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第2章

第11話、ゲームスタート

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 霧を抜けると、そこは洋館の中であった。

 と言っても外から見えた今にも倒壊しそうで霧に包まれた廃墟ではなく、手入れをかかさない使用人が雇われ古さを良き味へと変えたような、全体的に艶やかで清潔感のある屋敷であった。

 でもやっぱりここはダンジョン内だと認識させられてしまう。
 と言うのも屋敷に入って早々、普通はロビーなどがある造りが一般的だと思うんだけど、この屋敷はいきなり奥へと続く廊下しかない。

 左手側の壁には腰より上の位置に、大きく透き通ったガラスが嵌め込まれた窓が等間隔に奥へと並ぶ。
 その窓からはこの屋敷を取り囲んでいたあの鉄柵が遠くに見え、その鉄柵とこの屋敷の間には枯れた雑草がポツポツと生えているため、見ているとなんだか寂しい気分になってきてしまう。
 また真っ直ぐに伸びる通路には真っ赤な絨毯が敷きつめられ、窓から斜めに射す朝日のような白みを帯びた陽の光が廊下と絨毯を照らしているのだけど、それでもなぜか屋敷の中は暗い印象が付き纏ってしまっている。

 全体的にアンティークな作りの建物だからだろうか?

 そして窓とは反対側の右手側の壁には扉。こちらも窓と同じように等間隔に扉が設置されおり、その全てが綺麗に閉じられている。
 こちらは今にもなにか、飛び出してきそうな雰囲気である。

 ちなみにこのダンジョン、つい今しがた教えてくれたクロさん曰く別名があるそうな。
 その名も『呪いの館』。

 その昔、天才ともてはやされた一人の魔道士がいた。
 数多の魔法を操りしその者は、多くのオリジナル魔法を世に生み出しこの世を去る。
 しかしそんな歴史に名を刻んだ魔道士の研究は、後世では評価されるどころか闇に葬られた。それは彼が邪法の研究をしていたからに他ならない。

 後年の彼が生きている間ずっとずっと続けた研究、それは叶わぬ望み、我が子を蘇らせたいと言うたった一つの望みを叶えるためであった。
 一心で寝る間も惜しんで研究に没頭する男。
 いつしか人を人と見なくなり、そして日に日に失う人間性の中、ついに彼は悪魔との契約、邪法にも手を出していったと言われている。

 そんな人一人を蘇らせるために、街一つ分の人の命を刈り取った男。
 そいつがこの館の主人だったらしい。

 これから俺たちを待ち受けるものとは……、いやな予感しかしない。
 またそれを聞いた真琴のテンションは、先ほどとうって変わりガタ落ちである。

 こんな調子で大丈夫なのかな?

 ちなみに真琴は、ソウルリスト『成れの果て』である所謂ゾンビ相手に無双をしてたわけなんだけど、あの時かなり無理をしていたそうだ。
 ちなみに井戸から出てくる髪の長いアレや、屋根裏部屋から落ちて這いずってくるアレ系が大の苦手で、CMをチラ見程度しか観たことがないそうなんだけど、その時かなり気分が悪くなったそうな。

 どっちも違ったテイストがあって面白いんだけどなー。
 ……機会があったらサプライズで見てもらおうかな?
 よし、驚いた顔の真琴も可愛いだろうから、そうするとしよう。

「ゲームスタートです」

 ヴィクトリアさんの合図。
 それを受け真琴は歯をくいしばる。
 そんな真琴を見やり、アズは口角を吊り上げる。

「そんなんで勝負になるのかしら? 」

 アズが鼻で笑いながら言うと、ズンズン絨毯を踏みしめ一人前進していく。
 その顔には自信が満ち溢れていた。

「その、扉に近づきすぎると危険です! 」

 とそこでクロさんが、耳をピンッと立てて叫ぶようにして言った。
 と同時にこちらから数えて二番目の扉が、微かにガタガタ震えだす!

 もしかしなくても、あの扉の先に何かがいる!?
 心配な気持ちが高まり鼓動が早まる。
 そして視線をアズと扉を行ったり来たりさせていると、扉の近くにまで来ていたアズが突然ガクリとふらついた!
 どっ、どうしたんだ!?
 もしかして疲れがたまっているとか!?

『バコンッ! 』

 とそこで扉が、項垂れるような格好になってしまっているアズに向かい一直線に吹き飛んで来る!

 しかしそこからは数瞬の出来事であった。

 アズの周囲に、例の長いツララ型の闇の塊が出現。それが項垂れるアズの眼前を通り抜け、側面から迫ってきている扉に突き刺さる!
 そしてその闇のツララは、その扉を串刺しにしたまま暗い口を開けた部屋の中へと吸い込まれるようにして突き進んだ。

『ぐげっぇっ』

 闇に染まる部屋の中から、なんか変な生き物を潰したような声が漏れ出た。
 ここからでは角度があって見えないが、顔を上げたアズの余裕の表情にクロさんの安堵のため息、そしてなによりボンッという独特の破裂音と黒い粒子が廊下まで漏れ出た事から察するに、脅威はすでに去ったようである。

「あははっ、オープニングポイント、ゲットね」

 嬉々とした表情で勝ちほこるアズ、先ほどのふらつきはなんだったのかと思うほどの絶好調である。
 しかしオープニングポイント、恐らくボーナス得点の一つなんだろうけど、なるほど、得点にはそんな種類のものもあるわけなんだ。

 そこでアズと視線が合う。
 すると彼女は、こちらを見据えながら舌舐めずりをしてみせた。
 うーん。この調子だと、アズにはいらぬ心配をしてしまったかな?

 それに比べて真琴、本当に大丈夫なのだろうか?

「ユッ、ユウト! 勝負はまだ始まったばかりだ!
 ボクは必ずあの女狐に勝ってみせるからね! 」

 そう言う真琴は額から汗をダラダラと流している。
 これは相当だ。
 万が一に備えて、真琴に回復魔法をすぐに飛ばせるようにしておいた方が良いかもしれない。

 俺は早速魔法の詠唱に取り掛かり、次々と白濁の回復水を自身の周りに浮かび上がらせていく。

「あははっ」

 先程の攻撃で気が晴れたのか、もしくはオープニングポイントが入ったのがそんなに嬉しいのか、アズは真琴を見ながらしきりに笑みを浮かべては笑い声をあげる。
 それに対して真琴はかなり焦っているようで、いつもならアズを睨み返すところなのに、俯き一人唇をあわあわ震わせている。

「ボッ、ボクだって! 」

 そして真琴は切羽詰まった顔でアズの跡を追うようにして、やっと一歩を踏み出した。
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