限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第四章 文月(七月)

65.七月十日 放課後 Afternoon Tea Party

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 七月になり寒鳴綾乃さむなき あやのが転入してきてからまだ一週間、しかし八早月やよいや美晴たちともすっかり打ち解けていた。実際には綾乃が一つ年上なのだが、誰もそんなことは気にしておらず、ごく普通の友人関係と言った様子だ。

 そんな風にすっかり仲良くなった四人は、放課後に自習と称してフリースペースへ立ち寄り、午後のお茶会を楽しんでいた。もちろん多少は勉強もしており、一学年上の綾乃は心強い家庭教師である。代わりに八早月は古文を教え、暗記が得意な夢路は勉強のコツをみんなへ教えていた。

「今気が付いたんだけどね、アタシだけ役に立ってない気がする……
 このままじゃ足を引っ張るだけの役立たずになっちゃうよー」

「ハルは朝になって宿題やってないから手伝えって言わなくなるだけでいいよ。
 それより部活行かなくて平気? そろそろ時間になるんじゃない?」

「そうだ、行かないと! それじゃまた明日ねー」

 八早月には走っているだけにしか見えない陸上部のどこにそれだけの魅力があるのか理解が難しいが、美晴がタイムを縮めようと懸命に努力する姿は美しいと感じていた。今まで周囲にスポーツをやっている人がいなかったこともあって、とても新鮮で珍しいからと言ってしまえばその通りでもある。

「綾ちゃんって久野中だったんでしょ?
 あそこってプールあるくらいだしみんな泳げるの?」

「うーん、全員は泳げないと思うよ?
 小学校の時も泳げない子はいたしね。
 でも私はこう見えてもまあまあ泳げるんだよ?」

「夏休みになったら久野高のプール開放に行こうかって話してたんだけどね。
 向こうで待ち合わせれば一緒に行かれるかな?
 こっちはハルが辛うじて少し泳げるくらいなんだけどさ」

「うんうん、一緒にプール行けたらきっと楽しいよ!
 夢ちゃんにも櫛田さんにも泳ぎ方教えてあげるからね。
 早く夏休みにならないかなー」

 夏休みとプールの話をしている二人を聞いていた八早月は衝撃を受けていた。なんでそんなことになっているのか、いつこうなったのか全く気付かなかった。八早月は一体どうすればいいのかわからず、ただただ戸惑っていた。

「八早月ちゃんどうしたの?
 もしかしてプールの話が出たから不安になってる?
 大丈夫だってば、いきなり泳げる子なんてそうそういないんだからさ」

「そうだよ、櫛田さん運動神経バツグンだって聞いてるし、きっとすぐ泳げるよ。
 水泳選手になるわけでもないんだから、構えすぎない方がいいと思うんだ」

 まただ、なぜこうなるまでそのままにしてしまったのだろう。もっと早く気が付いていれば対処も変わっていたに違いない。しかし今からどうすればいいのか……

「え、ええ、プールはそう、楽しみよね。
 夏休みも宿題以外は待ち遠しいですし……
 でも、その、なんと言えば良いのか……」

「わかった! 水着が無いんでしょ!
 久野高のプール開放はスクール水着じゃなくてもいいんだよ?
 でも女子はワンピースっていうのが毎年の決まりなの。
 今度一緒に選びに行こうよ、瑞間みずままで行けばいっぱい売ってるんだけどなぁ」

「瑞間まではここからだと二時間はかかるもんね。
 それに百貨店だと高い割りに地味な感じのしかないのよ?
 車で行かれれば国道沿いにいくつかチェーンの衣料店があるけど遠いかなぁ」

「そうね、水着は持ってないから用意しておかないといけないわね。
 国道沿いと言うのがどの辺りかわからないけれど、板倉さんに聞いてみるわ。
 寒鳴さんはそのお店の場所わかるのかしら?」

 八早月は平常心を保つのが難しくなってきていると感じていた。この感覚、出来るだけ早く何とかしなければならない。さもないと――

「ねえ八早月ちゃん、それに綾ちゃんもさ。
 もう友達なんだからそんなよそよそしく話すのやめようよ。
 ほら、二人ともお互いを呼んでみて?」

 夢路が唐突に話題を変えた。そもそもプールや水着の話を始めたのは夢路だったにもかかわらず、だ。しかしこれは八早月にとって福音である。さっきからいつの間にか夢路と綾乃が名前で呼び合っていて取り残された気持ちだったのだから。

「でも私…… 寒鳴さんから許可を貰っていませんし……
 こちらは一向に構わないのですけれど、寒鳴さんはいかが?」

「そんなー、私は全然オッケーだよ、綾乃でも綾でも好きなように呼んでね。
 私も八早月ちゃんって呼ばせてもらうけどいいかな?」

「はい…… 綾乃さん、よろしくお願いしますね。
 なんだかホッとしました、私どうすればいいのかわからなくて……
 いつの間にか夢路さんと綾乃さんが親しくなっていたので驚いてしまって……」

「やっぱりそんな風に考えてたんだー
 なんとなくそんな雰囲気が出てたのよねぇ。
 八早月ちゃんってホントなんでも考えすぎちゃうからさ、固いっていうのかな」

「あー、それは私も感じてた、八早月ちゃんってきっとマジメなんだなって思うよ。
 やっぱり旧家っていろいろ固いの? 作法に厳しいとかありそう。
 習い事とかもやってたりする?」

「そんなことないわ、きっと普通よ、普通。
 習い事だってしてないし、やってると言えば剣術と体術の鍛錬くらいだもの。
 想像しているようなお華やお茶なんてやったことないわ」

「いやいや、剣術はやばいよー
 八早月ちゃんってもしかして強い系女子ってこと?
 私はなんかそういうの興味あるなぁ、今度遊びに行くしそのとき見せてね」

 気にしていたのは無駄な心配だったのだが、その代わりに別の問題が発生したかもしれない。八早月はそんな風に考えながらなにかをやらかした気配を感じていた。
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