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第2章

第14話、光り輝くランプイーター

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 なにかが近づいてくる!
 ギシギシと音をたてながら天井裏を通って! 

 そしてその音は、目算で約十メートルほど離れた所にまで近づいたところで急に途絶えてしまった。
 ただしその代わりといった感じで、今度はその音が消えた付近に設置されている魔法のランプが、突如その明かりを完全に消してしまう。

 不気味な沈黙が辺りを包み込む。
 すると今度は目と鼻の先の一帯から先にある、廊下のランプがゆっくりと点滅を続ける。
 緊張で喉が乾いてくる。

「来ます! 」

 クロさんの叫びと同時に派手な音を立ててなにかが、ランプが消えている一帯の天井をぶち破って廊下、赤い絨毯の上へぼとりと落ちた。

 なんだこいつ!?
 床に這いつくばるのは闇の塊。

 そう、そいつは一見すると闇の塊から腕が生えている化け物に見えた。
 その体には深い闇が絡みついているため、腕以外の輪郭部分が辛うじて見えるのみ。
 またそいつが目の前に落ちると同時に、闇の風と表現するのが妥当な、暗く湿った空気が膝下をサッと流れてくる。
 その黒風こくふうは壁に当たると空気中に舞い上がり、あっという間に廊下全体に飛散、こちらの明かりも刻一刻と奪っていく。

 ……この暗い廊下の感じって、夜霧に包まれた道路に浮かぶ街灯の光のそれに似ている。
 頭上のランプのみが俺たちの唯一の頼みなんだけど、それ以外の明かりは僅かにランプの周辺だけを照らしているのみで、廊下にポツポツと弱い光の円形が出来上がっているのが辛うじて見えている。

「ユウトは下がってて」

 真琴だ。前後が逆転、いつの間にか俺の前を陣取る真琴が強烈な視線を闇の中へと向けている。

 俺もすかさず姿がよく確認できない目の前の敵に対して目を細める。
 すると『TYPE-182光り輝く灯火喰らいランプイーター』と伝わってきた。

 そこで数歩前に立つクロさんが動いた!
 素早く背中のリュックに上から手を差し込むと、先端が尖った5センチ程の細長い石をそれぞれ指と指の間に挟む形で三つ引き出す。
 そして真横の壁に向かいさっと石を持つ腕を横手に振ると、それらの石をカッと音を立て勢いよく擦り付けた!
 するとその石は壁と接触した僅かな部分から暖色系の光を放ち始め、それらが次第に石全体へと広がりを見せる。そしてさらに明かりを強める光は、クロさんをほぼ包み込む形で闇を払っていく。

「クロさん、それって? 」

「えっ? あっえと、これは魔光石まこうせきです! 光は5分ほど持続します! 」

 クロさんは言いながらその石、魔光石をサイドスローで素早く前方の闇へと放った。
 魔光石はその周囲の闇を払いながらカンッカカンッと音を立て数度バウンドしたのち、そいつの手前で各々止まった。

 そこで照らし出される姿。
 真琴がゴクリと唾を飲む音を立てる。

 こいつは——
 今まさに立ち上がろうとしていた闇に浮かぶそいつは、完全に人と同じ形をしていた。
 しかし人と同じと言える部分はそこだけで、それ以外は普通の人間とはかけ離れた異質は姿、かなりのインパクトである。

 真っ白なペンキを無理矢理塗られたような色の素肌に、スキンヘッドである奴の瞳は白目部分がなく全てが黒目。
 そして今まさに俺たちへ威嚇をするように雄叫びを上げ始めた口には、魔光石の光を受けたためなのだろうか、マッドなマックスの特攻兵くん達も尊敬するようなギラギラと銀色に輝く剥き出しの牙が並んで見える。

 あれは骨?
 いや……違う。

 カクカクと不必要に曲がり続ける全てのありとあらゆる関節部分には、黒結晶ブラッククリスタルのような角張った長方形の物が真っ白な皮膚から少し飛び出している。
 またその飛び出した黒い何かからは、絶賛黒い霧状のなにかが空気中に散布され続けてもいる。

 かなりやばそうな奴だけど、とにかく急に暗くなった原因だけは分かった気がする。

『バッシュ! 』

 闇が真横、一直線に斬り裂かれる!
 またそれによって俺たちからモンスターへ向けて直線上の視界がクリアになっていく。
 やったのはアズだ。
 問答無用で闇ツララの一本を、奴に向け射出させたのだ。

 闇を真っ二つに斬り裂きながら疾走する闇ツララ。
 また吸い込まれるようにして突き進むそれは、あっという間に直撃。モンスターの口内に飛び込んだ闇ツララが派手に頭部を破壊し突き抜ける。

『ベベチャッ』

 奴の身体の後方付近の絨毯と、その両脇である壁と窓ガラスに血肉が飛び散る。

 やっ、やった! 
 あっという間に倒しちゃったよ。

「ユウト、まだ油断しないほうがいいよ」

 俺の前に陣取っている真琴の忠告。
 彼女は頭部を破壊されたモンスターへ警戒を解くことなく、ユラユラと揺れながらまだ視線を向けている。

 えっ、なんで?
 モンスターは攻撃を受けた反動で仰け反る形で止まっているのに。
 ……あれ? そう言えばまだ、モンスターが消失する前に起こる、黒い霧を撒き散らしながらの霧散をしていない。
 そこで黒髪の中からピンッと両耳を立て猫足立ちになっているクロさんが真琴とアズの横に並ぶ。

「やっぱりそうでしたか!
 その敵は例のAクラス冒険者パーティーが最上階で遭遇したという灯火喰らいランプイーターです!
 身体の至る所にある黒い部分の全てが奴の心臓のようなもので、その全てを破壊しない限り奴は前進を続けます! 」

 なんだって!?
 たしかにピクピク痙攣しだしたかと思ったら、こちらへ向けてゆっくりと歩き始めている!

「ならその心臓を全て破壊すればいいわけね」

 アズの眼前には、新たに作り上げた闇ツララ2本。
 そして突然ピシッと音が鳴った。闇ツララに亀裂が入ったのだ。その亀裂は一瞬で縦状にいくつも走ったかと思うと、そのまま闇ツララが砕け散ってしまう!?
 ——いや、あれは砕け散ったというよりも。
 それにあの割れた形状には見覚えがある。

 割れてもなおプカプカ浮かんでいる闇ツララの破片は、先日真琴とアズが戦った時に見た、イナゴの群れのように感じたアズの闇ツララ小さいバージョンである。

「あははっ」

 アズが笑いながらに闇ツララの小さいバージョン、いや闇ナイフの群れを一斉に飛ばした!
 その何十もある闇ナイフは、一瞬にしてモンスターに降り注ぎ、その白い肉もろとも黒い部分へ直撃! 次々と破壊していく。
 その光景は壊れたマリオネットのようで、攻撃を受けた反動で踊りを披露してみせるモンスターはついには霧散、黒い霧となりその姿を消失させた。
 すると闇も晴れていき、廊下も先ほどのただの薄暗い廊下へと戻った。
 また切れかかっている蛍光灯のようなランプの点滅も、これを機に回復をした。

 そこで息を潜めていたヴィクトリアさんが一歩前へと出る。

「ダークネスさん、今の攻撃でコンボが発生しました。それと瞬殺ポイントも一緒に加算されます」

 俺たちの緊迫した状況なんてなんのその、独り涼しい顔で説明するヴィクトリアさん。

「へぇー、雑魚だったけどおいしい相手ね。
 また出ないかしら」

 腰に手を当て鼻を鳴らし余裕の表情のアズ。

「くっくそ、今度出たらボクが狩ってやるんだからな! 」

 負け惜しみ感が甚だしい真琴。
 そんな真琴たちのやりとりをポカーンとした表情で見つめるクロさん。
 そしてクロさんが頭を何度か左右に振ったあと、現実に戻ってきた。

「——でもそうなると、お嬢様たちが強いという事をダンジョンが感じ取っているという事なので、これからは細心の注意を払って——」

 そして先ほど投げた魔光石を拾いながらなにやらブツブツ言っている。
 それから探索を再開させた俺たちは、各部屋のモンスターを狩りながら薄暗い廊下を進んでいく。
 そして突き当たりにまで行きつく。
 そこで今までと同じように道なりに右へと曲がろうとしたのだけど、曲がった先にはひときわ大きく分厚そうな古びた観音開きの扉が設置されていた。

 とても嫌な予感がする。
 そこでクロさんが口を開く。

「ここの扉が閉まっているという事は、フロアボスが復活している状態という事です。
 これから先は、特に気をつけられて下さい」

 そこでみんなが足を止める中、アズが物怖ものおじせずに一歩を踏み出す。

「さぁ、狩るわよ」

 その横顔は心底嬉しそうであった。
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