限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
73 / 376
第四章 文月(七月)

70.七月十九日 夕方 マトリョーシカ

しおりを挟む
 ここ最近はずっと放課後にお茶会をしてから帰ってくるので、今までよりも帰りが一時間ほど遅くなっている。手繰たぐりは娘に寛容だし事前に伝えていることもあって特に何も言わないが、帰りが遅くなって板倉には迷惑をかけている。

 そうは言っても、八早月やよいを乗せて帰って来てからは、夕飯の弁当が出来るまで適当に時間を潰して待っているだけなので、今までとそれほど生活が変わったわけでもない。

「八早月ちゃんおかえりなさい。
 板倉さんもお疲れさまでした。
 今玉枝さんが夕飯詰めてるはずなので土間へ行ってみてね」

「はい、いつもありがとうございます。
 もう三日くらいイノシシ食ってますから体力が余って仕方ねえですね」

「あら、それなら朝の鍛錬に参加すると言うのはいかがでしょう。
 きっといい運動になりますよ?」

「いやいや、うん、大丈夫、運動不足ではないのでご遠慮させていただきます。
 慣れないことをして送迎に影響が出てしまっては大変ですからね」

「それは残念ですね、ご興味あればいつでもどうぞ。
 板倉さんはとても運動神経が良さそうですから上達も早いと思いますよ。
 そうそう、私のお友達は板倉さんのことをボディーガードだと思っているようですから、もしもの時にはその期待にお応えいただきましょう」

「アンちゃん、弁当出来ましたよ。
 毎日焼肉じゃ飽いてしまうと思ったんで今日は煮てみたんさ?
 芋とよく合うけん食っちゃみろて」

「こりゃどうも、ありがとうございます。
 ふう、ではまた明日の朝参りますね、おやすみなさいませ!」

「はーい、おつかれさまー
 あらあら八早月ちゃん、逃げられてしまったわね、うふふ。
 そう言えばなにか大きな封書が届いていましたよ?」

 母にからかわれながら下駄箱の上を見ると、そこにはたしかに自分宛ての大きな封筒の郵便物が置いてあった。随分とずっしりしているが何が入っているのだろうか。振ってみるとガサガサとなにか小さなものが入っているような音が聞こえるが心当たりがない。

 一体これは何なんだろうと裏返して差出人を確認した八早月は、そこに書いてある差出人名を見て驚きのあまり封筒で口を押えてしまった。まさか高岳零愛こうだけ れあからの手紙だったなんて!

『〒XXX-XXXX 浪内西郡白波町XXX-X
 高岳零愛』

 あれからもう二カ月近く経っている。それだけに八早月と真宵まよいは、彼女たちとはえにしが無かったのだろうと半ば諦めていた。それだけに嬉しさはひとしおで感激のあまり踊りだしそうな気分である。

 だがなんですぐに連絡をくれなかったのだろうか。それにこんなに大きな封筒でいったい何を送ってきたと言うのか。八早月は自分の部屋へ入り制服を脱ぎ捨ててからいつもの半着はんぎを羽織った。とりあえず袴は後回しでいい。

 とにかくまずは封筒の中に入っている物を確認したい。八早月は文机ふみづくえの袖から鋏を取出すと急いで封を切る。すると中からはまた封筒が出てきたではないか。最初の封筒はノートが入るくらいだが、今度は一回り小さい。

 一体どういうことかと思いながらもまた封を切ると、更に小さい封筒が出てきた。たしか海外にこんな民芸品があったような気がする、などと余計なことを考えながら更に封を切ってみる。

 すると予想はしていたものの、中からはまた小さな封筒が出てきて八早月はため息をついた。だが今度はごく普通の便箋であり、これでようやく深層にたどり着く。はずだったのだが、中には便箋が四通入っていたため、八早月は思わず謎はさらに深まったと呟いてしまった。しかし――

「待って…… これっておかしいわ。
 この便箋に書いてある宛名は全部私宛ではないじゃないの……」

 だがよくよく見てみると、これは全て八早月宛てのように見えてくる。

<国木田葵様>
<木田弥生様>
<年田葵様>
<吉田真宵様>

 一体誰だと言いたくなるくらいめちゃくちゃだったが、一つだけ真宵の名が入っていたため、これがおそらくは八早月宛てに出してみたものの、戻って行った手紙だろうと閃いたのだった。

 全ての便箋には宛先不明のスタンプが押してあるが、そもそも名前どころか住所もでたらめだ。確かに高岳零愛の住む県から見て隣なのかもしれないが、こちらとは反対側の県に出しているものも含まれている。きっと何となく覚えていたのが『○○郡』だけだったため、手近なところの記憶している限り近い名称の住所へ送ったのだろう。

 だが八早月も番地まできちんと教えていなかったし、会話もとぎれとぎれだったのだから責めるつもりはない。逆に最後まであきらめず送りつづけ、七度目にして櫛田家まで到達したのだから褒めてあげてもいいだろう。

 それにしても郵便局の配達員も良く届けてくれたものだ。最新の投函である一番外側の封筒にももちろん八早月の名は無く、住所も辛うじて八畑村が記載されたところまでで番地は書かれていなかった。

 きっと戻ってこなくなるまで適当に書いて送り続けるつもりだったのだろう。しかし八畑村までたどり着ければ、郵便局員が最終的に全村民を把握している八岐神社までは配達してくれる。そのことが功を奏したと言えよう。

 それにしても…… 『鉾田十六夜』宛で良く届いたものだ。八早月は宮司に感謝をしつつ一つ一つ中身を読み始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

訳あって学年の三大美少女達とメイドカフェで働くことになったら懐かれたようです。クラスメイトに言えない「秘密」も知ってしまいました。

亜瑠真白
青春
「このことは2人だけの秘密だよ?」彼女達は俺にそう言った――― 高校2年の鳥屋野亮太は従姉に「とあるバイト」を持ちかけられた。 従姉はメイドカフェを開店することになったらしい。 彼女は言った。 「亮太には美少女をスカウトしてきてほしいんだ。一人につき一万でどうだ?」 亮太は学年の三大美少女の一人である「一ノ瀬深恋」に思い切って声をかけた。2人で話している最中、明るくて社交的でクラスの人気者の彼女は、あることをきっかけに様子を変える。 赤くなった顔。ハの字になった眉。そして上目遣いで見上げる潤んだ瞳。 「ほ、本当の私を、か、かかか、可愛いって……!?」 彼女をスカウトしたことをきっかけに、なぜか「あざと系美少女」や「正体不明のクール系美少女」もメイドカフェで働くことに。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...