限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第四章 文月(七月)

71.七月十九日 就寝前 手紙

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 夜遅くまで起きていることは珍しい八早月やよいだったが、この日はなかなか寝付けないでいた。もちろん届いた手紙を読んでいたからでもあるが、その余韻に浸りつつ返事を書こうとしていたと言うのが一番の要因である。

『どもー、葵ちゃん? だったっけ?
 ウチは高岳零愛こうだけ れあだけど覚えてるかな?』

 こんな書き出しで始まった彼女からのふみは、きっとわざわざ手紙にしたためることなど考えてもいなかったのだろうと思わせる内容だった。なぜなら一通目にはあいさつと自分の連絡先、最後に今度はゆっくり会えるといいね、と言うような定型文的な文言が入っていただけだったからである。

 それでもこうやって手紙を送って来てくれたことは嬉しく、何よりめげずに何度も繰り返してくれたことには感謝と賞賛を表したい。なんて偉そうなことを言うのはなんだが、こちらも誠意を持ってお返しをすべきなのは間違いない。

 こうしてお返しの贈答品や手紙の文面を考えているうちにどんどん時間が過ぎて行った。さらに二通目、三通目の手紙を読み進めると郵便が戻ってきたことへの苛立ちがありありと伝わってくる。

 特に四通目など酷いものだった。

『吉田真宵まよい

 ウチは山間のドライブインで会った高岳零愛だけどもう忘れちゃったかな?
 何度も手紙出してるんだけど届かなくて困ってんだよね。
 ウチらのほかにもあやかし退治なんて前時代的でバカなことやってる人たちがいるなんて驚いたけど、なんだか嬉しかったからまた会いたくてさ。
 でも連絡着かないからどうしたらいいかもうワカンナイ。
 だからメッセかなんかで教えてよ。
 ドライブインでは個人情報の守秘がなんとかって言って教えてくれないしさ。
 マジで会いたいんよ、詐欺とかそんなんじゃないから連絡ちょーだいね

 高岳零愛』

 手紙の文面で会いたいと思っていることと、連絡がつかず困っていることは理解できた。しかし、自分からは連絡着かないからこちらから連絡くれと言われても無理に決まっている。いったいどういうつもりで書いた文面なのかわからないが、高校生が本気で書いたのなら心配してしまう内容だった。

 そしてこの四通の手紙が入っていた封筒には、やはり零愛の連絡先とともに、連絡がつかなくて困っている旨が書かれている手紙が入っていた。その次の文面も似たようなものだったが大分投げやりになっており、最後の大きな封筒には、零愛と弟の飛雄が映っている写真だけが同封されていた。

「もしかしたらこの写真が執念の奇跡を起こしたのかもしれないわね。
 ふふ、面白い子だわ、急いで返事を出さなきゃ」

 そんなことを考えながらペンを取って書き始めたのだが、八家の会合で相談していなかったことを思い出した。あの後帰って来てすぐに初崎宿はつさき やどりへは報告したが、接触があったくらいでピリピリしないでいいと言うことになっていた。

 しかし、今後連絡を取り合ったり連携を取るような仲になりそうなら八家会合で考えると言うことになっていたのだった。そのことを思い出した八早月はいったん書く手を止めた。

「八早月様、いかがいたしましたか?
 あれほど嬉しそうであったのに手を止めてしまうとは。
 なにか心配事でもございましょうか?」

「そうなのよ、ちょっと思い出したことがあって。
 真宵さん? こんな時間に申し訳ないけど須佐乃に連絡取れるかしら?
 宿おじさまに相談があるの」

「かしこまりました、試してみます。
 ―― 須佐乃は今戦っておりますね。
 どうやらごく弱い妖が出ているようです」

「あら? ここまで気配が届いていないからずっと北のほうでしょうね。
 では終わったらお話したいと伝えておいてください。
 それとも手伝いに行った方がいいかしらね」

「すぐ終わると言っているのでお待ちになった方がよろしいかと。
 あのかんなぎ姉弟の件でしょうか?」

「そうそう、確か向こうでは御神子みかんこと呼ぶのでしたね。
 八家に黙って連絡を取り合ったらいけないと思ったのですよ。
 まあどちらにせよ、お返しくらいはしないと礼儀知らずになってしまうけれど」

 それから十分ほど経ってから八早月のスマホに宿から連絡が有り、別に諍いを起こそうと言うのでも無ければ問題はないと言うことだった。そもそも他家との交流は禁止されているわけでもなく、大昔には近隣との交流があったらしい。

 しかし時代が進むにつれて、巫家系が断絶したり神社が廃社になり伝承が途切れたりと言うのは当然あったようだ。そんな中、現代まで生き残っている対妖の神職は貴重に違いない。

 それを聞いて俄然やる気の出た八早月は、日付が変わるくらいの時間まで手紙を書き連ね、すっきりした気持ちで床に就いたのだった。
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