限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
88 / 376
第五章 葉月(八月)

85.八月四日 午後 解読

しおりを挟む
 先日、初崎宿はつさき やどりが京都の旧家から持ちかえってきた古文書の写真には参考になりそうなことがいくつか書かれていた。これは八家当主たちが手分けして解読したことで判明したものである。

「それにしても写真に撮ってくるとは考えましたなぁ。
 ワシはいまだにこのすまほというものがうまく扱えんわい」

「どちらかと言うと私も耕太郎さん寄りですね。
 この間もなんで手紙を送ってくるのかと叱られてしまいましたから。
 一瞬で連絡がつく手段があることに未だ慣れることができません」

「筆頭は相変わらず機械に弱いですなぁ。
 まあこうして印刷してしまうのが一番と言うわけです」

 宿の言う通り、結局は写真に撮った古文書を人数分印刷し、全員が顔を突き合わせて広げているのだ。それでも印刷物へ直接書き込みもできて効率は悪くないのかもしれない。

「この幼子へ施すと言う狐参りの儀というものが良さそうですね。
 問題は稲荷のかんなぎでなくとも効果が得られるかどうかでしょう。
 ですが、常世とこよへと繋げることができれば良いのなら再び扉を開くだけ。
 最初からこれがわかっていれば、綾乃さんに痛い思いをさせずに済んだかもと思うと申し訳ない気持ちでいっぱいです」

「いやいや、これだけでは妖憑きを祓うことが出来なかったでしょう?
 それでは意味がありませんから気にしないようにしてくださいませ」

「そう、そうでしたね、まず憑き物を落とすことが前提にあったのでした。
 もし今回追加で行う着で、さらなる覚醒となれば一安心ですね。
 ―― ふと思ったのですが、この儀を室伏家の方に行えば復刻できるのでは?」

「それは僕もご当主へ進言してみたのですがねぇ。
 すでにお役目から退いて久しいこともあり、今は静かに暮らしたいとのこと。
 家族も詳しくは知らないようですから、今後の為にもそっとしておきたいと考えるのも無理は有りません」

「もっともな考えでしょうね。
 今はすでに一般人として幸せであるならそれでいいのです。
 もしお役目を放棄した家系だと負い目を感じていたらとの考えは浅はかでした。
 綾乃さんは普通のご家庭ですから、お役目が与えられることは無く安心ですね」

「それで儀式の日程はどうされますか?
 今年は櫻殿のところのもとむだけで村にも八歳の子はいないそうです。
 形式は異なりますが、綾乃殿も八日に行うと都合はよろしいかと」

「そうですね、ご両親へはそのようにお伝えしていますし予定通り行いましょう。
 問題はこの面描きですね、文献通りなら師が施すのでしょうが……
 私がやってもきちんと効果があるのか不安がありますね」

「そうですなぁ、こればかりはやってみないとわかりませんでしょう。
 筆頭には八岐大蛇様が宿っておりますゆえ、純粋な巫の力と言えぬかも。
 ですが常世へ働きかける役目が果たせればよいのなら問題ないのでは?」

「では今この場で試してみますか?
 朱書きで狐面を描き扉を開けてお狐様を呼んでみるのはどうでしょうか。
 上手くいけば綾乃さんの助けをお願いできるかもしれません」

「ちょっ、ちょっと筆頭!? 本気ですか?
 もしやるなら表で結界を張ってからにしましょう。
 先日のぬえのような大妖たいようが出て来ては困りますゆえ」

「ふふふ、私にそんな大層な力はありませんよ?
 せいぜい大人のお狐様でしょう。
 しかし誤って逃げ出してしまうと困りますから結界は張ることにしましょう。
 耕太郎さん、櫻さん、結界をお願いできますか?
 宿おじさまは私が倒れた時の始末をお願いします。
 臣人さん、中さん、ドリーは、その…… 暴走したらお願いしますね」

 呼び出した霊獣が暴走するなど考えたくもなかったが、もしもがあり得ると八早月が考えているなら警戒せざるを得ない。中と臣人、それにドロシーはそれぞれの呼士を顕現させその時に備えた。

 八早月が和紙へ狐面の朱書きを行い準備を済ますと、いつものように常世への扉を開くために祈りを捧げはじめた。しばらくすると両腕が輝きをまとった蛇の姿に変わり、その腕を地面へ置いた朱書きの狐面へと掲げる。

 そのまま両のたなごころを狐面へ押し付けてからゆっくりと開いていくと、朱で描かれた狐の顔が光りゆるやかに点滅を始めた。その点滅が段々早くなり完全に点灯した状態になると、光の帯が立ち上り高さ数メーターの狐面を形作っていた。

「気配は隠せませんよ? 出ていらっしゃい。
 こちらには危害を加える意図はありませんから安心なさい」

 周囲を囲む呼士たちが万一の事態に備え体を強張らせると、八早月はそれを制止するように右手のひらを地面へと向けた。警戒を解いた戦士たちに安心したのか、光の帯が何か別の形へと変化していく。

 光が収まり最終的に現れたのは、着物姿の美しい女性だったのだが、その尻には狐の尾が二本生えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

訳あって学年の三大美少女達とメイドカフェで働くことになったら懐かれたようです。クラスメイトに言えない「秘密」も知ってしまいました。

亜瑠真白
青春
「このことは2人だけの秘密だよ?」彼女達は俺にそう言った――― 高校2年の鳥屋野亮太は従姉に「とあるバイト」を持ちかけられた。 従姉はメイドカフェを開店することになったらしい。 彼女は言った。 「亮太には美少女をスカウトしてきてほしいんだ。一人につき一万でどうだ?」 亮太は学年の三大美少女の一人である「一ノ瀬深恋」に思い切って声をかけた。2人で話している最中、明るくて社交的でクラスの人気者の彼女は、あることをきっかけに様子を変える。 赤くなった顔。ハの字になった眉。そして上目遣いで見上げる潤んだ瞳。 「ほ、本当の私を、か、かかか、可愛いって……!?」 彼女をスカウトしたことをきっかけに、なぜか「あざと系美少女」や「正体不明のクール系美少女」もメイドカフェで働くことに。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

負けヒロインに花束を!

遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。 葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。 その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

処理中です...