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第七章 神無月(十月)

168.十月二十九日 放課後 復讐の策謀

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「まったくあんたたちったら余計なことしてー
 しかも夢だけならともかく八早月ちゃんや綾ちゃんまで悪乗りするなんてさぁ」

「そんなこと言いながらも本当は嬉しかったくせに。
 それで涼君とはどうだったの? まさかただ映画見ただけじゃないでしょうに。
 まああの映画はロマンス要素薄いから盛り上がらなくても仕方ないけどさ」

「ま、まあね、一応今度休みの日にでも遊ぼうって約束はしたけど……
 でもだからいいって話じゃないと思うんだけどさ……」

「ハルちゃんって男勝りなのに実はこの中で一番女の子してるって感じだね。
 中一で彼氏持ちなんてなかなかいないよ?
 まさか八早月ちゃんよりも先に彼氏を作っちゃうなんてねぇ」

「綾乃さん、そこでなぜ私の名を出すのですか!?
 いいえ、わかっていますとも、飛雄さんのことをおっしゃっているのでしょう?
 その手には乗りませんよ? 皆さんに話題を提供するのはまっぴらです!」

「まっぴらっていいかたはひどいよー
 私たちは純粋に八早月ちゃんの幸せを願っていろいろ考えてるのにさ」

 とまあ、朝からこんな調子で始まった一日もあっという間に放課後を迎えた。もちろん四人の関係性にひびが入るなんてことはない。前日の映画鑑賞会で余計な気を回されたと不機嫌そうにしていた美晴も内心では喜んでおり、恥ずかしさのあまりつい膨れて見せただけと言うのが丸わかりなのだから、仲が悪くなりようがないのだ。

 だがそれはそれ、これはこれということで美晴は仕返しの機会をうかがっており、その効果は放課後になって表れた。

 四人はいつものように図書館棟のフリースペースでお茶会をしていたのだが、その途中で八早月のすまほにメッセージが届いた。母からの急用でも無ければ、学校にいる間に働くことの無いその最新機種が珍しく震えている。

「あら? こんな時間に珍しい、誰からなのかしら。
 ―― まあ、零愛さんからメッセージが来たのは久しぶりね」

「へえそうなんだ、最近はあまり連絡取りあって無かったの?
 やっぱり八早月ちゃんがスマホ操作苦手だから?」

「そうね、返事をするのが面倒でつい電話してしまうのよ。
 でもいつもいつもってわけじゃないわ、美晴さんたちへはちゃんと返しているでしょ?」

「そうだよね、別に電話してくれてもいいけどなんでなの?」

「だって零愛さんの家は遠いから時間がかかってしまったら申し訳ないでしょう?
 みんなみたいに近ければ少しくらい待ってもらってもいいかなと思ってのことよ」

「いやいや八早月ちゃん? メッセージに距離は関係ないんだよ?
 近くても遠くても一瞬で届くのは変わらないんだからさ……
 まあそれはいいとして、零愛さんなんだって?」

 零愛から来たメッセージの内容を早く教えろとやけに急かす美晴の様子に、夢路はなにか気付いた様子で綾乃へ目配せをする。それを見た綾乃は瞬き三回でわかったと合図したつもりである。

「ええっと、十一月に学園祭があるからみんなで遊びに来ないか、ですって。
 なるほど…… 学園祭と言うのは学校のお祭りということね?
 零愛さんたちにはなにか祭事での出番があるのかしら」

「違うよ八早月ちゃん、うちの学校で言うところの文化祭のことだってば。
 きっとなにか出し物とか出店とかやるんじゃないかな。
 去年私は久野高の学園祭見に行ったけど、ロックバンドの演奏とかあったよ」

「なるほど、そういうものなのですか、やはり綾乃さんは博識ですね。
 せっかくのお誘いですから前向きに検討すると返事をして構いませんか?
 みんなでと言って下さっているので私の一存では決められませんからね」

「それで学園祭はいつなの? 十一月だとこっちも文化祭あるからなぁ。
 被らないといいんだけどね」

「十一月の十日と十一日の二日間ですって、こちらの文化祭は確か月末でしたね?
 どうやら別々の日程のようですから後は皆さんの予定次第ですね。
 私はお役目の都合上土曜日にしか行けなくて申し訳ありません」

「でももし泊めてもらえるなら前日から乗り込んでもいいよね。
 さすがに海には入れないけどお泊りって楽しいじゃない?」

「そんなずうずうしいことこちらから申し出ていいのでしょうか……
 でも確かにそのほうが沢山お話できますし、恥を忍んでお願いしてみましょう」

 そんなやり取りをしている水面下では、美晴と夢路がものすごい指裁きでメッセージのやり取りをしていた。そして八早月は零愛への返事に二十分ほどの時間をかけ、さらにすぐ戻ってきたメッセージの返事にまた二十分ほどの時間を要していた。

 最終的に学園祭前日の金曜日夜に高岳家へ行き泊めてもらい、土曜の夜に帰宅すると言うスケジュールになるだろうと言うことでまとまった。直前によほどのことがない限りはまた楽しいお泊り会の実現である。

「それでこの学校の文化祭ではなにをするのかしら。
 と言っても全員初めてだからわかるはずないわね」

「高等部と合同でやるんだってさ。
 書道部でも一緒に作品展示するから気合入れて書かないとって先輩言ってたもん」

「書道部ではもう準備を始めてると言う事か。
 アタシは運動部だから関係なくてよかった。
 あとはクラスで何するのかだけど、今のところ先生は何も言ってないね」

「文化委員なんてないから体育祭の時のようにまとめるのは誰がやるのかな。
 学級委員? それともこれから決めるとか? もうひと月前なのにのんびりだね」

 それぞれごそごそと生徒手帳を取り出し、年間予定表の十一月二十四、二十五を確認しつつ、その二段上の十、十一の空欄に浪西高校学園祭と書き込んでいく。こうしてカレンダーで見ると、確かに文化祭までそう日は無いのだと感じるものである。

 明日にでも担任へ聞いてみようか、などと言いながら本日のお茶会はそろそろお開きとなった。再び零愛のところへ泊まりに行けることで八早月は上機嫌になり、跳ねるような足取りで正門につくと三人へ手を振りながら車へ乗りこみ走り去って行く。

 そして残された三人はと言うと――

「それでハルは何をどうしたくて零愛さんに連絡取ったわけ?
 都合よく学園祭があるなんて良く知ってたじゃないの」

「アタシは飛雄さんをけしかけないと脈無しどころか存在無し級って言っただけ。
 そしたらちょうど学園祭があるから来られるか聞いてみたらどうかってね。
 もし何もなくてもさ、連絡くらい取ってって伝えてほしかったんだー」

「まあでもこれで進展するかもしれないしハルにしてはいい案だったね。
 もしなにも起きなくても遊びに行かれるんだから十分元は取れるってもんだし」

「元とるってなんの元なの? 夢ちゃんたらおっかしいのー
 それより問題はさ、飛雄くんが跡取りだったら困るなって思ってるんだよね。
 八早月ちゃんのところへは婿入りする必要があるじゃない?」

「ちょっと綾ちゃんてば先走り過ぎだよ、まだ中学生なのにそこまで考える?
 もしかして意外におませさん?」

「あはは、違うってばー
 でもそれなら気楽にお付き合いできるような関係になれるといいよね」

「うんうん、なにか作戦考えて学園祭を切っ掛けに――」

 とこんな調子で画策する美晴と夢路、綾乃の三名であった。
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