限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第五章 葉月(八月)

103.八月二十三日 昼過ぎ 百貨店

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 やっぱり旅はいいと言いながら夢路に小遣いをせしめられた夢路パパは、長旅を報われることなくすぐに帰って行った。がだ夢路曰く、どうせ帰りに寄り道して母親への土産を買い、海鮮を食べていくはずだからと気にも留めていない様子だった。

「やった! パパがお昼代置いていってくれたから豪遊できるね!
 それにしても零愛さんちの家は随分と大きいんだねぇ。
 八早月ちゃんちとはまた違う方向ですごいよ」

「いやいや、爺ちゃんが漁協の世話役やってて会合とかあるからね。
 古くて魚臭い寄合所兼倉庫兼住宅ってとこさ」

「それでもこんな豪邸に住んでる人見たことないよ。
 百貨店みたいですごいね。
 なんか大都会に来たみたいな気分だなぁ」

「私は学校みたいだと思って宿題に追われていたのを思い出してしまったわ。
 ようやく昨日終わらせたから気兼ねなく遊べるけれどね」

「えっ? 宿題? 八早月ちゃんもう課題終わらせたの?
 帰ったら夢のやつ写させてもらわないとな!」

「ダメに決まってるでしょー
 毎年のように同じこと言ってさ、中学からはちゃんとやるって言ったよね?」

 どうやら気楽に笑っている綾乃も目途はついていそうだ。やはり無理にでも終わらせて来て良かった。奇跡的に今週はお役目に時間を取られなかったのが幸いしたと言えよう。

 それはともかく、高岳零愛の実家は旧家だと聞いていたので、八早月はてっきり櫛田家と似たような造りだと思い込んでいた。しかし想定外である集合住宅然とした建物に全員が驚いていた。零愛の説明によるとどうやらマンションではなく、倉庫が縦に積み重なったような造りらしい。

「今週は漁協の寄合とか何もないから三階を全部使っていいってさ。
 風呂は四階の母屋で入って、ご飯は運んでウチらだけで気楽にって感じ。
 冬はめっちゃ寒いんだけど夏はまあまあ暑いってくらいかな」

 海岸の通り沿いに立って海を臨む五階建ての建物は、八早月たち山側の田舎民にとって物珍しかった。こんな建物は学校や役場くらいしか立ち入る機会が無い。それでも金井町や久野町にはコンクリート構造の建物はちらほらあるが、八畑村には一軒も存在しない。八早月は一番近いのは土蔵かもしれないと感じていた。

 一階には小さな船が何艘か置いてあり車も停められるようになっている。二、三階はがらんどうで、会合の時には長机とパイプイスを並べるらしい。三階にあがると部屋の隅に畳が積み上げてあり、祭りの前などには踊りの練習をするのだと聞かされた。

「そんじゃまずはお昼食べに行こうよ。
 それから畳を敷いて四階から布団運んでさ、んで汗を流しに海へ行こう!」

「うみいー! すっごく楽しみだったんだよね。
 私まだ一回も入ったこと無くてさ」

「未体験なのが私だけじゃなくてホッとしたけど、綾乃さんもなのね。
 先日行っていたご実家は海側ではなかったの?」

「うん、結構山のほうの盆地ですっごい暑かったぁ。
 果物は豊富だけど観光客が多くて、この季節は渋滞ばかりで大変なの」

「それでもアタシたちよりは外のこと知ってるって感じだね。
 アタシんちも夢んちも地元だし、八早月ちゃんも当然そうだもんね」

「そうね、中学へ上がる前は村から出たこともなかったんだもの。
 入学式では町中がお祭りしているのかと思ったくらいよ」

「でもいきなりよその学校の上級生とケンカしちゃったと。
 いややっぱすごすぎだよー、そんな女子日本中探してもそうはいないでしょ」

「なにそれ、すごい話だな、八早月ってケンカっぱやいのか?
 ちっさくておとなしそうなのに、さすが―― あ、えっと。
 そうだ、もう秘密でもなんでもなかったっけな」

「まあそうね、私としては二人に害が及ばなければいいと思ってるだけ。
 秘密にしてたと言うと聞こえが悪いわ、心配をかけたくなくて明かさなかったのよ?」

「まあそりゃそうだよね、プールの時もすっごくびっくりしたもん。
 それより綾ちゃんもそっち系だってことに一番驚いたけどさ」

「そっち系って…… もうちょっと言い方があるでしょー」

 綾乃が頬を膨らませながら美晴と肩を押し合っていると、どうやら目的の場所へついたようだ。しかしそこはどう見ても普通の民家にしか見えない。零愛はためらいなく引き戸を勝手に開け、一行はぞろぞろと入って行った。
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