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第2章

第10話、真琴の小説とダンジョンルールおさらい

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 ◆


 風はあれど先ほどまであった雲が今は見当たらないため、布越しとはいえ街道を歩く俺たちの肌に強い日差しが突き刺さる。
 またダンジョン魔術師の洋館まではまだあるそうだし、クロさんが背負っているリュックは恐らくアズの許可無しでは勝手に開ける事すら許されてなさそうでもある。

 そのため俺は水筒で喉を潤すと、その水筒をそのままクロさんへと差し出した。

「クロさんもどうぞ」

「あへっ? 」

 両の耳を立て戸惑った表情を見せたクロさんに歩きながらも強引に水筒を手渡すと、彼女は少しだけ水筒に口をつけたのちにはにかんだ笑顔を見せてそれを返してくれる。

「あっ、ありがとうございます」

「これぐらい良いですよ」

「ほんとキミは、誰彼かまわず優しさを振りまくんだよね」

 真琴だ。またまた何故かジト目でまじまじと見られてしまっている。

 先程アズがデートの話を出してから機嫌が悪いようで、事あるごとにこんな感じでちょこちょこと絡まれてたりするんだよね。
 そのたびに違う話題をふって逃れてきたんだけど、いよいよ返す話題が無くなってきた。
 隣の真琴は無言のままでジト目を続ける。
 その目に見えない圧力に、汗が顔を伝い流れ落ちる。

 沈黙はだめだ、だめなんだ!
 考えるんだ、なんでもいいから今すぐに。
 そこで煌めく!
 そう言えば真琴、小説を書いているって言ってたよね?
 取り敢えずその話題をふってみよう!

「真琴、そういえばちょっと気になってたんだけど、小説ってどんなヤツを書いているの? 」

 すると真琴は眉間にシワを寄せ、怪訝そうな表情でこちらを見だした。
 そして訪れる沈黙の時間。

 もしかして、話題ふりに失敗してしまった!?
 時間と共に手の平からいやな汗が滲み出る。

「ボクのは万人受けしないみたいなんだけど、それでも知りたいのかな? 」

「あっ、ああ」

 そこで真琴は顔を綻ばせた。

「ふふっ、まーもちろんボクが書くからには18禁スレスレのR15作品になるわけなんだけどさ、ジャンルは悩ましいところだけど、どちらかと言えば恋愛になるのかな? 」

 よかった、どうやら話題振りに成功したみたいだ。
 好んで恋愛作品を観たりはしないけど、この生まれた話題と言う名の火を消さないよう細心の注意を払って相づちを入れていこうと思う。

「へぇー、恋愛作品書いているんだ。やっぱり女の子は恋話が好きなんだね」

「まーボクの作品はアクション性が強いから、どちらかと言えば恋愛寄りってな感じなんだけどね」

「アクション!? 俺も結構アクション映画とか好きだからさ、でどんな物語なの? 」

 真琴が含み笑いをした。
 そして興奮冷めやらぬ感じで話し始める。

「ダブル主人公でゴリマッチョと細マッチョの視点から各々物語が進むんだけどね、実はこの二人は同性愛者なんだ」

「ふっ、ふーん」

 ズドン!
 いきなりの変化球である!
 ……いや、まだ序盤だ。ここは黙って話の流れに身を任せよう。

「それで並み居る強敵たちから主導権を握るため、互いの異能を使って相手のバックを取り合うんだけど、このバトルがなかなか熱くてね。
 最近では感想に寄せられたリクエストに応じてかなりマニアックな異能も登場してるし、ボク自身もどこまで突き進むのか楽しみでもあるんだ」

 そこで真琴が舌なめずりをしてみせる。

「ちなみにバトルの後はご褒美タイム。
 戦闘中はあんなに憎々しく罵り合いながら縛ったり腹パンチしてたのにさ、背後を取られて耳元で囁かれると契約成立で途端に相手は腰砕け。
 悔し涙を浮かべながらも最終的には受け入れたり、そっちは初体験で今までにない新鮮な反応、違った表情をみせてくれたりとか色々あってね。
 でもやっぱりボクが書いていて真に好きなのは純愛系で、いがみ合ってたけど本当のところでは愛し合ってたりして、それがご褒美タイムで想いを打ち明けてから気持ちが暴走すると燃えるようにお互いを求め合っちゃったりとかして、さらに後日妊娠発覚したりしてさ、あれは本当に堪らない展開で——」

 かなりロクデモナイ物語であった。
 なにが純愛系なのだろうか?
 それに男が妊娠だなんて。

 いや、アズとのくだりを忘れて貰うためにも、ここも流しておくべきなのか。

「へー、そっそういうのが人気なんだ」

「人気はないよ、ただし一部の熱狂的なファンはついてるけどね」

 真琴は止まることを知らない、ドヤ顔で続ける。

「まー、これは二次元の延長線上であるから実際にはそれはそれと割り切ってはいるんだけど、……でもキミも後ろを弄られるのはまんざらではないんでしょ? 」

「俺はノーマルだよ!
 お尻になんて興味ないからね!
 少しでも触ったら本気で怒るからね! 」

「バカな!? ボクの情報が歪曲していたとでも言うのか? 」

「ああ! その情報は絶対におかしいからね! 」

「ちょっとも? 」

「ちょっとも! 真剣な話、触ってきたら当分の間、口を聞かないからね! 」

「そんな事、ウソでも言わないでよ……」

「俺は本気だよ! 」

「うぅぅ……」

 こっ、これだけ言えば大丈夫だよね!?
 真琴を見ればかなりシュンとしてしまった。防衛本能が働いてついつい強く言ってしまったわけなんだけど……ごめん、少しキツく言いすぎたかも。
 でもなんか弱っている真琴も可愛いな。

 元気なく歩いている真琴を手繰り寄せ頭をなでなでしていると、歩く振動で目と鼻の先にある真琴の胸が制服と共に揺れるのが確認できた。
 そこでまた思い返してしまう。
 真琴の柔らかな肌の感触と重み、暖かな香り、そしてあの苦しそうな息遣い。
 その一つ一つが芋づる式で他の全ての事柄を思い出すキッカケとなってしまい——

 あぁこの回想、今朝から何回めなんだろう。網膜にも焼き付いているようで不意にあの時の映像が見えてしまう事もある。
 いやいや、それでも考えないようにしなければ。

 よし、頭の中が整理できたし危機もなんとか去ってくれた事だし、今はこれから行くダンジョンに集中するためにも改めておさらいをしておくか。

 今からダンジョン魔術師の洋館にて、真琴とアズが得点を競い合う。
 得点はヴィクトリアさんがモンスターに点数を割り振り、倒すとその点数をヴィクトリアさんがカウント、獲得出来る仕組みだ。
 他にもボーナス得点とかもあるそうで。

 競争はダンジョンに入ったと同時に開始、そして終了の合図は誰かがダンジョンボスを倒したら。
 そしてその時点でトータル獲得点数が高いほうが、この競争の勝者となる。
 真琴とアズは獲得点数は互いのがわかるそうなんだけど、ダンジョンの中腹を越えると自身のポイントしか確認出来なくなるそうな。

 ちなみに俺は、最初から最後まで二人のポイントは見れない。仲間はずれ発動です。
 そしてNGワード、NG行動が設定されているらしく、それもまた俺だけがその内容を聞かされていない。

 最初はこの競争にあまり関心がなかった俺だったんだけど、このようにルールには秘密が多くあり好奇心が刺激されたためヴィクトリアさんに少し質問をしてみた。
 するとどうやら、俺がそのNGワードを『言ったりする』と減点される仕組みになっているのだそうだ。
 つまり俺との会話でその言葉を俺が話せば会話の相手が減点され、そしてどうやらその言い回しのため、言う以外にも減点される仕組みがあるらしい。

 あと教えて貰えたのは、二人は俺から離れすぎてはいけないと言う事だ。
 つまり俺のお守りを相手に任せてモンスターを狩りまくる、って行為が出来ないわけだ。

 でもこれって要は、俺が足手纏いって事だよね?
 ……なんだか悲しくなってきました。

 ウオッホォン、いまはおさらい中である。
 気を取り直して——

 勝者の報酬は明日、なぜかイドの隣町であるロンドの街にて俺とのデートである。
 はぁー、今はダンジョンボスがいるみたいだけど、入る前にでもどこかの冒険者さんが倒してくれてたりしてたら、この競争自体なくなるのになー。

 とにかくこの競争、個人的にはどちらにも悲しい思いはして欲しく無いので、中に入ったら両方とも怪我しない事を祈りながら二人を応援しようと思っていたりします。

「こちらです」

 クロさんの誘導の元、街道から外れ小道に入った。
 そこはまるで獣道のように人が草木を踏みしめる事で出来た細い道で、現在背丈ほどもある高い雑草に囲まれた道を進んでいる。
 そこをさらに進んでいくと、背丈ほどの雑草より頭ひとつ高い、赤黒く錆びていまにも折れそうな鉄柵が見えてきた。

 どうやらここら辺からが洋館の敷地のようで、この錆びた鉄柵はその敷地をぐるりと取り囲むようにしてあるそうだ。
 こんな所を通るのか。

 鉄柵の切れ目から敷地内に入るも変わらず獣道が続く。
 それからひたすら左右へ蛇行する道を進んで行くと、やっと眼前に朽ちた洋館が見えて来た。
 そして洋館は、はっきし言ってイメージしていた物よりかなり小さかった。
 建物は二階建てで、大きさはちょうど廃校寸前の古びた木造建築の小学校ぐらいの大きさであり長さである。
 そこまで大きくないけどこの中は迷宮になっているため、もちろんこの外観の大きさと内部の広さは全く異なっているそうだ。

 洋館の入り口付近にまで近づくと、そこは多くの冒険者が行き来するため草が踏み固められちょっとした広場になっていた。また切り株などに腰掛ける数名の冒険者らしき人たちの姿も確認出来た。

 そして観音開きである洋館の正面扉、ダンジョン出入り口付近には例の如く深い霧が立ち込めている。
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