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第1章

第33話、集いし戦士たち

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 天井の青白い明かりが、切れかかった蛍光灯のように点滅を繰り返しフロアを照らす。
 そのため真琴が繰り出す連続掌底打ちと、真琴の攻撃を避けるため後方へ小刻みにステップを踏んでいく魂の旋律者の動きがスローモーションのように見える。

 そんな中、魂の旋律者の体に巻き付いていた腕の一本が、べりっと剥がれ前に来た。
 そして奴は、その腕を真琴に向けてビィンっと突っ張るようにして伸ばす!

 そのため真琴が咄嗟に横へ飛んだ!

 これは恐らく、未知なる攻撃に備え念のため回避を選んだのだろうけど、どうやらこの腕自体に危険はないようだ。
 その腕は空間に青白い波紋を浮かび上がらせながら、先程と同じようにタイピングを打つかのようにして指をガサガサと動かしているから。

 そしてすぐさま、奴の後方の壁に小さな光りが生まれた。
 それは小さな穴となり、次第に広がりを見せ瞬く間に壁に大きな穴を作る。

 そこで奴の体に巻きつく全ての腕が、その体からぶらんっと剥がれた。
 その細長い腕には例の刀身の短い刃が握られており、バックステップと同時に真琴へ向け全てのウデが振られた!
 この動作も照明が点灯と消灯を繰り返す中で行われているため、明かりが灯る時にのみ見える刃が、まるで瞬間移動をしているような錯覚におちいる。
 そんな見えづらい中、複数の刃が真琴に群がるようにして迫っている!

 金属が固いものにより弾かれる音が鳴った。

 真琴がその場で全ての刃物を打ち落したのだ。
 しかしその隙に、奴は大きくバックステップをして作り上げた穴に吸い込まれるようにして飛び込んでいった。

 くそっ、まんまと騙されたわけか。
 しかしあの青白い波紋は赤黒いのと比べてどういう違いがあるのだろうか?

 近づくアンデッドたちを相手にしながらそんな事を考えていると、真琴がこちらへ身体ごと向き腰を落とすと軽く呼吸を整える。
 そして明かりが灯った瞬間、連撃が放たれ始めた。
 その怒涛の攻撃で、このフロアにいるほぼ全てのアンデッドたちが、頭を打ち抜かれ砂へと還っていく。

 そこで俺は、真琴に奴を追おうと視線を投げかける。
 それに小さな頷きで応えた真琴は、奴の後を追うべく穴へとジャンプ!
 それに続き俺たちも穴の中に飛び込むのであった。


 穴の先はすぐフロアになっていた。
 そこは天井と床に明かりが保たれていたため、その先の壁にも穴が空いているのがすぐに分かったし、そのさらに先のフロアで真琴と魂の旋律者が戦っているのも見えた。

 そこで俺とルルカは、逃げ惑う魂の旋律者に追いすがり攻撃を仕掛ける真琴のサポートをするため、その後を追いフロアを横切るようにして駆ける。

 と次の瞬間、左右の柱からアンデッドが複数現れた。
 しかしそいつらは真琴たちがいるフロアに行こうとしているためこちらに背を向けている。中にはこちらに気づき振り返る者もいたけど、俺はそのことごとくに白濁球をぶっ放し倒していく。

 そして次のフロアに到着すると、そのフロアの壁にも新たに穴が出来ており、すでにその穴の先である空間に移動している真琴と奴を追い無人のフロアを横切った。

 そうしてやっと、魂の旋律者と睨み合う真琴に追いついたわけなんだけど、そのたどり着いた空間とは来る途中にあったセーフティーゾーンを縮小させたようなドーム型の広場であった。

 しかし大きく違うところもある。
 地面が砂で、ぐるりと周囲を取り囲む壁の手前には観客席のような階段状の座席があり、その座席にゴブリン達が20体くらい座っている。
 その中にはハイゴブリンの姿も見えるが、一体だけ明らかに他とは違う雰囲気を醸し出している、高価そうな鎧を纏いくつろいで座っているゴブリンが一体いた。
 そいつの両脇には、メスらしきゴブリンの姿も見えるのだけど——

 そこでそいつのソウルリストを確認してみる。
 ——悪鬼の王、だと!?
 なんかここに来て凄いのが出てきた。

 またこちらとは反対側の壁際には中世ヨーロッパ時代の戦車を彷彿とさせる、車輪の中央部に外側へ向かって刃物が伸びている荷馬車があるのが見える。
 ただそれを引く馬などの動物の姿は見あたらない。

 その時、ルルカと手を繋いでいる腕が、軽く数度引っ張られたので、引っ張った本人であるルルカに視線を移す。
 すると彼女は鬼気迫る顔で叫ぶように口を開く。

「ここは、もしかしたら『小鬼達の闘技場』なのかもしれません! 」

「つまりそれって? 」

「この悪鬼要塞のダンジョンボス部屋です! 」

 ダ、ダンジョンボスだと!?
 しかも闘技場の中央部には、その多くの腕を消し飛ばされてはいるが魂の旋律者が白い顔でこちらをジッと見据え佇んでいる。

 これは真琴でも多勢に無勢だ!
 しかもここにいる敵はアンデッドではないため、俺は戦力外であるし。

 そうこうしていると、悪鬼の王が立ち上がりなにやらキィキィと周りに向かい騒ぎ立て始めた。
 すると一斉に慌ただしく動き出すゴブリンたち。

 そこで犬の遠吠えを十倍大きくしたような声が闘技場を震わす!
 聞こえてきた場所は戦車近くの闘技場の壁にある、鉄格子が降りている半円状の入り口から。

 すると軋む音を立てながらその鉄格子が上がっていき、その中からライオンほどの大きさの黒い狼みたいなのが、鞭を持つゴブリンに連れられノソノソと二体現れた。

 もしかしてあの巨大な狼って?

 予想が的中、降りてきた悪鬼の王が乗りこんだ戦車を、鎖で繋がれた二体の狼が再度遠吠えをしたのち引き始めた。

 感触を確かめるためにやっているのか、戦車は砂煙を上げその場をガラガラ言わせ旋回している。

 いよいよやばい状態になっている!

 とその時、俺たちが来た穴の方から気配を感じる。見れば、そこから二人の冒険者風の男たちが現れていた。
 そして背中に大剣、左手にクロスボウを持つ筋骨隆々の大柄なおっさんが、ボサボサの頭をかきながら一歩踏み出した。

「こりゃどうなってんだ?
 知らん間に穴が出来てたから来てみりゃ、こいつはボス部屋じゃねーか 」

 そしてそのおっさんの後から来た、腰に剣をぶら下げ杖を手にしている小綺麗なオジさんが、ジト目でおっさんを見ながら言う。

「だからいったでしょーが。
 たしかに地獄の黒い狼ヘルブラウルフの遠吠えが聞こえたって。ほれほれ」

「金貨はこれが終わってからにしやがれ……って、誰かと思えばルルカじゃねぇか!?
 なんでこんなところにいやがるんだ? 」

「えっ、いや、ちょっとですね——」

「ちょっとじゃないぞ!
 お前までいなくなったら、お前の親御さんはどうすりゃいいんだ! 」

「うう、ごめんなさい」

 どうやらルルカの知り合いのようだけど。

「ルルカ、この人たちは? 」

「その、イドの街で唯一のBランク冒険者で、お姉ちゃんの師匠だったガドリューさんと、その相方のハインツェさんです」

 その説明を受けたハインツェさんが思わずといった感じで苦笑する。

「ルルカちゃん、私の紹介が簡素で、私かんゎぃそぅですよ」

「えっ、あっ、ごめんなさい」

 そこでガドリューさんがずいっと前に出る。

「くっだらねーダジャレいってんじゃねーよ。
 それよりお前ら、みねぇー顔だがなにもんだ? 」

 ガドリューさんは威圧感のある眼差しで俺と真琴を見据えている。

 げっ、これってルルカを連れ出した事を怒られるパターンでは?
 そんなこんなで戸惑っていると、ルルカが説明をしてくれる。

「ダークエルフのユウトさんと、ユウトさんの恋人の真琴さんです!
 ユウトさんは回復のスペシャリストで——」

「ルルカちゃん、ストップです」

 ハインツェさんが真剣な表情でルルカにまったをかけた。

「そろそろ奴らが動くようですよ。
 それとガド、あの白い顔の化け物のソウルリストを確認して下さい」

「確認済みだ。ちゅーか俺は若い頃、あいつを見たことがあるんだよ」

「へぇーそれは初耳ですね」

 そこでハインツェさんが俺のほうに視線を流す。

「キミはなにが出来ますか? 」

「えっ、俺は回復だけです。あとはなにも」

「そうか、ならキミはルルカちゃんと一緒に私の後ろにいて下さい」

 ハインツェさんは次に真琴のほうへ視線を流す。

「お嬢ちゃん、あなたはなにが出来ま——」

 真琴は魂の旋律者から視線を外さずに、ハインツェさんの言葉に被せて言う。

「あいつは、ボクの獲物だからね」
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