限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第四章 文月(七月)

76.七月二十四日 夕食後 パジャマパーティー

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 いつもならこんなことにはならないのだが、やはり友人が一緒と言うこともあって食べ過ぎてしまったようだ。八早月やよいにしてみれば牡丹猪肉はそれほど珍しくはないが、町から来た三人にとっては珍しいことこの上ないと言うところか。

「凄く癖があっていかにも野生って感じの味だった!
 初めて食べたから大満足だったよー」

「私も初めて食べたと思う、こんな高級品ごちそうになって良かったのかなぁ。
 ウチに来てもらったとしてもお返しなんてとてもできそうにないよ」

「イノシシの肉なんて売ってるの見たことないしね。
 本当に出てくると思ってなかったから驚いちゃったよ。
 でも昨日の岩魚もおいしかったなぁ。
 八早月ちゃんちにいる間に太っちゃいそう……」

「みんなホント大げさね。
 最近は畑が随分荒らされているみたいでイノシシをよく頂くのよ。
 農家の方たちにとってはいい傾向じゃないでしょうね。
 少しでも損害を補填できるように食べて応援ってことだから気にしないでいいわ」

「頂き物なのに応援になるの?
 本当は買い取ってるって意味?」

「いいえ、駆除したイノシシは数も把握する必要があるから村役場で買い取るのよ。
 でも全数をその後どこかに売ったり卸したりできるわけでもないわけ。
 だから始末しきれない分は最終的に神社へ奉納されて、その後は神職である私たちのところまで回ってくるの」

「そう言えばお爺ちゃんちの近所では猿が出て困ってるらしいって聞いたなぁ。
 駆除すると役場から補助金が出るんだけど、元は国から出てるんだって。
 自然の中で生きていくのはどこでも大変ってことだろうね」

 一つ上なだけで随分と大人に感じる寒鳴綾乃さむなき あやのの発言に、一年生の三人はおおーと声を上げて褒め称える。まるで社会の授業を受けているような気分だ。特に社会性に乏しい八早月にとっては、他の集落の話はいちいちためになるものだと感じた。

「それにしてもバス停がさ、山を登って最初にある集落までとはねぇ。
 あそこってほぼ麓じゃない? そう言えば山の入り口がもう八畑村だったよ?
 思ってたよりも広い村なんだなって思った!」

「麓は七軒、終点の集落が四軒だったはずで、山頂の八家と八畑家を足して九軒。
 全部で二十世帯、百人弱の小さな村だからバスが通ってるだけマシかもね。
 でもバス停から一時間以上歩いたでしょ? だから迎えに行くって言ったのよ。
 もう少し暗くなったら迎えに行こうと思ったもの」

「そうだよ…… ハルのせいで足がパンパンになっちゃった。
 でもあの薪のお風呂って良く温まる気がするね。
 なんとなく疲れが取れやすいと言うかさ、気のせい?」

「いやいや夢ちゃん、それは間違いなく気のせいだよ。
 お湯は普通のお湯で温泉とかじゃないでしょ?」

「ええ、この辺りに温泉は出てないと思う、聞いたこと無いもの。
 でも川の水を汲んで来て沸かすといいらしいわ。
 鉱泉だったかしら? ミネラルを含んでるから使ってる家があるらしいわね」

「じゃあアタシたちで汲みに行こう!
 沸かせば温泉になるんでしょ!?」

「川までは山道を三十分以上歩くわよ?」
 しかもお風呂を貯めるほどの水なんて相当重いんじゃなくて?

「じゃあ諦める…… 仕方ないからお菓子でも食べようか!
 昨日マーケット行ったら新作ポテチあったからいっぱい買ってきちゃった」

 美晴はそう言って大きなスポーツバッグからポテトチップスを取り出す。その際、バッグの中がチラリと見えたが、ほとんどがお菓子じゃないかと言うくらいに詰まっていた。その量は、ちゃんと着替えを持ってきているのかが心配になるほどである。

 美晴がポテチの袋を勢いよく開けると、全員が一斉に手を伸ばし次々と口へ運んでいく。ついさっき夕飯をたらふく食べて苦しいと言っていたばかりだというのに、だ。

 普段、家の中では半着はんぎで過ごしている八早月も、今日はこの日のために新調した初めてのパジャマを着ていた。家の中でのんびりしているのに洋服を着ているのはやや落ち着かないが、みんなと似たような格好だと少し落ち着けて嬉しい気分になる。

「それじゃ飲み物用意するわね。
 ふふふ、今日はちょっと大人っぽく一杯やりましょうか」

「ええ!? まさかお酒!? それはまずいよ……
 八早月ちゃん本気なの?」

 まさかと言いながらまっさきに反応した夢路は興味津々といった様子だ。逆にいつも積極的な美晴は焦りが顔に出ている。綾乃はどちらかと言えば夢路寄りで、早く早くと言いたそうにしていた。
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