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第1章
第3話、急展開
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女神が今にも飛びかかりそうな程の凄い形相で、対峙する真琴を睨む。
そして女神周辺の空間が歪んだ。
歪んだ空間からは七色の輝きを放つ砂のような粒が少しづつ漏れ出し、周辺に散らばっていく。
またその粒が出現したと同時に、チクタク音を立てる時計が早回しでグルグル動くような音がそこらかしこで鳴り響き始める。
対する真琴は、ワンモーション。
掌底を打つようにして離れた女神に向かい右腕を勢いよく突き出したかと思うと、何事も無かったかのように俺の方へと歩みを始める。
「ぐっ……」
女神が両手で胸を押さえると、その場にしゃがみ込んだ。
空間の歪みや七色の粒、異質な時計のような音はなくなり、元の何もない暗闇の世界へと戻っていく。
そこで真琴は通り過ぎたため背後に位置する形になった女神に向かい、上半身を仰け反らせる凄いポーズで視線を送る。
「まさかその程度じゃ消滅しないよね?
まあこの肉体ではこれが全力で、この程度の力しか使えない、と表現する方が正しいんだけどね」
真琴はそう吐き捨てこちらに向き直ると、歩みを再開させた。
「でもいいねこの空間。
前の世界ではボクが力を使うと簡単に歪んでしまうから、制約を誓っていたんだ。
だからフラストレーションが溜まってたわけなんだけど、結果この場はいい息抜きになったよ」
そんな真琴が俺の目の前までくると、立ち止まりこちらをチラチラ見ながらモジモジしだす。
「その、さっきは死なせてしまってごめんなさい。
言い訳になっちゃうんだけど、実は会った時に言うセリフとか決めてて、でもキミを前に話してたら昨日みたいに歯止めが効かなくなって、自分でもなんか大胆発言してるなと恥ずかしくなってきちゃって——」
なんだか、いつもの真琴で可愛い。
「俺は——、真琴が無事ならそれで満足だよ」
真琴が頬を朱色に染めながらも、にっこり笑顔を見せる。
「キミのその優しさは、存在が変わってしまっても変わらずだよね」
「存在が変わっても?
もしかして俺は転生して今の俺なわけ?
それに前の俺は、真琴に逢っているの? 」
「そうだよ。キミは己の身を犠牲にして、力を失った上で脆弱な人間に転生する羽目になると知ってても、以前のボクを助けてくれたんだ」
真琴は遠くを見るような目で、俺の顔を見つめている。
「話がよくわからないけど、真琴にまた会えたのは本当に嬉しいな。
それと、ありがとう。
なんだか助けたつもりが、助けられちゃったみたいだしね」
「いいんだよ、ボクはこれからずっと、ずっとずっとキミに恩返しをしていきたいと願ってるのだから」
真琴はそこで、俺の身体を舐め回すように視線を下から上へと這わせていく。
「……それよりキミは本当に美味しそうだよ。
初めてだからテクニックはないだろうけど、その分頑張るから、今すぐ食べたら、……ダメかな? 」
「食べるってどう言う意味なの!?
そっ、それよりさ、これからどうするの? 」
真琴は恥ずかしがりながらも、ご馳走を目の前にした猫のような瞳を改めると、顎に手を当て考え始める。
「家族もいるし出来たらすぐにでも元の世界に戻りたいんだけど、生憎ボクは精密な力の使い方を苦手としているんだよね」
「……そうなんだ」
「でもキミがいる場所だけは特別で、ちゃんとわかるしすぐにでも行けるよ」
真琴が熱っぽい視線を向けてきた。
「そっ、そしたらさ、あの蹲ってなんだか薄くなってしまっている女神っぽい人にお願いするのはどうかな? 」
すると真琴から、盛大にため息を吐く音が聞こえた。
「あれはダメだよ。どうせキミを引っぱって来たのもBOXに入ったクジを引くような感じのたまたまだったろうし、連れてくるやり方が完全に盗っ人だから信用にも欠ける」
女神っぽい人ならぬ盗っ人さんは、そんな俺たちのやり取りを聞いてかどうかはわからないけど、心なしかさらに薄くなったような気がした。
あとそれに合わせて自身を射す光も弱まっているっぽい。
それよりどうしよう? 八方塞がりだ。
帰らないと俺のとこは母さんが心配するだろうし……って、あれ?
そういえばさっきの真琴の言い方だと——
「真琴、すぐに元の世界に戻れないんだよね」
「うん」
「それって、時間をかければ戻れなくも無いって事? 」
「そだよ、時間をかけて狙いを定めれば、ちゃんと飛べるよ」
「その時間ってさ、どれくらいの時間? 」
「一、二ヶ月もあれば大丈夫だと思うけど」
思わず安堵のため息が出る。
よかった、数十年後とか言われなくて。
それぐらいで戻れるのなら万々歳だよ。
それにどおりで真琴が落ち着いてるわけだ。
しかし濁すだなんて、それはそれで意地が悪い。
ジト目で真琴を見やると、『ボク、嘘は言ってないからね』と八重歯を覗かせた。
そして続ける。
「それでさ、飛べるようになれるまでは、この盗っ人さんの世界でのんびりする、なんてどうかなと思ってるんだけど、キミはどう思う? 」
「そだね、地球に戻る方法もあるわけだし、旅行気分でどんなところか行ってみるのもいいかも」
「決まりだね」
そこで真琴が、言いにくそうにまたモジモジし始める。
「ちょっと脱線してもいいかな? 」
「うん? いいけど」
「そのお願いなんだけど、キミが望む事で出来る事はこれからなんでもするからさ、その、良ければなんだけどね、キミの、キミの子供を身ごもってみたいんだ。
この身体だとそれが出来るわけだし……」
「こっ、子供を作る!?
話が脱線しすぎだよ! 」
……でもそれって。
「——ようは結婚するって事、だよね? 」
真琴は弱々しく聞こえるか聞こえないかの、か細い声で『うん』と言った。
「結婚は、いっ、いいけどさ、その子供と言うのは、……今すぐにはちょっと。
物事には順序ってものがあると思うから——」
「わかってる、だから今はこれで我慢するね」
抱きしめあった。
お互いの肌と肌を擦り寄せるようにして密着させて。
満たされていく想いと、もう離したくないと言う満たされない気持ちが天秤に揺れていく。
そうして確かめるように暫く抱き締め合っていると、不意に真琴と目が合った。
そして気持ちの昂りが最高潮に達する。
「真琴、ちょっといい? 」
「うん? 」
「これからさ、何が起きてもずっと、ずっと一緒にいようね」
返事の代わりにコクリと頷く真琴。
そして互いに瞳を閉じ、顔を寄せ合っていく。
最初は唇を軽く彷徨わせるようにして触れ合わせていたけど、すぐに抑えきれない気持ちでいっぱいになり、気付けば強く、強く強く、俺たちは唇を重ね合わせ続けていた。
とそこで、不意に抱きしめ合っていた肉体の熱と唇の感触が忽然と消える。そのため虚空を抱きしめる形になった俺は、慌てて瞳を開ける。
なっ、真琴が、消えた!?
そう、視界から彼女の姿が完全に消えてしまっていた。
そして女神周辺の空間が歪んだ。
歪んだ空間からは七色の輝きを放つ砂のような粒が少しづつ漏れ出し、周辺に散らばっていく。
またその粒が出現したと同時に、チクタク音を立てる時計が早回しでグルグル動くような音がそこらかしこで鳴り響き始める。
対する真琴は、ワンモーション。
掌底を打つようにして離れた女神に向かい右腕を勢いよく突き出したかと思うと、何事も無かったかのように俺の方へと歩みを始める。
「ぐっ……」
女神が両手で胸を押さえると、その場にしゃがみ込んだ。
空間の歪みや七色の粒、異質な時計のような音はなくなり、元の何もない暗闇の世界へと戻っていく。
そこで真琴は通り過ぎたため背後に位置する形になった女神に向かい、上半身を仰け反らせる凄いポーズで視線を送る。
「まさかその程度じゃ消滅しないよね?
まあこの肉体ではこれが全力で、この程度の力しか使えない、と表現する方が正しいんだけどね」
真琴はそう吐き捨てこちらに向き直ると、歩みを再開させた。
「でもいいねこの空間。
前の世界ではボクが力を使うと簡単に歪んでしまうから、制約を誓っていたんだ。
だからフラストレーションが溜まってたわけなんだけど、結果この場はいい息抜きになったよ」
そんな真琴が俺の目の前までくると、立ち止まりこちらをチラチラ見ながらモジモジしだす。
「その、さっきは死なせてしまってごめんなさい。
言い訳になっちゃうんだけど、実は会った時に言うセリフとか決めてて、でもキミを前に話してたら昨日みたいに歯止めが効かなくなって、自分でもなんか大胆発言してるなと恥ずかしくなってきちゃって——」
なんだか、いつもの真琴で可愛い。
「俺は——、真琴が無事ならそれで満足だよ」
真琴が頬を朱色に染めながらも、にっこり笑顔を見せる。
「キミのその優しさは、存在が変わってしまっても変わらずだよね」
「存在が変わっても?
もしかして俺は転生して今の俺なわけ?
それに前の俺は、真琴に逢っているの? 」
「そうだよ。キミは己の身を犠牲にして、力を失った上で脆弱な人間に転生する羽目になると知ってても、以前のボクを助けてくれたんだ」
真琴は遠くを見るような目で、俺の顔を見つめている。
「話がよくわからないけど、真琴にまた会えたのは本当に嬉しいな。
それと、ありがとう。
なんだか助けたつもりが、助けられちゃったみたいだしね」
「いいんだよ、ボクはこれからずっと、ずっとずっとキミに恩返しをしていきたいと願ってるのだから」
真琴はそこで、俺の身体を舐め回すように視線を下から上へと這わせていく。
「……それよりキミは本当に美味しそうだよ。
初めてだからテクニックはないだろうけど、その分頑張るから、今すぐ食べたら、……ダメかな? 」
「食べるってどう言う意味なの!?
そっ、それよりさ、これからどうするの? 」
真琴は恥ずかしがりながらも、ご馳走を目の前にした猫のような瞳を改めると、顎に手を当て考え始める。
「家族もいるし出来たらすぐにでも元の世界に戻りたいんだけど、生憎ボクは精密な力の使い方を苦手としているんだよね」
「……そうなんだ」
「でもキミがいる場所だけは特別で、ちゃんとわかるしすぐにでも行けるよ」
真琴が熱っぽい視線を向けてきた。
「そっ、そしたらさ、あの蹲ってなんだか薄くなってしまっている女神っぽい人にお願いするのはどうかな? 」
すると真琴から、盛大にため息を吐く音が聞こえた。
「あれはダメだよ。どうせキミを引っぱって来たのもBOXに入ったクジを引くような感じのたまたまだったろうし、連れてくるやり方が完全に盗っ人だから信用にも欠ける」
女神っぽい人ならぬ盗っ人さんは、そんな俺たちのやり取りを聞いてかどうかはわからないけど、心なしかさらに薄くなったような気がした。
あとそれに合わせて自身を射す光も弱まっているっぽい。
それよりどうしよう? 八方塞がりだ。
帰らないと俺のとこは母さんが心配するだろうし……って、あれ?
そういえばさっきの真琴の言い方だと——
「真琴、すぐに元の世界に戻れないんだよね」
「うん」
「それって、時間をかければ戻れなくも無いって事? 」
「そだよ、時間をかけて狙いを定めれば、ちゃんと飛べるよ」
「その時間ってさ、どれくらいの時間? 」
「一、二ヶ月もあれば大丈夫だと思うけど」
思わず安堵のため息が出る。
よかった、数十年後とか言われなくて。
それぐらいで戻れるのなら万々歳だよ。
それにどおりで真琴が落ち着いてるわけだ。
しかし濁すだなんて、それはそれで意地が悪い。
ジト目で真琴を見やると、『ボク、嘘は言ってないからね』と八重歯を覗かせた。
そして続ける。
「それでさ、飛べるようになれるまでは、この盗っ人さんの世界でのんびりする、なんてどうかなと思ってるんだけど、キミはどう思う? 」
「そだね、地球に戻る方法もあるわけだし、旅行気分でどんなところか行ってみるのもいいかも」
「決まりだね」
そこで真琴が、言いにくそうにまたモジモジし始める。
「ちょっと脱線してもいいかな? 」
「うん? いいけど」
「そのお願いなんだけど、キミが望む事で出来る事はこれからなんでもするからさ、その、良ければなんだけどね、キミの、キミの子供を身ごもってみたいんだ。
この身体だとそれが出来るわけだし……」
「こっ、子供を作る!?
話が脱線しすぎだよ! 」
……でもそれって。
「——ようは結婚するって事、だよね? 」
真琴は弱々しく聞こえるか聞こえないかの、か細い声で『うん』と言った。
「結婚は、いっ、いいけどさ、その子供と言うのは、……今すぐにはちょっと。
物事には順序ってものがあると思うから——」
「わかってる、だから今はこれで我慢するね」
抱きしめあった。
お互いの肌と肌を擦り寄せるようにして密着させて。
満たされていく想いと、もう離したくないと言う満たされない気持ちが天秤に揺れていく。
そうして確かめるように暫く抱き締め合っていると、不意に真琴と目が合った。
そして気持ちの昂りが最高潮に達する。
「真琴、ちょっといい? 」
「うん? 」
「これからさ、何が起きてもずっと、ずっと一緒にいようね」
返事の代わりにコクリと頷く真琴。
そして互いに瞳を閉じ、顔を寄せ合っていく。
最初は唇を軽く彷徨わせるようにして触れ合わせていたけど、すぐに抑えきれない気持ちでいっぱいになり、気付けば強く、強く強く、俺たちは唇を重ね合わせ続けていた。
とそこで、不意に抱きしめ合っていた肉体の熱と唇の感触が忽然と消える。そのため虚空を抱きしめる形になった俺は、慌てて瞳を開ける。
なっ、真琴が、消えた!?
そう、視界から彼女の姿が完全に消えてしまっていた。
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