限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第四章 文月(七月)

69.七月十六日 放課後 計画

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 今週末にはいよいよ夏休み、そんなことがわかっていてどうして落ち着いていられようか。それは八早月やよいだけではなく、美晴や夢路、そして寒鳴綾乃さむなき あやのも同様であった。

 夏休みには隣町にある公立高校のプールが一般開放されるからみんなで行くつもりだし、宿題をやると言う名目で八早月の家でお泊り会も予定している。ただ一つの問題はその日程をどうするかだった。

「私はお爺ちゃんちに行くから八月の十五日がある週は遊べないんだよねぇ。
 親戚が集まるんだけど、近い歳の従妹は全然いないからつまんない。
 日本海側だから魚がおいしいところだけは嬉しいけどね」

「新鮮な魚介類! 綾ちゃん羨ましいなー
 私は両親とも地元だから出かけるなんてことはまずないもの。
 お盆だって歩いてパパママの実家へ行くだけだしね」

「アタシんちはもう面倒だからってお盆に集まったりしないね。
 お正月なら頑張って親戚中回るんだけどさー」

「私は八月だと二週目は神事、三週目は同じようにお盆行事ね。
 他は大体空いているわ、七月は二十三日に神事がある以外は全部平気よ」

「そうだ! 私も七月二十三日は予定があるんだった!
 というか八畑村へ行くんだけど、八早月ちゃんちに泊まっていいんだよね?」

「ええ、私はそのつもりだったわ。もちろん美晴さんと夢路さんもね。
 土日からでもいいし、その後でも構わないわ。
 でも綾乃さんの神事が終わってからがいいと思うから二十四日からでいかが?
 あまり長くいても暇だと思うけど、うちは何日でも平気だから好きに決めてね」

 八畑村には夏祭りや縁日のようなものはない。人口が少なすぎてそんなものは成立しないのだ。辛うじて神事はあるものの、外部の人間に見せるような華やかなものではなく、どちらかと言えば古代から残る奇祭に分類されるものばかりである。

 あえて言うなら、十月には一週間ほど掛けて『たたら製鉄』が行われるため、物好きな観光客が来ることもある。しかし村ではもてなすつもりがないし宿泊施設もなく食事にも困ることから二度訪れた人は見たことが無い。

「そんなに退屈な所なの?
 山奥だとは聞いてるけど川もあって山菜取りもできるいいところだって。
 きっと星もきれいなんでしょうね」

「それはもう凄かったわよ?
 ご飯はおいしいし、珍しい物もあるしね。
 星空の下でおしゃべりしたのもすごく楽しかったもん」

「そうだよ、夢の言う通りで退屈なんてこと全然なかったよ。
 確かにずっと住むのは大変そうだとは思ったけどさ。
 また川へ行きたいね、今度は季節的にも水着的にも水遊びできるじゃない?」

「なんだかそう言ってもらえると救われるわね。
 私はきっと退屈だっただろうなって思っていたし、それくらい何もないでしょ?
 でも最近はイノシシが良く獲れているみたいで頂き物が多いから、食には期待できるかもしれないわね」


 農家にとっては害獣で迷惑極まりないイノシシも、捕らえてしまえばご馳走に早変わりである。八早月はいつもおすそ分けとか頂き物と表現しているが、実際には八畑村の一般村民から供物として献上されているものだ。彼らからすると八家の人間は神に近い畏怖なる存在であり、八岐やまた神社や八岐大蛇ヤマタノオロチを真剣に崇めているものばかりである。

 それもそのはず、八畑村の中では八家の人間の警戒心が薄く、平気で空を歩いたり神事で超常現象を起こしたりしている。いくら村民と言えど一般常識が備わった現代人なわけで、神の御業と言える出来事を知っていれば信心深くもなる。

「七月中にドリルと自由研究までやってしまいたいなぁ。
 そうしたら後は美術の提出物だけなんだもん」

「自由研究はどうしよう。
 山菜の研究でもしようかな、主に料理方法とかね」

「夢らしくていいじゃない。
 じゃあアタシは昆虫採集でもしようかなぁ」

「昆虫って、もしかして小学生!? せめて野草とかさぁ。
 ジュエルオーキッドっていう宝石みたいな名前の野生種の蘭があるんだけどね?
 日本の山にも自生してるんだって。
 もし見つけられたらステキだなぁ」

「綾ちゃんって乙女チックなんだね。
 それとも花とか植物が好きなの?」

「えー、キレイなものはみんな好きでしょ?
 キレイな花壇とか見たら心安らぐじゃないのー」

「詳しくないからあまりもっともらしいことは言えないけど、私は鈴蘭が好きよ?
 なんだか小さいのに頑張ってる感じが好きなの」

「あー、八早月ちゃんっぽいもんね。
 小さくても美しく咲いてて凛とした感じとかすごくそれっぽい!」

 思っていない方面から褒められて照れてうつむいた八早月は、自分もこうやってうまく他人へ気遣いできるようになりたい、なんてことをひそやかに感じていた。
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