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第2章

第1話、ハーレムスタート

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 異世界生活は三日目に突入していた。

 空は晴れ渡り、心地よい陽射し。
 時折吹く強い風が背中を後押ししてくれる。

 極力目立たないようにしてイドの街を出発した俺たちは、取り敢えずダンジョン『混沌の迷宮都市』方面へと向かって徒歩で街道を北上している。

「ちょっとあんた! 」

 前を歩いている透き通るような色白で膝まである銀髪の持ち主であり、見た目の幼さや身体のラインがどうみても中学生のそれである美少女アズが、足を止め腰に手を当て仁王立ちになると唐突に声をかけてきた。

「明日、私とデートをしなさいよね」

 そう、それはなんの脈略もなかった。

「デ、 デート!? 」

 あまりの唐突な展開に、それを言ったアズ本人に確認を取ったわけなんですけど、そうですけど何か? ってな顔で現在見られています。
 というか——

「アズ、そもそもデートってなにをするのか知っているの? 」

「えぇもちろん。二人っきりでいろんなところに行ったりして、時間を共有することでしょ?
 気になる相手を知るために、とても効果的らしいわね」

 なるほど!
 その言い方だとつまり、情報提供者がいるってことで——

 さっと首を動かし斜め前方を歩く、青味がかったショートヘアに黒縁眼鏡、前面がパックリと割れたような露出度の高い蒼のドレスを着ているお姉さん、ヴィクトリアさんに視線を送る。
 するとこちらに気づいた彼女は、コクリと頷いてみせる。

「色々と聞かれましたので」

 やっぱりアズに入れ知恵をしたのはヴィクトリアさんだったか。
 そんなヴィクトリアさんは、静かに微笑むと続ける。

「それと、素直に生きる事をおすすめしました」

「そういう事だから、私とデートをするのよ」

「この女狐! ちょっと待つんだ! 」

 この事態に長髪をなびかせながら待ったをかけたのは、押せば跳ね返ってくる大きな胸を紺色のブレザーに、引き締まった形の良いお尻は股下10センチまである紺のチェック柄のショートパンツで包む、現在恋人繋ぎで隣を歩くボクっ娘であり幼馴染みであり交際する事になった真琴である。
 ちなみにわなわなと震えながらの発言だ。

「黙って聞いてればデートって!
 正式にはボクもまだだって言うのに、このボクを差し置いてなんでお前がボクのユウトとするんだ! 」

「デートくらい、別に減るもんでもないし良いでしょ?
 それともなにか、文句でも? 」

「文句? あぁ、おおありだね! 」

「独占欲ってやつ? ……面倒臭いやつね」

 そう言うとアズが考え込む。

「……そうね。ここは一つ、私と勝負をしてみない? 」

 そのアズの言葉で、一瞬にして真琴を纏う空気がガラリと変わる。
 そして真琴は眉をひそめると、トーンの落ちた声で聞き返す。

「勝負? 」

 もしかしてこのままだと、ここでまたあの時のような戦いが始まるのでは!?
 しかし俺のそんな心配は取り越し苦労で終わった。

「そうよ、と言ってもゲームなんだけどね」

 そこで涼しい顔のアズが、一人の女性へと視線を移す。

「ダンジョン、この近くにあるのよね? 」

 急に同意を求められた黒髪ロングストレートでメイド服姿の女性、クロさんが慌ててコクコクと頷いてみせる。
 それを受けてアズが更に口を開く。

「たしか魔術師のなんたらだったかしら? 」

「はい、魔術師の洋館と言います! 」

 ハキハキと受け答えをするクロさん、とそれを見て嬉しそうにしているアズ。

 クロさんはイドの街で冒険者ギルドの受付嬢をしていた、獣に似た耳と尻尾を持つ人間『神秘獣耳ケモフィリア』である。

 遠い昔、なんでもこの星の人たちは空から来た人たちと活発に交流をしていた時代があったそうで、その時の友好の証、名残として時折覚醒遺伝のような形で生まれつき耳が上部で尻尾が生えた獣の人が生まれるようになったらしい。
 そしてそんな神秘獣耳ケモフィリアであるクロさんは、よりにもよってアズに目をつけられ現在アズの付き人みたいになってしまった可哀そうな人だ。

 またヴィクトリアさん曰く、クロさんはこの星の『色濃く出た人』らしい。
 色濃く出た人、簡単に言うと千年単位でその星に現れる、とてつもなく凄い才能の持ち主らしい。
 ただその才能を如何なく発揮する人もいれば、死ぬまで気付かない人もいるそうな。

 ちなみにこの色濃く出た人、地球にも存在するらしく、とある聖人やとある王はこの色濃く出た人の世に出たバージョンらしい。
 そしてなんと今の世にもいるらしいのだけど、その人はその事に気付かずに電脳世界に身を置くニートとして生活しているそうな。
 なんだかなー、それってかなりもったいない気がするんだけどなー。

 そこで真琴とアズの話に耳を傾ける。

「その魔術師の洋館で、多くのモンスターを狩ったほうが勝ち。それで勝者は、その黒いのとデートが出来るって感じのゲームよ。
 負ければもちろん、互いにすっぱり諦める」

 それを聞いた真琴は、顎に手を当て考え始める。

「ユウトとデートか。……それなら仕方ないな、それでお前が諦めるなら」

 そこでヴィクトリアさんが一歩歩みを寄せる。

「では、私が公平な立場でカウント、ジャッジ役を引き受けましょう。それと——」

 ヴィクトリアさんが眼鏡を軽くクイッと持ち上げる。

「敵の強さに応じて、私が点数を振り分ける事にしましょう。
 そうですね、開始はダンジョンに入ったと同時で、ダンジョンボスを倒した時のトータル点数を競い合う形で、お二方共よろしいですか? 」

「わかった! 」
「わかったわ! 」

 真琴とアズの声が綺麗にハモった。

 と言うか、俺の事はガン無視で話が進んでいっちゃうんですね。
 二人を見てみれば、闘志満々のようで身体からオーラのようなものさえ見える気がします。

『御主人様、オ腹スイタ』

 センジュだ。
 白濁球を一つ作り上げ与える。

『御主人、元気ナイ。ドウシタ? 』

 食しながら尋ねてくるバングル。
 お前だけが俺を気遣ってくれるのか。
 ため息ひとつ。

「大丈夫だよ」

 いまさら拒否権なんかないか。

「あの……」

 そこでクロさんがおずおずと口を開いた。

「なによ? 」

「これからダンジョンを攻略するのですか? 」

「そうだけど、なにか文句でもあるの!? 」

「文句とかではないんですけど——」

「へぇー、なにかあるんだ? 」

「いえ、やっぱりなんでもありません! 」

「なら、黙ってなさいよね! 」

「はっ、はい! 」

 アズのクロさんへの扱いを見ていると切なくなると言うか、なんだか不憫な気持ちになってくる。
 よし、今後なにかあったら、俺はクロさんの味方になろう。

 そこでヴィクトリアさんがポンと手を叩く。

「面白い事を思いつきました。
 この際、NGワードも決めてしまいましょう」

 NGワード?
 テレビとかのロケ番組でよくやってるのを見るけど、たしかその指定されたNGワードを言うと大幅に減点されてしまうってやつだよね。
 なんかダンジョン攻略が本当にゲーム感覚になってしまっているんですけど。
 まぁ真琴とアズがいればそうなるのは当然の成り行きなのかもしれないけど。
 いや、俺だけでも気を引き締めておかないと!
 二人は死んだら取り返しがつかない状態、存在がこの世から無くなってしまうのだから。

「それではユウト様は、少し離れていて下さい」

「えっ? あ、はい」

「それではお二方、ついでにクロさんもこちらへ、ゴニョゴニョゴニョゴニョ……」

 ヴィクトリアさんが二人プラスクロさんの耳元で説明を開始した。

 これってもしかして俺が言ったらダメ、つまり二人は俺に言わせたらダメ系な展開なわけ?
 ヴィクトリアさん、なんか面白い事を考えつくな。
 しかしどうしてこんな発想を思いつくんだろう?

 ……もしかして、いやそうと考えるのが妥当である。
 ヴィクトリアさんはたしかに俺を監視していたと言った。それはこの世界に来てから?
 それは違う。
 おそらく地球にいた頃からであり、俺が生まれた時から既に見ていたと考えるべきだ。
 だから俺が見たテレビ番組はもちろん、風呂場やトイレに入っている時、さらにさらに、自室に一人でいた時も一部始終を見られていたわけで……。

 今後ヴィクトリアさんには、口答えしないよう最新の注意を払おうと俺は思う。


 かくしてクロさんを加えた俺たちは、本当の意味での冒険を開始していた。
 しかし昨日も本当に長い、濃い1日だったよな。
 たしかにダンジョン攻略中も大変だったわけだけど、悪鬼要塞を崩壊させた後も違った意味で色々とあって、結果疲れ果ててしまったです。

 そう、あの時の俺は、どうにかなるはずとまだ楽観視してたんだよなー。
 そして今でも鮮明に思い出す。
 あの幻想的かつ神秘的な不思議な光景と、二人の裸体を。
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