限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第四章 文月(七月)

60.七月二日 昼休み 別れと出会い

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 新しい月がやって来たと言うことは新しい出会いもあると言うことだ。今日からいよいよ寒鳴綾乃さむなき あやのが九遠学園に編入してくる。とは言っても一年生の八早月やよいよりも一つ上なのでそれほど関わることはないかもしれない。

 そんな風にやってくる人がいれば去っていく人がいても不思議はない。八早月はとある人物について聞かされていた。

「なんかさ、上中下ひとそろい君の家が引っ越しちゃったんだよね。
 絶対に八早月ちゃんに謝らせてやりたかったのにさ。
 お祖母ちゃんが怪我したらしくってその都合って言ってたらしい」

「彼にとっては良かったかもしれないじゃない?
 引っ越した先でどうなるかはこれからだろうけどね。
 願わくば引っ越し先ではいじめられないことを祈っているわ」

 実際には先に聞いて知っていたのだが、今となってはどうでもいいことだ。事件を起こした彼の祖母も別に罪に問われることはなかった。問題は、あの呪詛をどうやって入手し使用したのか当人は全く覚えておらず、怪しげな新興宗教に傾倒していたことさえ記憶にないのだと言う。

 結局、治療と言う名目で政府関連機関の息がかかった病院へ通い、しばらくは監視対象となるらしい。宗教がらみとなるとあまりおおっぴらに捜査できず、かと言って野放しにもできないのだから面倒である。それが海外から入って来たものならなおさら、と言ったところか。

 こんな風に考えることが多く、しかも先週はテスト期間で早く終わっていたためか午前中がやけに長く感じていたが、ようやく昼になり給食の時間がやって来た。八早月にとって給食の何が楽しみかと言うと、家で食べる機会がほぼ無いものが出てくるところだ。

 小学生のころから週二、三度出るパンが大好きだったのだが、中学に上がってからはそのパンの質が良く楽しみが増えていた。そして今日の給食はバターロールだったので八早月は珍しくはしゃぎながら食事を済ませたのだった。

「そんなにバターロールが好きだなんて珍しいよね。
 珍しくもなんともない一番って言ってもいいくらい普通のパンじゃない?」

「でも食パンよりはステキじゃない?
 形もカワイイし、風味が豊かで大好きなのよね。
 家でパンが出てくることはまずないんだもの」

「普段はご飯だけ? あとはうどんとか?
 うちは洋食が多いからパンも結構多いけどな」

「うちで洋食が出てくることはまずないもの。
 白米か玄米か、あとはそばうどんにすいとんや豆に芋ってとこね。
 きっと夢路さんのお母様はお料理上手なのよ、ステキだわ。
 私、洋食なんて給食以外では入学式の日に初めて外食した時に食べただけよ?」

 八早月はパン食があまりにも羨ましくて、言わなくてもいいのに自分の少なすぎて恥ずかしい洋食経験を暴露してしまった。世間知らずの八早月でも、さすがにこの現代で洋食を一度しか食べたことが無いのは変わり過ぎていることくらいわかっているのだ。

「今まで一回って…… それもまた極端だよね。
 山菜なんて珍しいものは毎日のように食べてるのにさー
 後なんだっけ? 先輩から貰った珍しい魚とか初めて食べたよ?」

「ああ、かじかね、アレはうちでもめったに食べないわよ?
 おすそ分けが無かったら自分では獲れないもの。
 岩魚とかは結構いただくけど鰍はやっぱり珍しいわね
 でも山菜はその辺にいっぱい生えてていくらでも獲れるからありがたみが無いわ」

「パンよりよほど珍しくて羨ましいもの食べてるって自覚してよね?
 よし、今度八早月ちゃんちに遊び行くときにはパンを持っていこう!
 この町にもおいしいパン屋さんくらいあるからね。
 給食のパンよりもずっとおいしいんだから」

「ホントに!? それはとても楽しみね。
 今月のどこかで例の編入生の寒鳴さんがウチに来ると思うから、その時に泊まりに来てくれるとうれしいわね」

「いいねいいね、でも一応先輩なんだっけ?
 仲良くなれるかちょっと心配だね」

「きっと美晴さんは大丈夫、少し似ている感じでとても快活な子よ?
 だから夢路さんも苦手なタイプってことはないと思うわ」

「もしかしてあの子?」

 夢路が教室の出入り口を指さすと、顔を半分出してこちらを覗いている女子生徒が見えた。八早月と目が合うとニコリと笑いながら顔を出す。間違いない、綾乃だ。

「寒鳴さん、わざわざ会いに来てくれたのですか?
 別の学年の教室なのにありがとうございます。
 帰りに行こうと思っていたのだけど先を越されてしまったわ」

「櫛田さんってもっと大人しいと言うかクールな感じだと思ってたわ。
 今覗いてたら結構笑いながらお話するんだね。
 なんかいい友達になれそうで良かった」

「私のお友達を紹介するから待っていてね。
 美晴さん、夢路さん、こっち来て、紹介するからー」

 少し戸惑っている様子の二人だったが、八早月がもう一度声をかけるといつもの笑顔で廊下へやって来たのだった。
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