なんてついてないですよ」
以前相手にした男子と、さらにその先輩らしき男子があれこれと話をしている。しかしここでずっと足止めされていたら遅刻してしまうため、いつまでも眺めているわけにもいかない。
「あなた達、なにかご用かしら?
私には用が無いから通してくれると助かるのだけど。
このままでは遅刻になってしまうわ?」
「女子だからってなにもされないと思うなよ?
俺たちも後輩がやられたならそのままにしてはおけねえんだよ。
泣いて謝れば許してやるから早めに観念しろや」
「では私からもお伝えしましょうか。
年上だからと言ってなにもされないと思わないで下さいね。
私は身に掛かる火の粉をただ払うほどおとなしくはないの。
痛みは一瞬でも恥は残りますからそのつもりでどうぞ?」
「てんめええ! なめんじゃねえぞ、このガキ!」
「はあ、またですか? てめえというのはご自分のことだと教えたでしょう?
そちらの後輩さんに教わっておくべきでしたね」
その直後、八早月に向かって繰り出された拳はカバンに叩かれ届くことはなく、その一瞬で両手両足を真宵に斬られた先輩らしき男子生徒二人は、痛い痛いと泣きながら地面に転がっていた。
『八早月様申し訳ございません、怒りのあまり深めに斬ってしまいました。
まったく、主様に手を上げる不届き者が、出来ることなら本当に斬り棄てたい』
『いいえ、このくらいは覚悟してもらわないといけませんからね。
ちょうど良いお仕置きだったでしょう』
二人の不良生徒を冷ややかに見下ろしながら、八早月と真宵は物騒な会話をしていた。事が始まる直前に慌てた様子で走ってきたドロシーは、一応助けに入ろうとしたらしく、傍らに自身の呼士である春凪を伴っていた。
しかしそばまで来たところで自分の学園の生徒が八早月であると確認し、ドロシーはどちらを助けるべきなのか悩んでいた。
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