123 / 376
第六章 長月(九月)
119.九月六日 午後 特別扱いと本音
しおりを挟む
二限目に決めた出場種目では最低一人一つと言うことだったのだが、八早月は何となく興味を持ったこともあって二種目へ立候補し、そのまま出場が決まった。
「八早月ちゃんやる気無さそうだったのに二つも手を挙げてびっくりだよ。
もしかして野球の種目だからやってみようって思ったの?」
「そうね、障害物競走だけにしようと思ってたのだけれど、なんとなく、ね。
実は、朝の鍛練で野球のバットを振る練習をしているのよ。
これがなかなか負荷が高くていい鍛錬になっていてね。
どうせならその成果を発揮してみたいと思ってしまったわ」
「あーあぁ、あからさまにガッカリしてるよ?
今の今まで瞳がハートマークだったのにね、夢ってば残念」
「せっかくいい雰囲気なのかと思って期待したのに全然そんなこと無かったね。
あれから零愛さんの弟さんに連絡取ったりしていないの?」
「なぜ? そもそも連絡先を知らないもの。
とろうと思えば零愛さん経由でいつでも連絡はできるから困りはしないけどね」
「こりゃ諦めた方がいいよ、夢は自分の恋バナを聞かせられるよう頑張って。
まずは部活対抗リレーにでるところから始めたらいいんだってば」
「だからそれは人数が足りないって言ってるじゃないの。
大体部活が四つしかないのにリレーやろうと言うのが間違ってるわよ。
しかも運動部は二つでしょ? あとは理科部と書道部だもん」
「でも委員会と教職員に父兄も一緒でしょ?
意外にいい勝負するかもしれないね、書道部はともかくさ」
最終的な出場種目は八早月が障害物競走とティーバッティング、美晴は大玉転がしと大縄跳びに応援団、それに部活対抗リレーに出場することに決めたようだ。どれにも立候補しなかった夢路は、希望者の足りなかったバドミントンと玉入れをやるようにと決められてしまった。
「今月は毎日体育祭の練習があるから授業が少なくて嬉しいよ。
夢は嫌かもしれないけどバドと玉入れならまあ楽そうでいいんじゃない?」
「そうだね、バドミントンは小学生の時よくやってたもんね。
玉入れも人数多いから下手でも目立たなくて良かったかも……」
「あまり気にし過ぎない方がいいんじゃないかしら。
こういうのは一生懸命やるのが美徳とされるものでしょう?
手を抜かないで取り組めばそれで充分よ」
八早月たちがそう話し合って気持ちを高めていると、班の男子が他の子と一緒に茶化してきた。
「やだやだ、真面目ちゃんはこれだからな。
体育祭なんて適当にやればいいんだよ、真剣勝負で上級生に敵うわけないし。
それを一生懸命にやるとかばからしい」
「まあ点数稼ぎにはいいんじゃねえの?
学年一位の優等生だからな、先生にも気に入られてるんだろ。
お嬢様は特別だからってな」
八早月はあからさまに悪口を言われたのが初めてだったので、なぜかとても嬉しくなった。陰では理事長の身内だから特別扱いされているとか、教師に気に入られるために優等生ぶってるとか言われているのは(夢路を通じて)知ってはいたのだ。
どちらかと言えば周囲が八早月を特別扱いし、特異な目で見ているため距離を感じていた。しかし今初めて正面からぶつかってくる者が現れた。これはまさに素の八早月に向かって発せられた言葉なのだ。
「いい傾向ね、私に向かってそう言ってくれる人がいるのは幸せだわ。
皆さん変に気を使って距離を取っているものね」
「なに言ってんだコイツ、バッカじゃねーの。
相手にしてもつまんねえし行こうぜ」
相変わらず班唯一の男子である斉藤は八早月たちとウマが合わない。気まずいのか単に嫌っているのかはわからないが、班行動でもすぐに反対意見を言うのだ。それでも今回のように他の男子と一緒にやって来て悪態を付くのは初めてのことだった。
「八早月ちゃん大丈夫だった? なにあれ、斉藤のくせに生意気!
どうせ一人じゃなにも言えないくせにさ」
「夢路さんが怒らなくてもいいわよ、私は気にしていないのだし。
それどころか嬉しいくらいなの、こんな風に本音でぶつかってくれるなんてね。
今まで周囲に大人ばかりだったから甘やかされて来たと思うから新鮮よ?」
「まあ八早月ちゃんがいいなら私がしゃしゃり出ることでもないけどさ……
でもあんな言い方は無いと思うよ? 男子としてサイテーだよ」
「でもこういうのがアツい展開ってやつじゃないの?
少年マンガにはよくあるじゃない? 敵が味方になるみたいなやつ」
「そんないいもんじゃ無さそうだけどねー」
とまあ、少しだけトラブルらしきものもあったが、それ以上は特に何もなく、この日は初めて南中ソーランの練習が行われ一日が終わった。
「八早月ちゃんやる気無さそうだったのに二つも手を挙げてびっくりだよ。
もしかして野球の種目だからやってみようって思ったの?」
「そうね、障害物競走だけにしようと思ってたのだけれど、なんとなく、ね。
実は、朝の鍛練で野球のバットを振る練習をしているのよ。
これがなかなか負荷が高くていい鍛錬になっていてね。
どうせならその成果を発揮してみたいと思ってしまったわ」
「あーあぁ、あからさまにガッカリしてるよ?
今の今まで瞳がハートマークだったのにね、夢ってば残念」
「せっかくいい雰囲気なのかと思って期待したのに全然そんなこと無かったね。
あれから零愛さんの弟さんに連絡取ったりしていないの?」
「なぜ? そもそも連絡先を知らないもの。
とろうと思えば零愛さん経由でいつでも連絡はできるから困りはしないけどね」
「こりゃ諦めた方がいいよ、夢は自分の恋バナを聞かせられるよう頑張って。
まずは部活対抗リレーにでるところから始めたらいいんだってば」
「だからそれは人数が足りないって言ってるじゃないの。
大体部活が四つしかないのにリレーやろうと言うのが間違ってるわよ。
しかも運動部は二つでしょ? あとは理科部と書道部だもん」
「でも委員会と教職員に父兄も一緒でしょ?
意外にいい勝負するかもしれないね、書道部はともかくさ」
最終的な出場種目は八早月が障害物競走とティーバッティング、美晴は大玉転がしと大縄跳びに応援団、それに部活対抗リレーに出場することに決めたようだ。どれにも立候補しなかった夢路は、希望者の足りなかったバドミントンと玉入れをやるようにと決められてしまった。
「今月は毎日体育祭の練習があるから授業が少なくて嬉しいよ。
夢は嫌かもしれないけどバドと玉入れならまあ楽そうでいいんじゃない?」
「そうだね、バドミントンは小学生の時よくやってたもんね。
玉入れも人数多いから下手でも目立たなくて良かったかも……」
「あまり気にし過ぎない方がいいんじゃないかしら。
こういうのは一生懸命やるのが美徳とされるものでしょう?
手を抜かないで取り組めばそれで充分よ」
八早月たちがそう話し合って気持ちを高めていると、班の男子が他の子と一緒に茶化してきた。
「やだやだ、真面目ちゃんはこれだからな。
体育祭なんて適当にやればいいんだよ、真剣勝負で上級生に敵うわけないし。
それを一生懸命にやるとかばからしい」
「まあ点数稼ぎにはいいんじゃねえの?
学年一位の優等生だからな、先生にも気に入られてるんだろ。
お嬢様は特別だからってな」
八早月はあからさまに悪口を言われたのが初めてだったので、なぜかとても嬉しくなった。陰では理事長の身内だから特別扱いされているとか、教師に気に入られるために優等生ぶってるとか言われているのは(夢路を通じて)知ってはいたのだ。
どちらかと言えば周囲が八早月を特別扱いし、特異な目で見ているため距離を感じていた。しかし今初めて正面からぶつかってくる者が現れた。これはまさに素の八早月に向かって発せられた言葉なのだ。
「いい傾向ね、私に向かってそう言ってくれる人がいるのは幸せだわ。
皆さん変に気を使って距離を取っているものね」
「なに言ってんだコイツ、バッカじゃねーの。
相手にしてもつまんねえし行こうぜ」
相変わらず班唯一の男子である斉藤は八早月たちとウマが合わない。気まずいのか単に嫌っているのかはわからないが、班行動でもすぐに反対意見を言うのだ。それでも今回のように他の男子と一緒にやって来て悪態を付くのは初めてのことだった。
「八早月ちゃん大丈夫だった? なにあれ、斉藤のくせに生意気!
どうせ一人じゃなにも言えないくせにさ」
「夢路さんが怒らなくてもいいわよ、私は気にしていないのだし。
それどころか嬉しいくらいなの、こんな風に本音でぶつかってくれるなんてね。
今まで周囲に大人ばかりだったから甘やかされて来たと思うから新鮮よ?」
「まあ八早月ちゃんがいいなら私がしゃしゃり出ることでもないけどさ……
でもあんな言い方は無いと思うよ? 男子としてサイテーだよ」
「でもこういうのがアツい展開ってやつじゃないの?
少年マンガにはよくあるじゃない? 敵が味方になるみたいなやつ」
「そんないいもんじゃ無さそうだけどねー」
とまあ、少しだけトラブルらしきものもあったが、それ以上は特に何もなく、この日は初めて南中ソーランの練習が行われ一日が終わった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
訳あって学年の三大美少女達とメイドカフェで働くことになったら懐かれたようです。クラスメイトに言えない「秘密」も知ってしまいました。
亜瑠真白
青春
「このことは2人だけの秘密だよ?」彼女達は俺にそう言った―――
高校2年の鳥屋野亮太は従姉に「とあるバイト」を持ちかけられた。
従姉はメイドカフェを開店することになったらしい。
彼女は言った。
「亮太には美少女をスカウトしてきてほしいんだ。一人につき一万でどうだ?」
亮太は学年の三大美少女の一人である「一ノ瀬深恋」に思い切って声をかけた。2人で話している最中、明るくて社交的でクラスの人気者の彼女は、あることをきっかけに様子を変える。
赤くなった顔。ハの字になった眉。そして上目遣いで見上げる潤んだ瞳。
「ほ、本当の私を、か、かかか、可愛いって……!?」
彼女をスカウトしたことをきっかけに、なぜか「あざと系美少女」や「正体不明のクール系美少女」もメイドカフェで働くことに。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?
宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。
栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。
その彼女に脅された。
「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」
今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。
でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる!
しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ??
訳が分からない……。それ、俺困るの?
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる