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第三章 水無月(六月)
53.六月二十四日 日中 当主会合
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気まぐれで、いや不定期に開催している八家当主が一同に会する会合がこの日開かれていた。それはここ最近の懸念材料であった妖を見ることのできる少女、寒鳴綾乃の保護についての方策が一段落したからだ。
まずはそのことについて八早月から進捗報告がなされ、順次報告や意見を交わすことになった。
「先に話をまとめていた通り、綾乃さんの九遠学園への編入が決まりました。
夏休み直前と半端になってしまいましたが、入学は七月からとなっております。
学年は私の一つ上、直臣の一つ下になります」
「うちの娘は高等部なので直接関わることは少ないでしょう。
ですがきちんと把握しておくよう伝えてきます」
「そうですね、楓にも何かしらお願いすることがあるでしょうね。
聡明さん? 念のため美葉音にもお知らせくださいね。
彼女は八岐贄ではないですが、学園生活で頼ることがあるかもしれません」
「承知しました。
それにしても美葉音には見えないと言うのに件の娘御は大したものです。
臣人殿と耕太郎殿の調べであらかたのことはわかりました。
問題は妖が退治された形跡があると言う事でしょうな」
「おっと、聡明殿には先を越されてしまいましたな。
ワシの調べた通り系譜に神宮と稲荷が含まれていることから先祖がえりかと。
その臣人殿の見つけた妖の痕跡ですが自然消滅もあり得るのかの?」
「うーん、僕の知る限り前例はありませんな。
文献も出来る限り漁ってみましたがやはり似た事例は見当たりませぬ。
ですが煤のような痕跡を聞く限り防妖札の効果とも違うようですなぁ」
「あれは結界にぶつかったようにも見えますね。
現在建築中の寒鳴家の周囲には神杭の結界に掛かった妖の死骸が落ちてます。
もしかしたら彼女の周囲には呼士とは異なる性質の結界が張られているのかも?」
「なるほど、櫻殿の見立ては面白いですな。
僕もその意見に賛同したい、言うなれば歩く結界と言ったところでしょうか。
先日筆頭が出会ったと言う鳥遣いもそうですが、我々の知らない妖討伐の血統は数多く存在するようですしなぁ」
「そうですね、もしかしたら呼士のような特定の同士を持たないのかも。
全国、いや全世界にどのくらい、どのような巫がいるのか見当も付きませんね。
なぜ私たちに横の繋がりがないのか疑問に感じます」
「畏怖され迫害を受けてきた歴史が隠匿へ舵を切らせたのでしょうな。
幸い八畑村や八岐神社は生き残っていますが、失われた社も多い。
異国からの文化と共に宗教観も入って来ますからなぁ。
うまく共存で来ていればいいですが、人が新しいもの好きである限りは……」
古来から続く八百万信仰が失われていくことへの嘆きとも言える初崎宿の言葉に誰もが頷いていた。新たな文化を取り入れ発展していくこと自体は間違いではないだろうが、元々あった物を否定、排斥してしまうことは決して好ましいとは言えない。
八畑村のある十久野郡のような田舎ならまだしも、首都圏のような大都会では土着信仰が失われて久しい。もちろん都会にも大きな神社はあり参拝者は多いが、それが信仰に繋がっているとは限らないのだ。
この郡内でも比較的人口の多い街では西洋文化が優勢であり、結婚式は洋式が増えているし、クリスマスを祝い異国文化を楽しむ人たちも多い。そもそも現在世界的に使用されている西暦自体が西洋の宗教を基準としたもので、日本もそれに準じているのだから浸食されていると考えるのはもはやナンセンスである。
未来に向けて出来る限り共存していくためには、古代からの伝統や風習を限られた一族のみで伝承していくことも必要なのかもしれない。そして会合は続く。
「とは言え、私たちが日本中や世界中のことを考えるのは烏滸がましいことです。
我々の力で護れるのはせいぜい十久野郡かその周辺程度でしょう。
残念ですがその他の地域はそこにいる巫たちに任せるしかありません」
「ですなぁ、都会には都会らしく警察機構や防犯設備等々が備わっていますしね。
近代化に伴って人々の生活が荒むのは節理、元を絶つことは不可能かと。
あんな小さい町でも子供たち同士の諍いが耐えないくらいですからなぁ」
先日のいじめは、言うなれば社会の縮図のようなものであり、そう言った小さな諸問題が妖を引き付けるのは間違いない。人と人の諍いで終わる場合がほとんどだが、一時の争いでは解決せずに、恨み辛みが蓄積されることで現世と常世の間に亀裂を生じさせ妖が現れるのだ。
「それでは次に最近の見回り状況のすり合わせをしましょう。
南部では小規模なものが二度ありました。
相変わらずお守りや御札を損壊させる手法でのまじないが多くて困りますね。
次に宿おじさまから順にお願いします」
「では、西側は小規模一回、中規模一回ですな。
中規模の時には二十代女性を保護、近隣病院へ搬送し現在も入院中とのこと。
では聡明殿どうぞ」
「えー、北側に関しては小規模が四度と数は多かったですね。
どれもすでに事後でお守り三つ、お札数枚を回収し供養済み。
発生した妖は影法師にも満たなかったことから遊び半分だと思われます。
では耕太郎殿の番ですね」
「ワシの担当する東側では小規模一度、中規模が二度でしたな。
中規模のうち一度は応援に来てもらって申し訳なかった。
それにしてもあんな集団で呪いの釘を打つなぞ初めて見たわい。
ヴァーチャルなんたら? ワシにはまったく理解できん」
「ヴァーチャルネットアイドルでゴザイマスねー
あの時はオドロキモモノキ選挙の日デスな。
ソレにしてもアイドルガチ恋失恋で集団まじないとはビックリゴザイマス」
「あれは、インターネットの動画サイトと言う場で活動する人たちですよね。
うちの下の娘たちも夢中で困ってます。
せがまれてパソコンを買ったのですが、それだけでは見られないんですって」
「ははは、櫻殿も大変ですな。
うちの太一郎はなんのこっちゃといった様子でしたわ」
こうしてハイテクとは無縁の集落民による会合は夜遅くまで続いた。
まずはそのことについて八早月から進捗報告がなされ、順次報告や意見を交わすことになった。
「先に話をまとめていた通り、綾乃さんの九遠学園への編入が決まりました。
夏休み直前と半端になってしまいましたが、入学は七月からとなっております。
学年は私の一つ上、直臣の一つ下になります」
「うちの娘は高等部なので直接関わることは少ないでしょう。
ですがきちんと把握しておくよう伝えてきます」
「そうですね、楓にも何かしらお願いすることがあるでしょうね。
聡明さん? 念のため美葉音にもお知らせくださいね。
彼女は八岐贄ではないですが、学園生活で頼ることがあるかもしれません」
「承知しました。
それにしても美葉音には見えないと言うのに件の娘御は大したものです。
臣人殿と耕太郎殿の調べであらかたのことはわかりました。
問題は妖が退治された形跡があると言う事でしょうな」
「おっと、聡明殿には先を越されてしまいましたな。
ワシの調べた通り系譜に神宮と稲荷が含まれていることから先祖がえりかと。
その臣人殿の見つけた妖の痕跡ですが自然消滅もあり得るのかの?」
「うーん、僕の知る限り前例はありませんな。
文献も出来る限り漁ってみましたがやはり似た事例は見当たりませぬ。
ですが煤のような痕跡を聞く限り防妖札の効果とも違うようですなぁ」
「あれは結界にぶつかったようにも見えますね。
現在建築中の寒鳴家の周囲には神杭の結界に掛かった妖の死骸が落ちてます。
もしかしたら彼女の周囲には呼士とは異なる性質の結界が張られているのかも?」
「なるほど、櫻殿の見立ては面白いですな。
僕もその意見に賛同したい、言うなれば歩く結界と言ったところでしょうか。
先日筆頭が出会ったと言う鳥遣いもそうですが、我々の知らない妖討伐の血統は数多く存在するようですしなぁ」
「そうですね、もしかしたら呼士のような特定の同士を持たないのかも。
全国、いや全世界にどのくらい、どのような巫がいるのか見当も付きませんね。
なぜ私たちに横の繋がりがないのか疑問に感じます」
「畏怖され迫害を受けてきた歴史が隠匿へ舵を切らせたのでしょうな。
幸い八畑村や八岐神社は生き残っていますが、失われた社も多い。
異国からの文化と共に宗教観も入って来ますからなぁ。
うまく共存で来ていればいいですが、人が新しいもの好きである限りは……」
古来から続く八百万信仰が失われていくことへの嘆きとも言える初崎宿の言葉に誰もが頷いていた。新たな文化を取り入れ発展していくこと自体は間違いではないだろうが、元々あった物を否定、排斥してしまうことは決して好ましいとは言えない。
八畑村のある十久野郡のような田舎ならまだしも、首都圏のような大都会では土着信仰が失われて久しい。もちろん都会にも大きな神社はあり参拝者は多いが、それが信仰に繋がっているとは限らないのだ。
この郡内でも比較的人口の多い街では西洋文化が優勢であり、結婚式は洋式が増えているし、クリスマスを祝い異国文化を楽しむ人たちも多い。そもそも現在世界的に使用されている西暦自体が西洋の宗教を基準としたもので、日本もそれに準じているのだから浸食されていると考えるのはもはやナンセンスである。
未来に向けて出来る限り共存していくためには、古代からの伝統や風習を限られた一族のみで伝承していくことも必要なのかもしれない。そして会合は続く。
「とは言え、私たちが日本中や世界中のことを考えるのは烏滸がましいことです。
我々の力で護れるのはせいぜい十久野郡かその周辺程度でしょう。
残念ですがその他の地域はそこにいる巫たちに任せるしかありません」
「ですなぁ、都会には都会らしく警察機構や防犯設備等々が備わっていますしね。
近代化に伴って人々の生活が荒むのは節理、元を絶つことは不可能かと。
あんな小さい町でも子供たち同士の諍いが耐えないくらいですからなぁ」
先日のいじめは、言うなれば社会の縮図のようなものであり、そう言った小さな諸問題が妖を引き付けるのは間違いない。人と人の諍いで終わる場合がほとんどだが、一時の争いでは解決せずに、恨み辛みが蓄積されることで現世と常世の間に亀裂を生じさせ妖が現れるのだ。
「それでは次に最近の見回り状況のすり合わせをしましょう。
南部では小規模なものが二度ありました。
相変わらずお守りや御札を損壊させる手法でのまじないが多くて困りますね。
次に宿おじさまから順にお願いします」
「では、西側は小規模一回、中規模一回ですな。
中規模の時には二十代女性を保護、近隣病院へ搬送し現在も入院中とのこと。
では聡明殿どうぞ」
「えー、北側に関しては小規模が四度と数は多かったですね。
どれもすでに事後でお守り三つ、お札数枚を回収し供養済み。
発生した妖は影法師にも満たなかったことから遊び半分だと思われます。
では耕太郎殿の番ですね」
「ワシの担当する東側では小規模一度、中規模が二度でしたな。
中規模のうち一度は応援に来てもらって申し訳なかった。
それにしてもあんな集団で呪いの釘を打つなぞ初めて見たわい。
ヴァーチャルなんたら? ワシにはまったく理解できん」
「ヴァーチャルネットアイドルでゴザイマスねー
あの時はオドロキモモノキ選挙の日デスな。
ソレにしてもアイドルガチ恋失恋で集団まじないとはビックリゴザイマス」
「あれは、インターネットの動画サイトと言う場で活動する人たちですよね。
うちの下の娘たちも夢中で困ってます。
せがまれてパソコンを買ったのですが、それだけでは見られないんですって」
「ははは、櫻殿も大変ですな。
うちの太一郎はなんのこっちゃといった様子でしたわ」
こうしてハイテクとは無縁の集落民による会合は夜遅くまで続いた。
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