限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
106 / 376
第五章 葉月(八月)

102.八月二十三日 午前 往路

しおりを挟む
 今週は朝の鍛錬は休みと言っておきながら、当然のように自分だけでいつもと同じ分量をこなした八早月は、井戸で汗を流してからよそ行きへと着替えた。その後迎えに来た板倉に乗せられて美晴の家についたのが八時頃である。

 いくらなんでも早すぎると文句を言いながらも、すでに準備万全で待っていた美晴と一緒に夢路の家まで歩いて向かう。すぐ近所にある二階建ての住宅まで来て三人が合流すると夢路の父は車を出発させた。

「早すぎると思ったけどこれでもきっとつくのは昼過ぎなんだね。
 夢のお父さん、今日はよろしくです!」

「遠くまで乗せて行って下さりありがとうございます。
 先日は村まで来ていただいて、何から何までお世話になり感謝しております」

「いやいや、あんな高級品を購入してもらえて大歓迎ですよ。
 やはり神社というのは儲かるんですかねぇ」

「ちょっとパパ、そういう下品な勘ぐりしないでよ、恥ずかしい……
 配達料サービスとか言いながらお昼ご馳走になってさ。
 どっちがサービスしたんだかって感じだよ、まったくもう」

 やり取りを見ている限り、夢路と父親の関係は良好な様子だ。美晴も家族の悪口を言ったことが無いし、綾乃だってそうだ。八早月だけが父を邪険にしているのがなんだか恥ずかしかったが、やらかしたことを思い出すと血がたぎる思いである。

「そう言えば八早月ちゃんって誕生日いつなの?
 名前からは三月か八月のどちらかっぽいけどさ」

「それが産まれたのは一月なのよ
 陣痛が始まったのが午後間もなくで月の入り時間だったらしいの。
 産まれたのは夕方から夜にかけてだったと聞いているわ」

「へえ、それで月にちなんだ名前になったのね。
 でも数字の八と早はどこから出てきたの?」

「うちは代々子供の名に八を含める習わしがあるのよ。
 父は道八、お爺さまは八雲でその前はひいお婆さまで八重だったかな。
 産まれた時間が宵の口だから父はその字を使いたかったらしいわ。
 でも母が月を使いたいと引かなくて、宵なら月が早く出てるって言ってね。
 それなら当て字で八早月にしようって決めたんだって」

「なんだか名前までカワイイなんてズルいよ!
 夢だって夢の路なんてステキじゃない?
 アタシだって美晴なんて平凡なのじゃない方が良かったな」

「美しく晴れやかだなんて素晴らしいお名前だと思うわよ?
 名前負けしないよう産んでくれたご両親に感謝ね」

「そうそう、ハルはいつも贅沢言いすぎなんだってば。
 私なんて両親の新婚旅行先で通った道がドリームロードだったからだよ?
 ちょっとあり得ないでしょ」

「あー、それはちょっと知らなかった方が良かったやつだ。
 アタシは美晴で満足、うんうん」

「こら夢路、そんなことばらすんじゃない。
 パパが恥ずかしいじゃないか」

「だったら恥ずかしくなるようなことしなければ良かったでしょ!
 まったくもう、響きがいいからまだ救われてるけどさ……」

 そんな話をしているうちに綾乃の家につき合流すると車の中はそれはもう大騒ぎとなり、夢路の父はさぞかし運転し辛かったことだろう。学校行事ではバスで四時間かかった道のりだったが、自家用車だとあっという間の道のりだった。

 なんと言っても四人が揃って間もなく、車内で大騒ぎしながら話し疲れたのか全員寝てしまい、目を覚ましたのは白波町へ入って夢路が父親に起こされてからである。夢路の父は長旅を堪能させられ疲れている様子だったが、眠れる少女たちにとってはあっという間の到着と言うわけだ。

「あ、もしもし、零愛さん? 夢路でっす。
 ついさっき白波町へ入りました、お昼過ぎくらいにはつくと思います。
 あ、はい、はい、ナビではえっと、あと二十分って出てますね」

『お昼ご飯は外食でもいい? 良ければいいとこ連れてくからさ。
 まずはうち来て荷物降ろしてから歩いていこうか』

「了解です、それじゃ後でー、ってゴメン、勝手に外食OKって言っちゃった。
 でも全部零愛さんちで食べるわけにもいかないからいいよね? パパ?」

「あ、ああ、構わないよ、地元のおいしいところを教えてもらえるなんていいなあ。やっぱり旅はいいもんだよ、ちなみに――」

 もったい付けた夢路の父親の発した次の言葉に全員あっけにとられ、夢路は一人憤慨したのだった。

「白波駅前から海岸まで伸びてる道が『ドリームロード』なんだぞ?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

処理中です...