限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです

釈 余白(しやく)

文字の大きさ
152 / 376
第七章 神無月(十月)

148.十月十三日 早朝 ご神体の大岩

しおりを挟む
 綾乃の家に泊まった翌日、さすがに夜遅くまでおしゃべりをしていたのでいつもの時間に起きるのが大変だった八早月だったが、約束もあるのでなんとか目を覚まし顔を洗ってから庭へと出てきた。

 昨晩のうちに早朝鍛錬をすることは綾乃の両親へ告げてあるから問題はない。とは言ってもやはり気は引けるので、家人を起こさないよう無言で素振りをする程度だ。

 それでも六時になると綾乃と母親が起きて来て挨拶をする。どうやら二人はこの時間から散歩へ出かけるようだ。てっきり綾乃だけだと思っていたので少々驚きを見せた八早月は、せっかくだからと一緒に行くことにした。

『やっぱり八早月ちゃんは朝早かったね。
 私はいつも通り起きるだけで精いっぱいだったよ。
 と言ってもモコがガリガリとうるさくして寝かせてくれないんだけどね』

『なに言ってんだよ、俺が起こしてやらなかったら主が遅刻しちまうだろ。
 そうやってすぐ文句言わないで感謝してもらいたいもんだよ、まったく』

『相変わらず素直じゃありませんね。
 そんな悪態ばかりついていると綾乃さんに嫌われてしまいますよ?
 まあ普段のお役目で役に立つところを見せているのなら別でしょうが』

『なな、なにいってんだよ、主にお役目がないことくらい知ってるんだぜ?
 あえて言うなら近隣の祠回りがそうとも言えるだろうがな』

『もうモコはそうやって筆頭様の八早月ちゃんにまでそんな態度しちゃってさ。
 あんまり無礼が過ぎるとみくず様に怒られちゃうよ?』

『いやいや無礼じゃないっての。
 脅かされたから言い返しただけだってんだ、主ならわかってくれるだろ?』

『はいはい、モコはホント素直じゃないんだからさ。
 八早月ちゃんにちゃんと謝りなさいね』

 そんなことを念話で話しながらジョギングをする三人だが、時折小さな祠で立ち止まっては祈りをささげていく。どうやらそれぞれに小さな地域神の神使が宿っているようで、八早月はわずかながら呼士に似た気配を感じていた。

「綾乃? 私は先に帰って朝食の支度をするわね。
 お父さんが休日出勤なのよ、帰りに筆頭様やお友達を送って行けないけど平気かしら?」

「綾乃さんのお母様、迎えを頼んでありますのでご心配いりません。
 それに私のことは櫛田か八早月とお呼びください。
 分家以外から筆頭呼びされるような偉人ではございませんから」

「でもこんなにお世話になっているのに……
 それではおそれ多いですけど八早月さんとお呼びしますね」

 まあ今の距離感であればこんなものだろうか、八早月は納得し微笑みながらうなずいた。それを見て綾乃は苦笑しながら母の肩を叩く。やや気まずそうにしながらも綾乃の母は八早月へ深々と頭を下げ去って行った。

「なんかへんな気を使わせちゃってごめんね。
 お母さんは確かに感謝しているんだけど、今でもやっぱり戸惑っているみたい。
 特に私が気絶した時に一緒に卒倒したことがちょっとしたトラウマって感じね」

「それは仕方ない面もあるわ、あまりにも非日常的なことだもの。
 でもこうやって遊びに来られたし受け入れて下さって嬉しいのよ?
 人によってはおそれからか二度と立ち寄らないなんてこともあるのだから」

「それはお祓いの後とかに? 自分で頼んでおいてそれはないよねぇ。
 他人の好意を足蹴にするような人じゃまた祟られちゃうんじゃない?」

「ふふ、そんなこともあるかもしれないわね。
 でもこちらとしては神社のお仕事なのだから玉串料がもらえればいいのよ。
 それをがめついだなんて言われることもあるけれどね」

「まったく人って勝手だよねぇ。
 神頼みするくらい困ってるはずなのにケチるなんてさ。
 そういえば八早月ちゃんが気にしてる大岩も神頼みのご神体なのかな?」

「可能性はあるでしょうね、だからそれを確かめに行くのよ。
 もし近いならこのまま行ってしまってもいいわね」

「まあまあ近いよ、ここからだともう七、八分くらいかな。
 置いてきぼりにしたからハルちゃんたちが文句言うかもしれないね」

「さすがにあの時間では起こすのもはばかられるもの、仕方ないわ。
 後でなにか埋め合わせできそうなこと考えてみようかしら、鍛錬とか」

「うへえ、それは多分カンベンって言うだろうね。
 そうそう、新庄君はお昼食べてから来るって言ってたよ。
 やめとけばいいのにわざわざやられに来るなんて物好きよねえ」

 綾乃はそう言いながらも悪戯をする子供のように笑った。やめておけばいいと言うのは口先ばかりで、本心では八早月の活躍が間近で見られるのを楽しみにしていると言った様子だ。八早月もそれがわかっていて一緒に楽しもうと考えている。

 こうしてご機嫌な二人はくだんの三角地までやって来た。そこは幹線道路ではないもののそれなりに広めの道路と、郊外へ向かうための道でY字路が形成されている場所である。

 早朝にもかかわらず交通量はそこそこある。しかしY字路には信号がないためか速度を落とさず走って行く車が目立つ。自分では運転することがないので八早月たちには判断が難しいが、右へ行ったり左へ行ったり合流したりと忙しそうな様子を見ていると、この場所で事故が起きやすいと言うのもうなずける。

 車の切れ目を待ってから大岩のところへ行ってみた二人は、早速その場所を探り始める。一見何の変哲もないただの岩ではあるが、そもそもこんな住宅街にあること自体が不自然で不釣り合いだ。

 もちろん似たような岩というだけなら、八畑村に流れている渓流で良く見かけるので珍しくはない。だが八早月よりも十センチ以上は背の高い綾乃でさえ両手を回しても届かないくらいの大岩だ。この場所まで運んでくるだけで一苦労だろう。

「このお隣のおうちには誰も住んでいないのかしら。
 シャッターがあるくらいだから商店なの?」

「違うよ、ここは町内会の防災用具置き場で普段は消防団が管理しているの。
 中にはヘルメットとか毛布とか、そういうのが仕舞ってあるんだってさ。
 小さい頃に防災訓練で見たような気もするんだけど忘れちゃったなぁ」

「でも特に気になるようなものではないと言うことなのね?
 それならこの大岩も町内会で置いた物なのかしら。
 町内会長さんにでも詳しい話を聞きに行く必要があるかもしれないわ」

「まあそれには及ばんさ、おいらが説明するよ。
 その代わりと言ってはなんだけど、役に立ったと思ったら何か褒美をおくれよ。
 おいら生き神様と会うのは初めてなんだ」

 八早月は足元から聞こえてきた言葉に頭を抱えて目を閉じた。その様子を見た綾乃は肩をすくめながら同情の眼差しである。

「八早月ちゃんってば、あーあ、またこのパターンかって言いたそう。
 お狐様、白蛇様と来て今度はどんな神様だろうね」

 声が聞こえてきた大岩の裏を二人で覗いてみると、そこには小さな張り子の牛が鎮座していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

訳あって学年の三大美少女達とメイドカフェで働くことになったら懐かれたようです。クラスメイトに言えない「秘密」も知ってしまいました。

亜瑠真白
青春
「このことは2人だけの秘密だよ?」彼女達は俺にそう言った――― 高校2年の鳥屋野亮太は従姉に「とあるバイト」を持ちかけられた。 従姉はメイドカフェを開店することになったらしい。 彼女は言った。 「亮太には美少女をスカウトしてきてほしいんだ。一人につき一万でどうだ?」 亮太は学年の三大美少女の一人である「一ノ瀬深恋」に思い切って声をかけた。2人で話している最中、明るくて社交的でクラスの人気者の彼女は、あることをきっかけに様子を変える。 赤くなった顔。ハの字になった眉。そして上目遣いで見上げる潤んだ瞳。 「ほ、本当の私を、か、かかか、可愛いって……!?」 彼女をスカウトしたことをきっかけに、なぜか「あざと系美少女」や「正体不明のクール系美少女」もメイドカフェで働くことに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

負けヒロインに花束を!

遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。 葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。 その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。

学校一の美人から恋人にならないと迷惑系Vtuberになると脅された。俺を切り捨てた幼馴染を確実に見返せるけど……迷惑系Vtuberて何それ?

宇多田真紀
青春
学校一の美人、姫川菜乃。 栗色でゆるふわな髪に整った目鼻立ち、声質は少し強いのに優し気な雰囲気の女子だ。 その彼女に脅された。 「恋人にならないと、迷惑系Vtuberになるわよ?」 今日は、大好きな幼馴染みから彼氏ができたと知らされて、心底落ち込んでいた。 でもこれで、確実に幼馴染みを見返すことができる! しかしだ。迷惑系Vtuberってなんだ?? 訳が分からない……。それ、俺困るの?

処理中です...