限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第三章 水無月(六月)

49.六月十三日 昼 九遠学園中等部応接室

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 昼になり本来は給食の時間なのだが、現在八早月やよいがいるこの場所は、主に来賓がやって来た時に校長が対応するための応接室である。上座には八早月が座っており、その左右に分かれて九遠学園中等部校長である富山雷蔵とやま らいぞうと町立金井中学校長の駿河兵馬するが ひょうまが座っていた。

 二人とも大汗を盛んに拭っているのだが、それは八早月がいるからではない。その少女に上座のソファを譲り傍らに立っているのが町議の目黒朱里めぐろ あかりだったからだ。

 彼女は県の教育委員会から出身地の金井町議となったやり手で、九遠の家とのつながりも深いらしい。八早月は知ってて呼んだわけではなかったのだが、不良たちを懲らしめた後に警察へ連絡し、ついでに教育委員会へも苦情を入れたのだ。

 当然警察沙汰にしたからには母へも連絡し、いつものように「あらあら」とのんきそうだったわりには迅速な対応であっという間に町議が飛んできたと言うわけだ。

「校長先生方、とりあえず顔を上げてください。
 この場は謝罪をする場所ではありません。
 お嬢様にお怪我が無かったことは当然幸いですが、焦点はそこではないのです」

「は、ははっ、この度は当校の生徒が問題を起こしまして申し訳ございません。
 今後きちんと処罰し再発の無いよう指導していく所存でございます。
 もちろん保護者への聞き取り等もきちんと行う予定です」

「わ、私共としましても、通学路に教師を配置し未然に防ぐように致します。
 地域住民の方々や公立校とも連携してですね、こう言ったことが二度と起こらぬよう対策を検討するとお約束します」

「今回の事件ですが、元はいじめ問題にたどり着くと報告を受けております。
 駿河校長殿? その認識はございますか?」

「い、いえ、当校においていじめがあるといった事実は確認できておりません。
 そのことに関しては今後の調査結果をお待ちください」

 こんなやり取りが続いているのだが、正直八早月は自分がここにいる意味が分からなかった。このままでは給食が冷めてしまうか食べられなくなりそうである。だが大人たちの話はしばらく続いて解放される気配はなかった。

 結局十二時五十分ごろになってようやく話は一時的に切り上げとなり、金井中学校長からは正式な謝罪文が九遠学園側に出されることと、今後の対策について報告書を提出することになったらしい。

 本題のいじめ問題については、金井中学内での聞き取り等を含む調査の上、町の教育委員会へ提出することを約束させられており、後日議会へ証人喚問までされるようで正直見ていて哀れである。

 それでもいじめが少しでも減るようなことになれば、それはもちろん悪いことでは無く、校長の尊い犠牲も、八早月の空腹も意味があったと言うものだ。

 給食の時間が終わったことを示すチャイムが鳴ってからこの場が解散となり廊下へと出ると、そこには意外にも八早月の母、手繰たぐりがやって来ていた。母は八早月をしっかりと抱きしめてから心配であったと口にした。

「大丈夫だった? ママは八早月ちゃんが怪我させてないか心配で心配で。
 なんともなかったのよね? お願いだから無茶はしないでちょうだいよ?」

「お母さま? 空耳かもしれませんが、今私より相手の心配をしませんでしたか?
 念のため言っておきますが、私が被害者なのですからね?」

「あらあら、つい本音が出てしまったわ、どうしましょう。
 そうね、きっとお腹が空いているからいけないのよ。
 お昼ご飯を食べに行きましょうか」

「私はまだ授業が残っていますからね?
 今日は水曜日なので五時間目までしかありません。
 昼食に出ていたら終わってしまいます」

「あらあら、それならママだけ食べに行ってしまうわよ?
 朱里ちゃんとは久しぶりに会ったんですもの。
 それくらいしても構わないかしら?」

 どうやらこの町議と母は知り合いらしいと悟った八早月は、なおさら一緒には行きたくないと考え丁重に断った。その代りに帰りの車の中で食べられるよう、和菓子屋で塩豆餅とおこわのおにぎりを買っておいてくれるよう頼んで二人を送り出す。

 ようやく解放され、空腹のまま教室へ戻った八早月を待っていたのは、クラスメートの大騒ぎっぷりだったのだが、それを主導していたのはもちろん美晴と夢路である。

 こんな風に全員が仲良く過ごしているのは、少人数であることと、経済水準、教育水準が似かよっているからなのだろうと八早月は考えていた。
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