限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

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第七章 神無月(十月)

147.十月十二日 午後 寒鳴邸への道のり

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 八早月たちは放課後になると、ほぼ毎日フリースペースでお茶をしてから帰っている。しかし今日は綾乃の家に行くため速やかに行動を始めた。なんと言っても美晴と夢路がいったん帰宅してから再集合するのだから時間がもったいない。

 再集合の前に八早月はいつもと変わらず迎えにきた板倉の元へ行き、綾乃と共に車へと乗り込んだ。しばらくしたら美晴の家まで迎えに行けばいい。

「なんだか一緒に乗せて行ってもらうなんて悪いことしちゃったかな。
 八早月ちゃんがうちに泊まり来てくれるだけでも夢みたいなのにさ」

「相変わらず綾乃さんは大げさだわ。
 それよりもこの先面倒を押し付けてしまうことにならないと良いのだけれど。
 小さな祠と言ってもいつまでも管理していくのは大変だもの」

「確かにそれはそうかもしれないわね。
 私だって年を取るわけだし、いつまでも同じ生活じゃないもんね。
 そのうち結婚して…… いや、これは例えばってことだからね?
 お婆ちゃんになった時に次の世代へ引き継いでいかれるのかは不安かなぁ」

「その辺りはこちらで責任もって面倒見ていくから心配しないでちょうだい。
 私の跡継ぎにみくずさんやみいさんが従うとも限らないわ。
 その時にはきっと綾乃さんが護って行ったやしろへと住んでくれるでしょうね」

『はい、それはもちろん喜んでそうさせていただきます。
 一番喜ばしいのは生き神様のお子様が同じように強大であることですがね。
 恐らくそのようなことはあり得ないでしょうから今から覚悟はしております』

『ちょっと藻さん? そうやって勝手に話に参加するのは止めてくださいな。
 呼んでいないのになぜこちらの話が聞こえているですか?
 まさか真宵さんと意識が繋がっているのでしょうか』

『いいえ、目の前にいる眷属を経由してお話しております。
 ですので話が聞こえてくるのは私のせいではございませんよ?』

 なるほど、綾乃の膝に乗って包まっている藻孤モコは藻の眷属、その動向が筒抜けでもなんらおかしいことではないし、周囲で話していることが常世へ聞こえていてなんの不思議もない。

『それなら明日向かうつもりの場所も知っていますか?
 綾乃さんが散歩で立ち寄ったことがあればと言うことになりそうですが。
 事前にわかっていることがあれば知っておきたいですからね』

『いいえ、残念ながら彼らが見ただけでは私には伝わりません。
 声くらいは聞こえてきますが、あの二人は普段たわいのない会話をする程度です』

「それは残念ね、それなら当日のお楽しみと言うことになりそうですね。
 まずはそこの大岩がご神体なのか、それとも何かが封印されているのか見極める必要があるでしょう」

「八早月ちゃんどうしたの? また神様とお話してた?
 大岩ってやっぱり不吉なものだったりするのかなぁ。
 お父さんに聞いたら、同じ場所で何度も事故が起きてるんだってさ」

「あら? 私ったらまた声に出ていたかしら? 気を付けていたのだけれど……
 でも事故が多発していると言うのは気になるわね。
 交通量が多いとか山道だとか言うのでなければ怪しげな場所と言えそうだわ。
 気になるから綾乃さんの家に向かいながら立ち寄ってみようかしら」

「うんうん、それもいいね!
 もしかしたら目の前でお祓いとか見られるかもしれないんでしょ?
 ハルちゃんも夢ちゃんも喜んじゃうに違いないよー」

 そんな話をしている間に美晴からメッセージが届いた。どうやら準備が整ったらしく迎えに行く時間がやって来たと言うわけだ。八早月と綾乃の会話が聞こえた様子で板倉がエンジンをかけた。

「それではお手数ですがお願いします。
 二人を拾ってから綾乃さんのお宅まで送ってもらうと帰りは遅くなりますね。
 遅い時間ですから居眠り運転などにならないよう気を付けてくださいね?」

「いやいやお嬢、まだ夕方ですから帰りは遅くとも十九時かそこいらですって。
 大人にとっちゃ居眠り運転には程遠い時間だと思いますがね?」

「もうそうやってすぐに幼子扱いして!
 私は運転が長くなって疲れてしまうことを心配しているのです。
 学園の往復だけでなく美晴さんの家と綾乃さんの家まで行くのですからね」

「八早月ちゃん? 私が言うのもなんだけど、うちってそんなに遠くないからね?
 夏にプールの帰りに寄ったじゃない? あの後帰るのにそんなに時間かかった?」

「あの日は帰ったらもう遅い時間でしたよ?
 綾乃さんのお宅は学園より遠いのではありませんか?
 少なくとも通学中には通らないのだから学園より先なのでしょう?」

「あのお嬢? 道は必ず真っ直ぐなわけじゃねえですよ?
 八畑村と学園のある金井町を直線で結んだ時に、久野町は東側になるんです。
 その先へ行くと国道で、先日買い物へ行った店が並んだ辺りに出るってわけです」

「あらなるほど、そういうことだったんですか。
 板倉さんはホント色々な場所に詳しくて頼りになりますね、流石です」

 運転を仕事にしていなくても近所の土地勘くらいはあるだろうが、それでも褒められた板倉は照れくさそうに、しかし嬉しそうに頭を掻いた。ちなみにプールの帰りに時間がかかったと八早月が感じていたのは、道中は車内で寝ていたからという単純な理由である。

「美晴さん、夢路さん、お待たせしました。
 まさか外で待っているなんて思いませんでしたが冷えていませんか?」

「このくらいなんでもないよ、もう楽しみすぎてさー
 それじゃ出発進行! お菓子もいっぱい詰めて来たからね!」

 どうやら美晴の大荷物の中身はまたもやお菓子でいっぱいのようだ。こうして合流した二人に久野町がどのあたりにあるのかを、八早月は得意げに語るのだった。
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